宿屋のケルス
レーイとエライアスは果物屋に戻り、改めて代金の話をした。その課程で、レーイに釣りの概念が無いことが明らかとなり、店主とエライアスが2人がかりで説明することになった。
そして肝心の代金だが……結局、レーイが持つ貨幣は大金しかなく、エライアスが代わりに払うことになった。
「ありがとう、エライアス。小銭が出来たら必ず返す」
金銭の知識を得たレーイは、すまなさそうにそう言った。
「これくらいの金額、返してもらう必要も無いよ」
「しかし……それでは借りを作ることになる」
「これから俺が作る借りの方が大きいから。本当に気にすることはないよ。それより、これからだけど、俺の行きつけの店に行くので良いかな? そこで話を聞かせて欲しい」
「判った。わたしとしては泊まる場所が探せればそれで良い」
「だったらちょうど良い。今から行く店は宿も兼ねてる。店と宿の主人は俺の知り合いだから、気兼ねする必要も無いよ」
「それはありがたい」
「じゃあ、行こうか」
エライアスが歩き出すと、それに従ってレーイも歩き出した。
小道を抜けて大通りへ出、そかから2人は街の中心にあるゲイル城の方へ向かった。大通りは小道とは違い、道の中央を馬車が往来し、両端を大勢の歩行者が行き交う。その中には商売をしに来た者の他、白い服の巡礼者の姿も多く見かけることが出来る。このゲイル市の神殿は十二神教の本山の1つに数えられており、巡礼者が季節を問わず訪れることで有名である。
やがて、レーイとエライアスは大通りに面した宿屋に辿り着いた。
レストランとなっている1階に足を踏み入れる。昼過ぎという時間帯のせいもあってか、客の数は少ない。その客の何人かがエライアスの姿を見つけると、「よう! 年代記のだんな。面白いネタは仕入れたかい? 話してくれよ」「ずいぶん久し振りだな、どこに行ってたんだ、だんな!」などと気さくに声をかけてくる。
エライアスはそれを「また今度な」「今回は東の方に行ってたんだ」などと答えながらカウンターに向かう。レーイはその後にくっついて歩いていたが、客たちからの奇異なものをみる目はここでも変わらなかった。ただ、客たちには一目置かれているらしいエライアスが連れてきたこともあって、レーイにちょっかいを出そうという輩は居なかった。
「やあ、フィリスは居るかな?」
と、エライアスはカウンターの向こうに居る赤髪の巨軀の男に対して、馴染み客らしく気軽に声をかけた。
しかし、返ってきたのは。
「居ない」
その低い声は、ぶっきらぼうを通り越してドスが効いていた。表情も固く、もはや喧嘩腰としか思えない。
レーイは身構え、僕を呼ぼうと口を開く。だが、それを、エライアスが遮った。
「大丈夫。こいつは、これがいつものことだから」
巨軀の男は、つまらなそうに、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「こいつはケルス。いつの間にかこの宿に居着いて、いつの間にか店番をやってる変わり者だ」
「お前にだけは言われたくない」
ケルスと呼ばれた巨軀の男はそう言い捨てた。
「いや、変わり者という点では俺も自覚があるけど、お前ほどじゃないぞ⁈」
いかにも心外と言った様子で文句を言うエライアス。
「嘘をつくな」とケルス。
「いやいや、お前のほうが変人だろう?」
「また始まった!」と客たちから声が上がる。
「エライアスのだんなは遺跡だの古い話を集めるだのしてる変人だろう?、ケルスは精霊とかなんとか判らないことを話したがる変人」
「どっちも変人なんだからあいこで良いだろう?」
「ひどいな、君らの認識は間違っているぞ!」
「だから嬢ちゃん」と客の1人がレーイに向かって、「エライアスのだんなとどういう知り合いか知らないが、変人だから気をつけた方が良い」
レーイは、「忠告は素直に受けよう」と頷いて、それからケルスの方へ向いた。
「ケルス殿、もしや、そなたはフェルマイル族に連なる者ではないか?」
「なぜ、そう思う?」
ケルスは不機嫌そうに眉を寄せる。
「そなたのような燃えるような赤い髪はフェルマイル族に特有のものと聞いたことがある」
「ふん、お前の言う通りだ」
「なぜ、フェルマイル族がこんなところに居るのだ?」
「それを知ったところで、お前にはなんの関わりもない」
「ふむ、それもそうか」




