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30 薄ら笑いとバグと草原



「何か知ってるのか?」


『うん、大体のことはね。私自身もヤバかったから避難してきたんだ』


「そうか、なら今この世界で何が起こってるんだ?説明してくれ」


『うん、もちろんいいよ。取りあえずそのソファーにでも座ってゆっくり話そうか』


 元創造神を見てきょとんとした顔をしているイヴに声をかけ、ソファーに座らせる。

 まだ上手く状況を呑み込めてないイヴが空に尋ねる。


「マスター、この方は?」


「元創造神、お前が生まれてくる種を創ったやつで、俺の世界を創ったやつだ。今はなぜか人になってるけどな」


「はっ、申し訳ありません創造神様、お会いしたことがありませんでしたので」


『ああ、君とは一回も会ったことなかったね。他の創造神の子の時も世界丸ごとリセットしてたし』

『初めまして、元創造神です。よろしくね。創造神なのに人になってるのは、こっちの方がニューアースで生き易いからだね』


 思ったよりも軽い感じだったのに驚いたのか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして固まっているイヴだったが、握手のために差し出された手にはすぐさま反応して握手し返していた。

 そんな出来事のあと、隣に座っている空に小声で訊いてくるイヴ。


(マスター、本当にあの方が原初の創造神様ですか?何かおかしくありませんか?)


(あれがそうだ。あとイヴ、小声にしても頭の中読まれるから関係ないぞ)


 頭の上に!マークが浮かんだような顔をするイヴに、人間になっていた元創造神が言う。


『うん、イヴちゃんって言うのかい?全部筒抜けだからね』

『まぁ、私はどんなに失礼なこと思われても特に何も思わないから安心してよ』


 胡散臭い笑みを浮かべる元創造神。

 前まではただの黒いもやだったので、細かい表情が読み取れる分、軽薄さがより増したように感じる空だった。


「話が逸れたな。で、今俺たちはどういう状況に置かれているんだ?」


『うん、じゃあその説明をしていこうかな』


 元創造神の醸し(かもし)出だす雰囲気が変わり、場が少し張り詰める。

 そんな場の空気の移り変わりに、空たちも身構える。

 

『端的に言おうか、ニューアースにバグが発生したんだ。バグ、コンピューターのプログラムとかする時に出る不具合みたいなのが出来ちゃってね』

『そのバグがさ、とっても厄介でね。創造神とか世界の根本を操作する存在を世界全体から隔絶しちゃうんだよね』


「つまり、世界に何らかの不具合が起こったってことだよな?それはどうやって解決するんだ?」


『うん、理解が早くて話易いね』

『バグっていうのはさ、基本的には世界に対して大きな不満を持つ生き物なんだよ』

『ってことは、その不満を取り除いてあげれば解決ってわけ』


「なるほどな、でも俺たちは今世界に干渉出来ないぞ?どうやってその不満を解決させるんだ?」


『それは大丈夫、さっき私がここに来るときにニューアース行の一本道をこじ開けて来たからさ、片道切符だけどそれで行けるよ』


「じゃあ、今すぐニューアースに行ってそのバグを直せば……!」


『はいそこ落ち着く。そんな簡単なら仮にも元創造神の私がここに逃げて来てる理由は何?』


「まだ何かあるのか?」


『うん、バグにはさ、神の力を殺す力があるんだよね』

『神特攻って言ってもいいね。他の生き物には普通の生き物なんだけどさ、生きてるだけで神の力を抑制するんだよね。』

『今の状況だとさ、ニューアース全体に複数体バグがいるから、行っただけで普通の人間と同じ状態になっちゃうんだよ。一体だけだったら世界を書き換える力がなくなるくらいなんだけどさ。私も力全部無くなる前にここ来れてよかったよ』


