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第百七話 ローシェン〔一〕

猊下(げいか)。復活派は、足止めに失敗したようです……」


 法衣を纏った男が、玉座に腰掛ける老人に跪き、そう報告した。老人は眉をしかめ、露骨に不快感を表す。法衣をの男はその姿に萎縮し、冷や汗をだらだらと流している。


「どいつもこいつも……何故ワシの思う通りに動けぬ! この虫ケラ共が!」


 老人は、男に金の盃を投げる。赤いぶどう酒が地面にこぼれ、盃は男の正面に落ちて割れた。


「申し訳ありません! すぐに次を向かわせます!」

「もう良い! 今奴らが死ねば、疑惑の目が我々に向谷も知れぬ。それに、焦らずとも奴らはじきに死ぬ。我々の足元で、我々の預かり知らぬ件でな……」


 老人は不気味に笑うと、男を指差しこう言った。


「アンナをここに呼べ! 町に入った奴らの監視をさせる」

「仰せのままに、法皇猊下……」


 男は、逃げるようにその場を去った。老人は、なおも不気味な笑みを消さずにいた……









挿絵(By みてみん)


「着いたー!」


 船から降りたヘレナがそう叫ぶ。

 オスカー達と、生き残ったアウストリウス外交団は、遂にローシェンにたどり着いた。


 或いは全ての道の先にある街、或いは万物が集う繁栄の都、そして或いは世界の中心とさえ言われたこの巨大都市は、そのいずれの呼び名も過小評価と思えるほど、美しく雄大で、そして絢爛豪華な街である。


「ここがローシェン……ルキウス。余はついにたどり着いたのだな……」

「ええ……そうですよ、殿下……」


 ミカエルとルキウスは、ようやくローシェンにたどり着いたと、ようやく長い旅が終わったのだと安堵し、目を潤ませる。


「殿下、ここまでの長旅、本当にご苦労様でした」

「ここまでこれたのは、ルキウスやオスカーやヘレナ、そして多くの者達の、そして余の脱出を手引きしてくれたあの黒衣の男のおかげだ……本当にありがとう……」


 ミカエルはそう言って周囲を見渡し、ここまで着いてきた全ての者へ感謝を告げる。一同は、片膝をついてその感謝を受け取った。




「それでは、エルフリーデ様の所に向かいましょう!」


 物資の積み降ろし作業が終わり、フランツがそう言った。そのときだった……


「兄さーん! ヘレナちゃーん!」


 街の方から、突如聞き馴染みのある声が響いた。オスカーとヘレナは驚いてそちらに振り返る。するとそこには、


「アンナ!?」

「アンナおねーちゃん!!」


 そこには、オスカーの妹で、ヘレナの叔母のハーフエルフ――アンナがいた。

 アンナは全速力でこちらに向かってくる。そして、


「会いたかったー!」

「うわっ!!」


 ヘレナをおもいっきり抱き締めた。


「エルフリーデ様から、兄さん達が東ローシェンの皇太子殿下を連れてここにやって来るって聞いたから、迎えに来ちゃった!」

「どのくらい前からここに?」

「兄さん達が出発してすぐよ。私、一応これでも冒険者ギルドから法皇庁に派遣された外交官でもあるのよ?」


 そう言ってアンナはポーチの中から冒険者手帳を取り出し、中を見せる。そこには確かに、『冒険者ギルド対ローシェン法皇庁特命外交官』の文字と、冒険者ギルドの紋章が刻まれていた。


「っとと……貴方様が東ローシェン帝国皇太子、ミカエル殿下でしょうか?」


 アンナは、思い出したように手帳をしまうと、ミカエルに歩み寄り、そう言った。


「いかにも。余が東ローシェン帝国皇太子のミカエルだ。よろしく頼む」


 ミカエルは、アンナにそう返す。するとアンナはすぐさま片膝をつき、頭を垂れ、名乗りを挙げた。


「お初にお目にかかります皇太子殿下。私の名はアンナ・クルーガー。ハーフエルフと言う卑しい血の者ではありますが、どうぞご容赦下さい」


 ミカエルはアンナに「面を上げよ」と言い、話を続けた。


「余が兄のようにしたう侍従も、産まれはハーフエルフだ。余はハーフエルフをにくむ心は持ち合わせておらぬので、どうか安心してほしい。アンナどの、重ねてよろしく頼む」


 ミカエルは、アンナの手を取ってそう言った。


「殿下……ありがとうございます。それでは、私がご一行をエルフリーデ様の元へご案内します。どうぞこちらへ……」


 立ち上がったアンナは、そう言って一行を見渡した。オスカー達は彼女の案内に従い、エルフリーデの居る場所へと向かった。

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