【風使い外伝】シューティングスターターあぶみ!(1)
《まえがき》
さて、始まりました新章、虎走あぶみの裏事情です。これまでとはやや毛色の違う外伝……かもしれません。
星に願いを――
流れる星に願いを掛ければ、神秘の力で叶えてくれる。
+ + +
……のだそうです。
それは去年のこと――中学三年の夏休み。私は夕ごはんのあと、家のリビングでテレビを観ていて、画面いっぱいに映し出されたオーロラに心を奪われました。
三角形の木々が並ぶ森の、その上空。
七色に輝く光のカーテン。
「いいなあ、行ってみたいなあ……」
歯牙ないサラリーマン家庭の、一般的な女子中学生であるところの私がそんなことを願ったところで――簡単に海外旅行になんて行けないことくらい、百も承知でした。
それでも、願うくらいは構わないでしょう。
夢見る少女の特権です。
問題なんてあるわけない。
そう思いました。
――思っていました。
翌日、オーロラをかき消すような巨大隕石が、その森の上に降ってくるまでは。
世界的なニュースになりました。
木々をなぎ倒し、火災を巻き起こし、地面にはポッカリと大穴が開いてしまったのです。オーロラ見物の名所だったその場所は、見るも無惨な有様になり果てました。
「行ってみたい」と願った私の代わりに、流れ星がオーロラを見に行ってくれたみたいです。
流れ星に私の願いを叶えてもらった――のではなく、
流れ星が私の願いを叶えてしまった――みたいな。
ただの偶然だろうな、と思って。
私は地図アプリを開きながら、太平洋のはるか沖――海のど真ん中をイメージして、
『隕石よ落ちろッ!』
と念じ、果たして現実のものになるのか、という実験を試みました。
結果は――、
『相次ぐ隕石、今度は太平洋に! 世界滅亡の前兆か!?』
翌日には、そんなニュースが流れました。
いえーい!
大成功!
……じゃなくってですよ。
後になってようやく気づいたことですが、海の上とはいえ、偶然船が通りかかっていたら大惨事になるところでした。海の生態系は既に乱しちゃったかもしれません。反省です。
なんでお星様は、こんな物騒な魔法を私に授けてくれたのでしょうか。
せめて、落ちてくる隕石の大きさを上手くコントロール出来ればいいのですが……調べてみると、隕石というのは、ほとんどが大気圏を突破する前に燃え尽きてしまうらしく、私にそんな計算――進入角度とかいろいろ――が出来るわけもなく、サイズ調整はかなり難しそうでした。
チカンの撃退とかに、使えるかもしれないと思ったんですけど。
このままだと、この町ごと吹き飛ばしてしまいそうな勢いです。中学生が使うには攻撃力が高すぎます――いえ、高校生になら似つかわしい攻撃力かというと、もちろんそんなこともないでしょう。
私、虎走あぶみは、どうにも厄介な魔法使いになってしまったようです。
+ + +
高校に入ると、そんな私にも、さらにいくつかの変化がありました。
一番の衝撃は、生まれて初めて恋人が出来たことです。
為末くん。
とっても優しくて、頼りになる彼氏です。背もすごく高くて、キスをするときは目いっぱい背伸びしないといけません。
大好きです。
もう、ぞっこん。
もし浮気なんてされたら、勢い余って隕石を落としちゃうかもしれないですね。浮気なんて許せない。町ごと心中しよう。みんなすり潰しちゃえ。浮気相手なんて、消し炭も残さないぞっ!
…………。
……冗談ですよ?
いや、本当に。
たぶん。
そしてもう一つの衝撃が、陸上部での先輩との出会いです。
遭遇――と言い換えた方がいいかもしれません。
セクハラモンスターとの会敵。
風見先輩。
風見爽介先輩。
とっても素敵で、尊敬できる先輩です(そう言えと脅されました)。
順序で言えば、為末くんと知り合うよりも、先輩との接触のほうが先でした。
それは四月、不安と期待が入り交じり、緊張でガチガチだった陸上部の練習初日――私たち新入生を前に、風見先輩は言いました。
「二年の風見爽介だ。僕は君たちを平等に扱うからな。男も女も関係ない。ビシビシいくぞ――」
厳しそうな人だな、という第一印象でした……が、しかしそれは、次の瞬間にあっさりと覆ることになりました。先輩は、さらに真剣な表情で私たちの顔を見渡しながら、
「顔の造り、胸の大きさや、スタイルの良し悪しで僕は差別しない。そうさ、戦う女子は美しい!」
「…………?」
短距離を専門にする新入生八名の頭上に、疑問符がたくさん並びました。
「ああ、安心したまえ。僕はいやらしい目で眺めたり、もちろん触れたりはしない――紳士だからな。まあ、逆に僕の腹筋を触りたいっていうんなら許してやってもいい。整理券を配るから、希望者は後で取りに来るように」
その時。
遠くで、カキン――という乾いた金属音が響き、空から隕石ならぬ、野球の硬式ボールが飛んできて、風見先輩の側頭部にクリティカルヒットしました。
ネットで仕切られたグラウンドの向こう側に目を向けると――どうやら打ったのは、選手ではなくマネージャーのようでした。
しかも女子。
パワフルな人もいるもんだなあ……なんて思う私の足下で、風見先輩は目を回してダウンしていました。
これが出会い。
ある意味、為末くん以上の運命の出会いだったのです。
(【風使い外伝】シューティングスターターあぶみ!(1) 終わり)