「でも、普通の人間になったとしても、そのまま不安を取り除くようにバグに接すればいいんじゃないか?」


『うーん、会いに行く前に死ぬし、会いに行っても多分死ぬね。世界を狂わせるほどの不満だよ?そんな普通の人間が解決できるようなことじゃないでしょ』

『後さ、死んだら本当に死ぬんだよ?魔獣やら魔物やら蠢く世界で、今の無敵みたいな体で行くんじゃなくて、普通の人間の体で行ってさ』

『まったく魔法なんて厄介なもの追加しちゃって、まぁ面白いからいいんだけどさ』


「じゃ、じゃあこれからどうしたらいいんだよ!」


 自分の無力さに憤りを感じた空が、怒りに任せ立ち上がり傍にあった机を殴る。

 恐ろしい勢いで飛んで行った机を見た元創造神が、空をたしなめるように言う

 

『解決策があるからここで話をしてるんだ、座りな』

『その解決策だけど、私がここでバグの力を少し抑える。何年かかるかは分からないけど、一回やったことあるからね、前の世界の話だけどさ』


「前の世界って言うと、地球にもバグがいたのか?」


『うん、あれは頑張ったねー。最終的にバグを殺して暗殺に見せかけて終わったっけなぁ』

『これはどうでもいいんだ、バグの抑え込みだけど、イヴちゃん。君にも手伝ってもらうからね』


「はい、お任せください!」


 泣いていた痕がまだ残っていたが、確かな覚悟が窺える目で頷く。 


「俺には何かやることは?」


『ないよ、自分の創った子たちに殺されない様に特訓でもしてたらいいんじゃないかなぁ』


「え?それはどういうことだ?」


『バグの抑え込みが多少できたら、君に直接ニューアースに下りてバグの修正をしてもらうよ』

『私の予想だと、その創造神の体とほぼ無限の魔力なら持っていけるようには出来るからさ。それなら死なないでしょ?』


「まぁそうだろうけど、俺が行くのか……」


 死の危険がある世界へと向かうことが決まってしまった空。

 だが空の内心は、夢であった冒険が出来るかもしれないというワクワクで高揚していた。

 

『ふふふ、何か嬉しそうだね。あと言い忘れてたんだけど、君が行く頃のニューアースさ』

『多分尋常じゃないくらいに強いやつ一杯いるよ』


 笑いながら空の命に関わる重要な事実を言い出す元創造神。

 さっきの高揚はどこへやら、固まった様子の空が聞き返す。


「それは何故……?」


『バグの自己防衛かなぁ、なんか創造神の力が及ばなくなるとさ、世界がカオスになっていくんだよね』

『地球の時はそのせいか戦争起こってたしさ、きっとニューアースでもそうなるんじゃないかなぁ。それに合わせてなんか世界全体の戦闘力みたいなのも上がっちゃうんだよねー』


「俺のチート異世界冒険は……?」


『ないね、てかそれ最初にも言ってたねー』


「マスター、気をお確かに!」


 突然現れた危機、空の大活躍の予感がしたが、それは予感どまりだったらしい。

 落ち込む空をなだめるイヴ。元創造神の言葉を脳内で反芻している空がふと重要なことに気付く。


「待て、ティターニアや大精霊のみんなはどうなる?そのカオスになった世界にいても大丈夫なのか?」


『あー、君が遊んでたあの子たちかぁ、まぁあの魔力量じゃちょっとやそっとじゃどうにもならないと思うよ』


「なら良かった」


『でも、何かの拍子で誰かに倒されちゃうっていうのもありそうな話だけどね』


「……そうだな。そのためにさっさとニューアースに行かなきゃな」


 一刻を争う状況なのは分かっていたが、被害などが把握出来ないためかどこか危機感を持てないでいる空。

 そんな自分に喝を入れ、気合を入れ直す。


(あいつらが今も苦しんでるかもしれないなら、今の俺に出来るのはニューアースでも強く有れるようにただ鍛錬するのみ!)


