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32 イレイナと異変ともしや



 えっへんという擬音が似合う格好の女の子がに少し戸惑う空。

 だが、依頼に付いて来るという言葉は無視できるものではなく、聞き返す。


「えっと、まず名前を……」


「私の名前を知らないの!?これでも個人じゃ準一等級の冒険者よ!?」


「ごめん、そういうの疎くて……」


「仕方ないわね、私はイレイナ!イレイナ・ヘルトアーグ、等級は準一級!」

「パーティー『鋼の薔薇』のリーダーよ!」


「ほぇー」


 まるで後ろからスポットライトを浴びているかのようなポーズを取るイレイナに、思わず拍手をしてしまう空。 

 イヴはそんな空を怪しいものを見る目で見つめていた。

 そんな自己紹介を聞き流していると、焦り気味の受付嬢から声が掛かる。


「イレイナさん困りますよ!パーティーの中に適正等級の方が混ざっていれば確かに受注は可能ですが、準二級からの依頼に四級の方が行くのは……」


「大丈夫よ、準一級の私が行くのよ!?万が一もないし、調査依頼だったら危険ならすぐに帰ってこれるわよ!」


「うーん、それもそうですが……」


 あと一押しという所で悩んでいる受付嬢に、空がダメ押しというようにカウンター越しに詰め寄る。


「俺からもお願いします!精霊がいるなら尚のこと!」


「ほら、こいつもやる気よ?セナさんが心配性なだけよ」


「……分かりました。空さんの依頼受注を許可します、イレイナさんはしっかりと注意して行ってくださいね」


「へーきへーき、さっきもゲイルの馬鹿をぶっ倒したばかりなんだから」


 そう言って肩を回しているイレイナだったが、空からすると、その細腕のどこに大男を頭から突っ込ませる剛力があるのかと疑問に思う所であった。

 








 その後、すぐに馬車を借りて目的の森へと進んで行く空たち。

 調査依頼程度なら、日帰りで行けることがほとんどだそうなので荷物は軽い。

 ちなみに、馬車を走らせる程度の速さなら生身の空たちの方が早いのだが、それを疑問に思ったイヴから馬車を借りる際に小声で質問された。


「マスター、私たちでしたら走った方が早いですよ?」


「うん、確かにそうだけど、馬車を借りた方が効率がいいこの世界で、走った方が早いなんて奴が出てきたらどうなる?すぐに注目の的になってバグ探しどころじゃなくなるだろ?」


「なるほど、ですがマスター、注目を集めた上でその集まった人々から話を聞くというのはいかがですか?」


「え、あ、確かにそれもあるけど、やっぱり人が集まると同じくらい厄介事も出てくるからさ、やっぱり隠密に行った方がさ、ね?」


「確かにマスターの仰る通りです、先ほどの発言はお忘れください」


 などとイヴを上手い具合に丸め込んでいたが、その時の空の内心は、


(あーその手があったかぁ……!)


 とあまり考え無しの空であった。

 そんなことを馬車に揺られながら考えていると、向かいに座るイレイナから話しかけられる。


「ねぇ、空とイヴはどうしてこの依頼に行きたがっててたの?町からの調査依頼なんてうま味ないわよ?」


「あー、それはだな……」

「俺とイヴは精霊とか妖精とか珍しい生き物を探してるんだ。だから精霊がいるって言ってたからどうしても行きたくてな」


 世界に巣くうバグの改心に来ました、と言っても到底信じてもらえないだろうという思いから、何となくごまかして言う空。

 大精霊たちの安否を確認したいのもあるので嘘ではなかったが、誤魔化しているのに気付いたのか訝し気な目を空に向けるイレイナ。


「ふーん、まぁいいわ。私もその森には用があったの」


「そうなのか、まぁそうじゃないと新人の手伝いをしに来たってだけだもんな」


「ええ、そんなの私がすることじゃないから。そこの森の薬草が必要なのよ、今朝薬師尋ねたらポーションの在庫無いって言うから、私が採ってきて無料で作らせてやるってわけ」


