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第百五話 夜襲〔一〕

 ペシェドからの道のりは、それまで以上に早く、過酷な行軍になる事が予想される。

 アウストリウス各地で群発する復活派による反乱が、一行の行く先を遮る可能性も往々にしてあり得る。

 だからこそ、一行はそんな復活派の動きより素早く行動しなければならない。


「既に反乱が起きた地域には鎮圧部隊を派兵した。進路上にある集落には補給物資の手配もしてある。念のため、偽の馬車を用意して別の道から向かわせてある」


 出発前の最後の打ち合わせで、レオポルドはそう言った。


「後は神に祈るしかない、ですか……」

「で、あるな」


 オスカーとレオポルドは、そう言って頷いた。









 ペシェド出発から四日。一行は極小規模な戦闘を数度行ったものの、行軍は比較的順調に進んでいた。

 現在、一行は街道の合流地点にいる。ここを南に下れば、アウストリウス唯一の港町、ズューテンハーウェンだ。


「……静かだな」


 その日の夜、レオポルドばオスカーと二人きりの席を設け、そう言った。


「ええ。静かすぎるほどに……」


 彼らは、麦酒をあおり話を続けた。


「ここまで何度か戦闘になったが、全てこちらに殆ど被害がなく終わった」

「あまりにも不自然ですね……」


 復活派は、複数の司教を束ねる『大司教』なる存在のもと、かなり統制のとれた行動をとる。その行動は、戦闘の専門家である将軍や軍人達すらときに苦戦させるほどだ。数も、質も、統制もある彼らは、一般市民のみならず、国家軍隊にとっても十分脅威足りうる。

 そんな復活派が、これほど静かなのはどう考えてもおかしいのだ。まるで、嵐の前の静けさのようだ。


「奴らが何を考えているのかわからんが、足を止めるわけにはいかぬ。あと三日でズューテンハーウェンだ。よろしく頼む」

「……お任せください」


 その日の夜は、そうして解散した。


 それから二日間の行軍は、それまで以上に不気味に、そして順調に進んだ。護衛の兵達が、楽観的になるほどに……



 そしてズューテンハーウェン到着を翌日に控えたこの日の夜、事件が起きた。



 ――敵襲! 敵襲ー!!


 見張りの兵の叫び声と警笛の音、そして喚声が闇夜に混ざり合い、響き渡った。


「ミカエル殿下! オスカー!」


 レオポルドの声が迫ってきた。馬車の外で不寝番をしていたオスカーは立ち上がり、歩み寄る。馬車の荷台からは、ヘレナ達が不安そうに顔を覗かせ、ルキウスに至っては馬車から降り、オスカーとは逆の方向を警戒に向かった。


「レオポルド殿下! ミカエル殿下はご無事です。馬車の周りには、まだ敵は来ていません」


 夜目の利くオスカーは、闇の中でも人影がよく見える。すぐにレオポルドを見つけ出し、目の前に立った。


「で、あるか。敵の規模や状況がほとんどわからぬ」

「敵は何処から?」

「恐らく南だ。進路を塞がれた」


 二人が話していると、馬車のすぐ近くで夜営していたフランツが、二人の部下を伴ってやって来た。


「フランツ、ただいま参上しました。他の隊員は周囲を警戒中です。既に他の隊は本格的な戦闘になっているところも多いとのこと」

「で、あるか」

「まずいな……」


 既に周囲からは、剣戟(けんげき)の音や、魔法の音が聞こえてくる。ここの場所は、もしかしたらばれているのかも知れない。


「……ミカエル殿下と、レオポルド殿下の御身が最優先です。周囲から動ける兵を集め、我々だけでも脱出しましょう。先導は俺がします。馬車はフランツ殿に任せました」


 オスカーは少し考え込んだ後、そう言った。レオポルドは、拳を強く握り込み、歯を食い縛って答えた。


「……是非も無し。フランツ、その様に致せ」

「はっ!」


 フランツは、部下と共に周囲の兵を集めに向かった。


「殿下は馬車へ」

「すまぬ……」


 オスカーは、レオポルドを馬車の中へ誘導し、中にいたミカエルとヘレナに声をかけた。


「ヘレナ、何かあったらルキウス殿と二人でミカエル殿下とレオポルド殿下を守ってくれ。お父さんは、シュバルツと二人で皆の先導に向かう。ルキウス殿下、少しご不安ではありましょうが、どうぞご安心下さい。きっと、守って見せます」

「まかせて! おとーさんも、無事でいてね!」

「わかった。オスカー、そなたの無事をいのる」


 オスカーはフッと微笑むと、次に外で警戒しているルキウスに声をかけた。


「馬車はフランツ殿が手綱を曳きます。中の三人を、よろしくお願いします」

「お任せください、オスカー殿。必ずや、無事に海を渡りましょう」


 そう話し終えた頃、フランツが兵を引き連れて戻ってきた。


「オスカー殿。周囲の兵と、うちの隊員合わせて二十名が揃いました」

「ありがとうございます。殿下達は皆馬車の中におります。俺に着いてきてください」


 オスカーは、既に馬車から切り離してあったシュバルツに跨がる。フランツは兵に支持を飛ばすと、自分の馬に馬車を曳かせ、御者台に乗った。一行は、騒乱の闇夜の中、出発した。

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