探索3
ラテン語は適当です。
レーイは気を取り直して、自分の目の前に跪いた2人の精霊に命じる。
「2人には、暴れる好戦性精霊と、それを操るものを探って欲しい」
「うむ、それなのだが、すでに仲間を感知できておる」
この方向じゃ、とイグニクルスは杖で精霊がいるらしい方向を示した。
「ですが、変ではありませんか?」とアレーナ。
「どういうこと?」とレーイが訊くとアレーナは頷いて、先を促すようにイグニクルスを見た。
イグニクルスは、説明を任されたと理解し、口を開く。
「使役されているであろう下位の精霊の気配はない。じゃが、中位の者の気配がある」
「その存在が使役している精霊なのでは?」とレーイ。
「じゃが、呼びかけに応じん。アレーナ、おぬしはどうじゃ?」
「同じです。反応しません」
「反応が無いと、何か不都合があるのですか?」と何も知らないエライアスが訊く。
うむ、と頷いてイグニクルスが説明を加える。
「好戦性精霊にも2種類あってな。大昔には敵味方に別れて戦っておった。今となっては何の価値もない区分じゃが、いまだにそれを重視する者もあってな。初めて会う精霊には慎重に接触する必要があるのじゃ」
「反応が無いなら『敵側』ということでは?」とエライアス。
「いいえ、本当ならハンドシェイクには応じるものなのですが、それすらないのです」
「ハンドシェイク?」
「あ、えーと、わたしたち流の挨拶の方法です」
「ふむふむ」とエライアスはカバンから取り出した紙にメモを取る。知らない言葉は書き留めるのが彼の習性だった。
「ともかく、ハンドシェイクに応じないということは、精神干渉型。そうでなければ……」
「うむ、主人レーイよ、警戒を厳にすることをお勧めする」
「理由は?」
「異常事態かもしれんからじゃ」
「具体的には?」
「相手の精霊は、特殊精霊あるいは、……壊れているかもしれんということじゃ」
イグニクルスの声は後半で低くなり、どこか脅しめいて聞こえた。
「特殊精霊とは何ですか?」とエライアスが空気を読まずに質問する。
「儂ら精霊の天敵のような存在の精霊のことじゃ。これに関わるのは危険すぎる」
「では、壊れているとは?」
「文字通りです」とアレーナが答え、先を続ける。「精神もしくは肉体、もしくはその両方に欠損を負った精霊。場合によりますけど、これも危険な存在なのです」
レーイは頷いて、口を開く。
「早急に探索して欲しい。その結果が特殊精霊だった場合は撤退する。だが、壊れた精霊だった場合は、2人に任せる」
「仰せのままに」とアレーナが礼を取る。
「御意に。では、壊れていた時は、我々の流儀に従い、送らせてもらうとしよう」
「そうして欲しい」とレーイは頷いた。
「良いか、アレーナ。探索は儂とお主が同時に行う」
「承知しました」と応じたアレーナの姿が忽然と消える。高機動状態に入ったために、姿が見えなくなったのだ。
対してイグニクルスは、「Veni aut natus es, Spiritus Flammae……」と詠唱を開始する。すると、どこからともなく、いくつもの淡い光が現れ、イグニクルスを取り巻いた。
「Opus vestri quaerere est……」
そして最後に、「Ite」とイグニクルスが告げると、すべての光は勢い良くばらばらに散っていった。
「今のは、何ですか?」
やはり興味津々の様子のエライアス。
「何のことはない、ただの精霊使役じゃよ。下位の者に探索を命じた」
「そうなんですか。ところで、アレーナさんは、どうして消えたんでしょうか?」
「あれには使役の権能は無いからの。自分で探索しに行ったのじゃ。……むぅ」
突然唸ったイグニクルスは、右目を手のひらで押さえた。
「どうしたんですか?」とエライアス。
「見つけた?」とレーイ。
「仰せの通り」とイグニクルスは答えたが、表情はどんどん渋くなっていく。
そこに、アレーナが姿を見せた。
「アレーナ、見たか?」と問うイグニクルスに対して、アレーナは愕然とした様子で、「はい。……あれは」とだけ口にした。




