神原君のこと
年が明けた。
昔から初詣には行くのが当たり前になったいた。
この世界の神原家もどうやらそうらしい。
と言っても家族で行くことはないようだった。
年末には神棚の掃除をして、仏壇にはお供えをして、玄関には飾りをつける。
(そういえば、両親が亡くなってからは自分でなんとかやってたな…)
準備をしながらそんなことを思い出していた。
年が明けたということはもうすぐこの状況も一年近くになる。
神原は神棚にも仏壇にも真剣に向き合った。
(この世界の神原君は今どこにいるんだろ…)
神原はこの世界の神原の無事を神棚に向かって願い、初詣でも願い、仏壇に向かっても同じことを思っていた。それと、その神原君をこの世界に戻してほしい。寿命が尽きる自分によって迷惑をこうむるのはだめだ。
いろんな考えが浮かんでは消える。
この世界は自分のためだけに準備?され存在するのか…
この世界の神原君は生きているのかな…とか
なんにしてもこの世界は自分の世界ではないはずだ。
自分はもうすぐ寿命を全うし他界するはずだ。
そんなことで神原君がいるとして、彼の人生を狂わせていることになったら…
戻らなければならない…
そういう思いは強くなる。
どうやったら戻れるのか…
この体が神原君のものなら大切にしなければならない。傷つけてはいけない。
死んだら転生…それはよく使われる設定だ。
この世界で自分が事故で死んだら戻れるのか…
神原君は戻った時この体はどうなる…
こんなまるで迷路のような考えが浮かんでは消える。
信号は青になっていた。
なんとなく渡り始めた神原は途中で赤になってることに気が付かなかった。
対向車が近づいてくるのに気が付かなかった。
それが人々の注目を浴びていることも。
「神原君!神原君!」
誰かの声がした。
「誰?」
辺りを見渡して初めて自分がとんでもない状況なのに気がついた。
「神原君!何やってるの!」
そういってきたのは雨宮だった。
「あ…雨宮…どうした?」
「どうしたって…?神原君…まさか…」
さっきまで神原を大きな声で呼んでいたのに彼女は急に大人しく、少し怯えた感じで話始めた。
そうだ…雨宮は…
「ごめん…ごめん…そんな気ないからな(笑)心配させて…でも…ちょっと…」
「ちょっと…て…やっぱり…」
「いや…」
そこまで言って、神原は思いついたことがあった。
「雨宮、ライトノベルとか読むか?転生とか?」
「え?なに急に…」
「寒いな〜どこか入ろう!」
二人は駅の中にあるカフェに入った。
ずいぶん図々しいなあ…俺は…強引だし…
これも老害か…(笑)
どう話そうか考えていいことを思いついた。
「俺、夢見るんだよ…自分が転生してる…」
「はっ?厨二病?大丈夫?(笑)」
雨宮がこんなリアクション取ってくるとは思わなかった神原は話に詰まった。
「そういう小説書いてるってこと…」
「神原君、そんな趣味あるんだ…あ…瑞樹と仲いいもんね〜(笑)」
瑞樹と仲いいことがこんなとこまで知れ渡ってる…ということはオタクだということもわかってるわけだ。これはこれで都合いいと神原は思った。
そこで彼女に自分が夢で体験してることを小説に書いてるということにしてどう思うか聞いてみた。
「おもしろいとは思うけど…聞きたいのは転生の設定だよね…自分のためだけの世界なのか、誰かと入れ替わったのか…主人公はそれで悩む…私だったら…どう書くかな…精一杯生きる…かな」
若者らしい答えだと思った。雨宮は性格はサバサバしてるのかもしれない。あっさりと精一杯生きるだけと答えられる。悩むよりは今を精一杯か…
彼女は自分ならということで、アイディアをくれた。
それは、墓を探すというものだった。
もし、この世界に自分の本物がいるなら墓があるはずだと。
それか病院を探してみると。
神原君と入れ替わってるなら神原君は病院…
元の自分の墓があれば神原君の体に取り憑いている?
とにかく神原は一度病院や墓地を探してみることにした。
病院は個人情報管理には厳しい。
病院を探すと前の世界と同じところに名前が違う病院があった。
受付で前の世界の名前を言ってお見舞いに来たという。
そんな人は入院してません。
そう言われて、間違えたかな…などと言って誤魔化してその場を去る。
この手はあまり使えない。
近隣の病院全てを調べるのは無理がある。
マイカーでもあればだが。
バスで行けるところは行ってはみたが…
墓地もそうそうウロウロするわけにもいかない。
墓参りに来たように見せかけてはみたが…
結局なにも見つからなかった。




