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宿屋のケルス4

「私としても、知らぬ者を手にかけるのは本意ではない」

レーイもレーイで負ける気は全くない様子。

「レーイ、仲間同士で殺しあう以外に方法は考えられないのか?」

ため息混じりにエライアスが問う。

「判らない、というのが本当のところだ。私は殺しあえとしか言われていないのだから」

「情報が足りな過ぎるな……だが、逆を言えば抜け道が存在する可能性も、ある」

「殺さずにすむ方法か。それがあるなら、私としても仲間を手にかけたくなどない」

「そう言うことなら……。ケルス、君は彼女、レーイと行動を共にする気はあるかい?」

「それはどういう意味だ?」

「レーイに協力する気は無いか、ということだ。その代わり、娘さんのことは俺が何とかする」

不審そうにエライアスを見るケルス。

「レーイと一緒に行動していれば、君が娘さんと遭遇する可能性も高くなるだろう?」

「なるほど。そうして見張っておいて、いざという時はエヴァに味方して救い出せば良い訳か」とケルスはレーイを睨みつける。

「わざわざ敵に回る人間と行動を共にするとでも思うか?」とレーイは拒絶する。

「そうなる前に、俺が対策を探し出す」とエライアス。

「そう簡単に事が運ぶとも思えないが……」

レーイは半信半疑につぶやいた。

「なんとかしてみせる。だから、ケルス。君はレーイに協力しろ」

「判った。俺はそれで構わない。だが、この娘が首を縦に振るとは思えんな」とケルス。

「そうだ。私には何もメリットがない」とレーイはケルスに賛同する。

しかし、エライアスはすべて判っているとばかりにニンマリとして見せた。

「フェルマイル族は精霊使いの一族だろう?」

エライアスの問いに、当然とばかりにケルスは「そうだ」と頷く。

「そしてレーイ、君の戦いは魔術を使用したものになる。違うか?」

「いや、違わない。『カヴァリエリの徒』は、多かれ少なかれ皆、魔術を嗜んでいる」

「そこで精霊使いのケルスの出番、と言うわけだ」

「なるほど。精霊使いなから、確かに魔術戦争に介入も可能だろう。……しかし」

レーイは、訝しみの表情でケルスを見上げる。

本当に信用できるのか?

と言うのが、レーイの本心だ。ケルスの娘を思う気持ちは本物だ。それだけに、いつ敵に回るとも限らない人物に背中を預けるのは無理がある。

その一方で、魔術戦争に参加できる人物が味方につけば、心強いことも確かだった。

「だから、俺が殺しあいにならないための方策を探し出す。それまではケルスの娘との戦いは避けてくれればありがたい」

どういう根拠があるのか判らないがエライアスは自信満々にそう宣言した。それをレーイがじっと見つめる。

「判らないのは、そなたも同じだ。そんなことをして、そなたに何のメリットがある?」

「メリットならある。俺も君の戦いに同行させてもらうことで、見聞を広めることが出来るからね」

「見聞? つまり、知識か?」とレーイは腑に落ちない様子で、小首を傾げた。「知識が大事であることは私も同意するが、メリットとしては少ないと思うが?」

「そんなことは無い!」とエライアスは全力で否定して、「なんたって魔術だよ? この世界から失われて久しい魔術に関する知識が手に入るんだ! これは大きいメリットだよ!」

「……」

興奮したエライアスの剣幕に押され、レーイは沈黙する。

「あー、レーイとやら」と声をかけたのはケルス。「このエライアスという男は年代記作家を自称している。知識を得ることは、こいつにとっては食べ物を得るのと同じということだ」

「なるほど。納得がいった」

「失礼な! 自称じゃない!」

エライアスは『自称』と言われたことに憤慨する。

「だったら、お前が書いた『年代記』とやらを見せてみろ?」とケルス。

これに対して、エライアスはぐっと唸って黙り込む。

「つまり、エライアス著の年代記はまだ世に出ていない、と言うことだな」とレーイ。

また、エライアスが唸る。

「い、今に必ず出版してみせるからな!」

よほど悔しいのか、エライアスは目尻に涙を浮かべていた。

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