「なるほどな」

「なぁイレイナ、今から行く森って何か名前とかあるのか?」


「えぇ?あんたそれも分からずに依頼受けたの?」

「今から私たちが行く森は、竜の口って所よ。森の奥の山脈からたまに竜が出てくるからそう言われてるの。まぁ滅多に出てこないけどね、もし竜と会ったら私に任せなさい、秒殺してやるわよ」


「ま、任せた」


 ファイティングポーズを取って邪悪な笑みを受かべるイレイナ。

 そうして他愛無い話をしていると、馬車の前の方で御者をしているイヴから声が掛かる。

 

「空様、イレイナ様、目的の農村に着きました」


「分かった、運転お疲れ様イヴ」


「いえ、これも従者としての務めです」


 イヴが空をマスターと呼ばないのは、その呼び方ではあらぬ勘繰りをされると危惧した空の思いからであった。


「イヴちゃん御者出来るだなんて意外よね、見た目の通り普通のメイドなのかと思ったわ。依頼にも付いて行くって言うし」


「空様に何かがあってではいけないので……」


 アルドーに入る前に空に走りで負けたのを不甲斐なく思っていたイヴは、持ち前の器用さで初めてやる馬の御者を完璧にこなしていた。

 本来は馬車の貸し出し所の人が御者もやってくれるのだが「出来ます」と言ってイヴが頑なに譲らなかったので任せることにしたのだが、流石はホムンクルス。熟練の御者のように馬のことを理解した走りを見せていた。

 







 森の傍に直接馬車を付けるのは獣や魔物に(たか)られるため出来ないらしく、最寄りの農村に一度馬車を止めてから森へ進んで行く空たち。

 現在の時刻は太陽が天の正中を少し過ぎた頃、「そろそろ走ろうかしら」とイレイナが言う。


「お酒も抜けてきたし、さっさと中の様子見て帰るわよ」

「二人とも、第三魔法は使える?もし苦手なら私が背負うけど」


「だいさんまほう?」「だいさんまほう、でございますか?」


「え゛、ひょっとして魔法使えないの?」


「いや俺もイヴも魔法は使えるけど、その第三魔法ってのを知らないんだ」


「魔法の分類なんて常識も常識よ?あんたたち誰に魔法教わってたのよ?ひょっとして独学とか言わないわよね?」


 自分が魔法創りましたなどとは言えず、高速で言い訳を考える。


「あー師匠がそういう知識みたいなのは全然教えてくれなかったんだ、イヴも同じ人に教わったからなぁ、な?イヴ?」


「はい、お師匠様はそういう方でした」


(ナイスイヴ、よく合わせてくれた!)


 内心で咄嗟の誤魔化しが成立したことを喜ぶ空。

 面倒そうな様子でイレイナが解説を始める。


「とりあえず今は時間内から第三魔法のことしか話さないわよ。その第三魔法ってのは、身体能力の強化とか止血とかっていう、体内の魔力操作で放つ魔法のことよ。ちなみに私の得意魔法よ」


「なるほど、それなら俺とイヴどっちも完璧だ。イレイナがよっぽど早くなきゃ大丈夫だぞ」


「そう?ならとりあえず走りましょ、ちょっと待ってなさい」


 そう言うと魔力の操作に集中し始めるイレイナ。

 身体強化の魔法の発動はイヴと同じくらいらしい。

 イレイナの体内を巡る魔力が活性化しているのを肌で感じる空。


(へぇ、ニューアースの子はこうやって魔法使うんだなぁ)


 ならば自分もと、体内の魔力を瞬きよりも素早く練り上げ纏う。

 イヴもゆっくりと第三魔法を発動させている。だがそれよりもきょとんとした顔でこちらを見てくるイレイナの視線が気になった空。


「どうした?イヴも魔法かけ終わったから行かないか?」


「いや、あーうん、行きましょ」

(今私よりも早く発動させてなかったこいつ……?)


