【風使い外伝】シューティングスターターあぶみ!(3)
「隕石って虎走、どういうことだよ」
「あのですね……宇宙から隕石がこの街を目がけて降ってきているんです。もう少ししたら大気圏に突入かなあ……って」
もちろん、これは私のせいです。
さっき膝を抱えて絶望している間に、無意識に願った世界の滅亡――それが、私の魔法によって、形になって今、この街を滅ぼそうとしているのです。三十個もの隕石が降ってきたら、果たしてどれくらいの被害になるのか……分かったものではありません。
「つーか、何言ってんだよ。何でお前にそんなことが分かるんだ?」
「えっと……その、私……予知! 予知能力者なんです! だ、だから、ちょっと未来のことが見えちゃうっていうか……」
「為末くんのことは見えなかったのにか?」
「うぐ……」
先輩、こんな時だけ鋭いです。
「う、うーんと、それは冗談で……あ。私はですね! 実はNASAの女スパイなんです。健康的美少女アスリートというのは世を忍ぶ仮の姿。地球を隕石群から救うために嵐谷高校に潜入していたんです」
「NASAってお前……」
苦しいでしょうか、苦しいですよね。なんという苦し紛れの言い訳なんでしょう。ほら、先輩も難しい顔をして――
「すげえじゃん! マジか……じゃあ、本当に隕石が近づいてるんだな!? どうやって止めるんだよ?」
「…………マジですか」
「あん?」
「い、いえ、何でもないです」
どうやら上手いこと騙されてくれたみたいです。
「うーんと、たぶんほとんどの隕石はどうにかなると思うんですけど、もしかしたら一つ、二つは落ちて来ちゃうかもなんです。だから、せめてこの動物園の中だけでも、みんなを避難させないと……」
そうです。
三十個の隕石が地球に向かっていますが、たぶん、九割がた撃ち落とすことは私にも可能です。
前に調べた通り、隕石が燃え尽きずに地表に届くには、進入角度が重要です。
今現在、地球に落ちようとしている隕石たちは、『正しい角度』で向かっているはずです。であるならば、その隕石の軌道を少しズラしてやれば――角度を変えてやるだけで、大気圏で燃え尽きてしまうことでしょう。
だから、別の隕石を呼び寄せて、今向かって来ている隕石の横っ腹にぶつけてやれば、それでほとんど解決のはずです。
それでも、すべて上手くいくとは限らない。
角度を変え損ねたいくつかの隕石が、大気圏を突破する可能性は決して低くありません。一つの隕石ですら大きなクレーターを空けるほどの威力です。そんなものがこの動物園に落ちてきたら……当然、大惨事です。
止めなければいけません。
被害を最小限に防がなければ。
地球の外で撃ち漏らしたなら、最悪、大気圏の内側で、着地するまでの間に迎撃するしかありません。たとえ私が逃げ遅れて、隕石に潰されることになったとしても、それが私の責任です。独りよがりにいじけて、気ままに世界を滅ぼそうとした――私が成すべきことです。
「ですから先輩――私はNASAの任務があって残らないといけませんから、先輩は避難放送を流してもらうよう、係員の人を説得してもらえませんか……無茶苦茶なお願いですけど、頼れるのは先輩だけで……」
「残るって、お前はどうするんだよ?」
「私は――大丈夫です」
大丈夫じゃない。まったく、ダメダメですけども。
「要はさ、隕石をどうにかすればいいんだよな? 三十個――じゃなくて、一、二個だっけか?」
「要は――って、それはそうですけど、でも……」
先輩は少しだけ考える素振りを見せていましたが、ひとつ大きく頷いて、自信たっぷりに言いました。
「よし。僕に任せろ」
+ + +
隕石の墜落まで、あと一分を切ったころ。
風見先輩は仁王立ちになって、
「じゃあ合図、よろしく頼むぜ」
先輩は、精神統一のために目を閉じました。
合図――
隕石が落ちてくる方角とタイミングを合図しろ、と先輩に言いつけられた私は、何がなんだか分からないままに――先輩の勢いに押し負けて、その傍らで立ち尽くすのです。
どうにかするって、風見先輩にどうにかできるんでしょうか。なぜこんなにも自身満々に構えていられるのやら……そもそも、よくこんな私の妄言を信じてくれたものです。器が大きいのか何なのか……。
いえ。
そんなことをグダグダ考えても仕方ありません。どっち道、今から避難誘導をしたところで手遅れです。それよりもまず、私がすべきことは宇宙での迎撃――すべての隕石の軌道を変えることができれば、それに越したことはありません。
集中。集中。集中……。
私には隕石のイメージが見えます。集中して、自分の頭の中に潜るような感覚です。
そうすると、まるで私は映画館のシートに座っているような感覚になって、スクリーンには、リアルタイムの隕石が映し出されるのです――宇宙の暗闇の中を、いくつもの隕石が飛んでいる――そこに、別の方向から、迎撃用の隕石が衝突して……………………。
ああ!
二つ……いや、三つ!
隕石を三個も撃ち漏らしてしまったようです!
もう、本当に私は締まらない――
「すみません! 先輩、三つ落ちてきます! ……角度は……先輩から見て十時の方向! あと少しで視認できます……」
先輩からのオーダーは、『目で見える距離になったら』ゴーサインを――スタートの合図を出せというものです。
あと五秒――「位置について」
三秒――「よーい」
一秒……!
キラリと、青空に一点の光が輝きました。
「スタートです、先輩!」
私の声を受けて、先輩がカッと両目を見開きます。
十時の方向、隕石が落ちてくる空を見上げて、先輩は吠えました。ウオォオオオ! と、両の拳を握りしめ、腰を落とし、隕石に向かって大きな声で叫ぶのです。
――それは、この動物園にいるどんな獣よりも猛々しくて荒々しい、天を衝く咆哮でした。
ビリビリと辺りの空気が震え――檻の中のライオンや象、キリン、ペリカン、果てはナマケモノまで――他にも色々の動物たちが、まるで先輩に同調するかのように、けたたましく空に向かって声を上げました。
間違いなくこの時、動物園全体が激しく震えたのです!
――青空に光る三つの光点。
隕石は遠くの空から、飴玉みたいな大きさで、そして激しく光りながらこちらへ落ちてきます――次第に大きさを増すその隕石は、しかし途中でブルブルっと軌道がぶれたかと思うと、一際激しい光を放ち……
パァン――と弾けました。
周囲の雲が激しい衝撃波を受けて霧散します。
風見先輩の咆哮に驚いていた小さな男の子が、空を指差して言いました。
「あ、流れ星!」
砕け散った隕石の欠片は、ひとつひとつ、キラキラと光る流星になって、青く澄んだ空の四方へと散っていくのです。いくつもの流れ星は、夏の線香花火のように、中空でその形を失って消えていきます。
これって、一体……何なのでしょう。
風見先輩がこれを?
「すごい……」
空をぽかんと見上げながら、思わず間抜けな声が口をついて出ていました。
その時。
小さな流星のひとつが、こちらに近づいてくるのを、私は見つけました。
落ちていくその方向は――為末くんがいるはずの『ふれあいコーナー』。
次の瞬間、私は駆け出していました。
(【風使い外伝】シューティングスターターあぶみ!(3) 終わり)




