第百四話 オリエントの皇子〔三〕
「……ここがペシェドか」
「うわぁー……きれいだねぇ……」
翌日昼前、オスカー達はヴァンダル王国の都・ペシェドに到着した。
元来ペシェドは、ヴァンダル王国の経済の要として存在を発揮していた。数年前の国王戦死による王朝交代で、レオポルドの再従兄弟にあたるヨハネスが国王に就くと、その経済力に目を付け遷都。以来ペシェドの町は、この国の中枢としてより一層存在感を強めることになった。
「すぐにレオポルド殿下との会談の席を設けます。しばしお待ちください」
フランツは、ペシェドに到着するなり一行を大きな宿舎に案内し、数名の部下を置いて走り去っていった。
「オスカー、レオポルド様とはどんな方なのだ?」
ミカエルが、そうオスカーに聞く。ミカエルはここ数日でかなりオスカー達に心を開いてくれている。距離感がかなり近くなったようで、ヘレナや保護者のルキウスは大喜びだ。
「レオポルド殿下は、表情やお言葉のせいでかなり冷たい風に捉えられがちな人ではありますが、決してそうではありません。友や部下、自身に庇護を求めに来た者には非常に優しく、資材をなげうってでも危機を救ってくださるような御方です。きっと、ミカエル殿下にもそうしてくださるはずですよ」
「そうか……余は安心したぞ」
ミカエルはそう言って柔らかく微笑む。こういった表情も、最近は良く外に出すようになってきた。年相応の、優しく無邪気な顔だ。
「だいじょーぶ! 何かあったら、でんかはわたし達が守るからね!」
「それはたのもしい! ヘレナ、よろしくたのむぞ!」
「うん! お任せください我がでんか!」
ヘレナはそう言うとミカエルにピシッと敬礼をして見せ、見つめ合う。そして二人でプッと吹き出すと、互いに可笑しくなって笑い合った。そんな二人の姿を見て、二人の保護者は静かに優しく微笑んだ。
○
しばらくして、部屋にフランツが戻ってきた。
「準備が整いました! オスカー殿とミカエル殿下、どうぞお出でください」
フランツはそう言う。オスカーとミカエルは目を合わせて頷くと、
「それじゃ、行ってくる」
「ヘレナ、ルキウス。すぐにもどってくる」
と言って、二人でフランツ達についていった。
この宿舎は、貴族達の会議などに使われるほどのものらしい。オスカー達は、そんな宿舎の地下に設けられた会議室の前に通された。そこに、レオポルドがいるのだろう。
フランツは、会議室の扉を開ける。オスカーとミカエルは、中に入った。
「よくここまで来られた。東ローシェン帝国皇太子、ミカエル殿下」
縦に長い机の向こうに、彼の姿はあった。次期神聖ローシエント帝国皇帝になる男。ローシエント皇太子レオポルドだ。
「ここまで来られたのは、貴方様の送ってくださったむかえの兵達と、オスカーどの達の協力。そして、命をかえりみず余を連れ出してくれた侍従のおかげです」
ミカエルはそう泰然と言い放つと、近づいてくるレオポルドに歩み寄り、手を差しのべる。二人は力強い握手をした。
「オスカー。ここまで殿下を守ってくれたこと、エルフリーデに代わって感謝する。それでは早速だが、会談を始めるとしよう」
レオポルドはそう言って地図を広げ、椅子に腰かけた。ミカエルとオスカーも、それにしたがってレオポルドと向かい合うように座る。
「道のりはフランツ殿から説明がありました」
目の前の地図は、フランツに見せてもらったものと同じだ。オスカーはそう言ってレオポルドの方を見る!レオポルドはコクりと頷き、話し始めた。
「で、あるか。……ならば話が早い。数日前より我が国内で、比較的小規模な反乱が発生した。恐らくは復活派によるものだろう。フランツから、先ほど貴公らが襲撃を受けたことはこちらの耳にも入っている。小規模とはいえ、……病に伏せる父上に、これ以上負担は懸けさせれぬ。朕とその手勢は、貴公らをアウストリウスの港町まで送ることを約束しよう。だが、そこから先に朕はついていけぬ。少数の外交団と、フランツらだけが、そなた達に同伴することになる」
レオポルドは、苦々しげな表情でそう言った。苦渋の決断であろうことは、想像に難くない。
そんなとき、ミカエルがレオポルドの手をとり、こう言った。
「ありがとう、レオポルドでんか。余は今一度貴方に感謝する。十分だ。よそ者の余達に、これほど気を配ってくれたこと、しょうがい忘れぬ。余と貴方は、これから無二の友人だ」
ミカエルは、レオポルドにニッコリと笑顔を見せた。
「……かたじけない。ミカエル殿下。朕と、朕の国は、貴殿を友として全身全霊で支持することを誓おう……! 何か困ったことがあれば、朕を頼ってくれ」
レオポルドは、ミカエルにそう言った。
その後、幾つかの事務連絡を行い、会談は終了した。明日からは、遂にローシェンへ向けて本格的な旅が始まる。オスカー達は、それに一抹の不安を抱えながら、一日を終えた。