 風のような速度で森の中を駆けていく空たち。

 速さは先頭を走るイレイナの速さに合わせているので、空の全力に比べると早歩き程度の速さだった。

 魔法で強化された速さながら、木々の周りに生えている薬草を抜きながら進むイレイナ。

 自分は出来ないけどイヴなら出来そうだな、などと考えているとそのイレイナが話始める。


「というか、あんたたち私に付いて来れてるじゃない。これなら2級ぐらいならすぐに行けるわよ二人とも」


「そうなのか、昇級のためには何すればいいんだ?」


「んー、本来はこなした依頼の量とか功績で昇級を決めるんだけど、その一個上の等級の推薦があれば試験受ければいけるわよ」


「じゃあイレイナが推薦してくれれば2級まではすぐってことか。帰ったらやってくれないか?」


「いいけど、その昇級試験ってすっごい難しいわよ?」


「大丈夫だよ、これでも結構やれる方だと思うから」


「そ」

「……!待って、止まって」


 話をしていたイレイナが周囲を警戒しながらいきなり立ち止まる。

 イヴも神経を集中させて最大限の警戒をしている。


「山脈の方に下位の竜と……何この魔力、竜の傍に変な魔力があるわ」


「私は特に何も検知出来ていないのですが……」


「あー、私がちょっと異常なだけよ。そこらの人より数倍いい感覚してるのよ私」


「そういう問題か……?」


「左様でございますか……」


 また活躍の機会を損なってしまったイヴ。

 滅多に悪感情を表に出さないイヴが、悔しさで拳を固く握り込んでいた。

 そんなイヴは見てられないと空が声をかける。


「平気だイヴ。お前はこれからもっと強くなれるんだ、そんな顔するなって」

「前向きに、な?それとも命令した方がいいか?」


「…………」

「いいえ、これ以上マスターのお手を煩わせるわけにはいきません」


 さっきまで暗かった顔が明るくなる。

 そんなイヴを見届け、今なお山脈の方への警戒を続けているイレイナに話しかける。


「どうする?その竜のところまで行くか?」


「うーん、私一人なら何かあっても逃げられるんだけど、竜の他にあるもう一つの魔力の反応が気になるのよね」

「報告通り精霊だったら、もしかして暴走してるかもしれないし……」


「大丈夫だ、俺もイヴも本気出せばさっきよりももっと早く動ける。何かあってもすぐに逃げられるさ」


「あら、だったらもっと早くしていいって言いなさいよ」


「まぁ念のためってやつで……」


「まぁいいわ、なら行きましょ。いつ攻撃が飛んできてもおかしくないから注意しなさい」


「了解」「畏まりました」


 その合図とともにイレイナが地面を蹴り走り出す。

 それに追随するために空とイヴも先ほどよりも速度を上げて走る。

 山脈側へ進んで行くごとに、空の耳にも竜の啼き声や木々や大地が抉れる音が響いてくる。

 途中でイヴが「この魔力は……?」と呟いていたのが気になったが、そんなことを気にする暇もなく目的の場所へと到着する。

 竜が放つ火炎が宙を焦がすのを捉えられるほどの距離、イレイナが片手で止まれの合図をする。


「とりあえずここから様子見るわよ、この距離まで詰めてもまだ片方が何なのか分からないから」


 丁度いい大きさの岩があったので、そこから戦闘の中心地を覗く空たち。

 そこにいたのは、空が最初に出会った竜よりも一回り小さいくらいの竜と、魔法を放って応戦している少女。

 その少女は上手く風を操ってドラゴンを翻弄していたが、その顔には疲労が見られた。

 もう立っていられるかも怪しいといった具合だ。

 そんな異常な光景を見て、イヴがポツリと呟く。


「あの魔力は、ティターニア様の魔力……?」


 その言葉を耳に入れた瞬間、空の身体は弾けるように少女を襲うドラゴンへと向かっていた。

 イレイナが「待ちなさい!」と叫ぶが、すでに竜の首近くまで到達していた。

 異常な殺気に気付いたドラゴンが空の方を向くが、時すでに遅し。

 空の右手は愛刀である絢交(あやまぜ)の柄を握っていた。


「抜刀術の二、『瞬閃(しゅんせん)』」


 刹那、空の体がぶれ、瞬きの後には空は竜を通り抜けていた。

 さっきまでけたたましく鳴き声を上げていた竜の首はすでに地面に落ちており、刀をしまった空が襲われていた少女へとおそるおそる話しかける。



「ティターニア、なのか……?」



イレイナちゃん書き易い……

休みなので投稿しときます。


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