闇魔術(アルス・カリゴニス)2
念の為の注釈になるが、『闇魔術』は『召喚魔術』ではない。『召喚魔術』では、空間や次元を超えて、ある存在をその場所に呼び寄せる訳だが、『闇魔術』は、そのようなプロセスを踏むことはない。元々、存在するともしないとも判然としない(そんな状態だから質量も無く、時間にも制約されない)物が確固とした存在の状態を得るというプロセスになる。
ゆえに、『闇に溶けた』存在はレーイから付かず離れずの空間・時間に『存在する』とも言えるが、逆に『闇に溶けている』が故に『存在していない』とも言える。
まあ、居るのか居ないのか判らない存在がレーイの依頼に応じて現れたり消えたりする。それが闇魔術の『曖昧化』と『曖昧化・解除』だと思ってもらえれば良い。
「俺の勝手なイメージでは、魔術というのは炎や水を自然の原理に逆らって操作するものだと思っていたんだが」
「その考えには肯定すべき点と修正すべき点が含まれている」
「ほう?」
「まず、肯定すべき点。炎や水を自在に操るのが一般的イメージだということだが、それはある意味当たっている。持力術や一部の符術などはまさにそのような事象を励起する。その意味では闇魔術が特殊なのだ。次に、修正すべき点だが」
「うん?」
「魔術はすべからく、自然の原理に則って作用する。逆らっている訳ではない。ただし、一般人の目には、自然に反しているように見えるかも知れない」
「なるほど」
「今の説明で納得できるのか?」
「反論できるほどの情報が無い、というのが本当のところだね。今はそういう物なのだと聞くだけだ」
「そうか。そうかも知れないな。……私にしてみれば、世の中がこれほどまでに魔術が衰退して居ることに驚いているが」
「衰退というより、消滅と言って良い。魔術を使う者はおろか、知っている者すら遭遇することは稀だよ」
「なぜ、そんなことに?」
「それを調べるのも俺の務めだと思っている。判っているのは、少なくとも300年前には術士と呼ばれる存在は絶えたと言うことだ」
そう言ってエライアスはにこりと笑うと、「そんな訳でカムネリアに行ってみたいだけど、連れてってくれないかな?」
「無理だな」
レーイはにべもなく即座に拒否する。
「理由を聞いても?」
「私は形式的にとは言え、カムネリアを追放された身の上だ。舞い戻ることは許されない」
「なるほど。では、村の位置を教えることは可能?」
「教えるのは構わないが、恐らく結界に阻まれて近づくことは叶わないだろうと思う」
「そうか」と言うと、エライアスは、がっくりと項垂れた。しかし、それも束の間。
「そうなると、レーイ。君を付かず離れず観察したいのだけど、どうかな?」
「私を? ……構わないが、それがそなたに意味があることなのか?」
「もちろんだ」
「ならば、好きにすれば良かろう」
エライアスの提案はストーカーすれすれの発言だが、レーイはそれを気にとめる様子は無い。一応、断っておくと、エライアスにもストーカー的意図は全くない。言っていることがそれっぽい、と言うだけだ。念の為。