 そう決心するとソファ-から立ち上がり、おもむろにグノスに作ってもらった刀を持ち、空いた空間で素振りを始めた空。


『うん、創造神様がやる気だし私たちはバグの抑え込みを始めようか。準備はいいかいイヴちゃん?』


「はい、マスターの為であれば……!」


 そうして来るべきその時に向け、各々のすべきことをしていく空たちであった。




























 それから年月は過ぎ、空は愚直に鍛錬を続けていた。

 時に(わら)人形に、山を創造しそこに、動きを学習する機械と。

 魔法で、刀で、徒手で。

 精神的にも身体的にも疲労が溜まった時は就寝もしたが、それ以外は全て格闘へと費やした。

 それは空の時間感覚の異常もあったのかもしれないが、それ以上にニューアースに今も居続ける精霊たちへの想いからだった。

 何百年と鍛錬をしていたのだろうか。

 ある日、元創造神から声が掛かる。


『準備、出来たよ』


「遅かったな」


『これでも早い方さ、前の時は千年単位で時間かけたんだから』


「イヴは?」


『あそこ、ちゃんと仕事してくれてたよ、弱音一つ吐かずにね』


 元創造神が指を指す方向には、少しくたびれた様子のイヴがソファーにもたれ掛かっていた。

 そんなイヴに近付いて声をかける空。


「イヴお疲れ様。頑張ってくれてたんだってな」


「あ、マスター。マスターがあんなに必死に鍛錬していたのに、従者の私が手を抜くなどどいう訳には行かないですから……」

「ですがマスター、頭を、撫でてもらってもよろしいですか?久しくして頂いてなかったので……」


「いいよ、よく頑張ってくれてたな、ありがとう、イヴ」


 出会った頃よりも随分と成長したイヴの頭を優しく撫でる空。

 そんな行為に、イヴは静かに、噛みしめるように喜んでいた。


『じゃあ、そろそろ行くかい?』


 撫でるのを止め、刀を袋に入れて背負っていると後ろから声が掛かった。


「うん、みんな待ってるだろうしな」

「イヴも来るか?」


「勿論ですマスター、私はいつでもマスターの傍にいます」

 

「うん、イヴと二人で行くよ」

「イヴも行っていいだろ?」


『うん、君だけじゃどこかでヘマしそうだしね』

『私はここで事が終わるまでバグの抑制を続ける。どこかで連絡が取れたらいいけど、とりあえずバグを解消しないとこっちからの干渉もどうにもならないからね』


「分かった、じゃあ行くぞイヴ」


「はい、マスター」


 隣に立ったイヴの手を固く握る。

 イヴも空の手を強く握り返した。


『それじゃあ、この穴にどうぞ。入ったらもうニューアースのどこかに繋がってるから、そのつもりでね』


 元創造神が開いた時空の裂け目に、一歩ずつ進んで行く空たち。

 やがて、その身が完全に裂け目の向こう側に行ってしまいそうなその時、空の後ろの方から消え入るような声がした。


『頼んだよ、高橋空』


 そんならしくない祈りに、後ろ手を振って答える空。

 元創造神が文句を言おうとしたその瞬間、空とイヴの体は時空の裂け目の向こう側へ入っていた。

 スッ、という音と共に消える二人の体。

 一人取り残された創造神の空間で、常に薄ら笑いを浮かべている神は、伸びをして二人が向かった惑星へと向き合っていた。






















 目を開けた空の視界に、眩い光が飛び込んでくる。

 体中に当たる柔らかい日光の熱、肌を撫でるそよ風。

 光に慣れた空の眼前には、芝生生い茂る草原が広がっていた。

 隣には、その景色を呆然と眺めているイヴの姿。

 転移が成功したことに安堵する空に、大きな影が覆う。

 その影を目で追おうとしたその時、大きな羽ばたきの音と共にけたたましく響く鳴き声が空たちの耳に入って来た。

 やがてその影が目の前に現れ、全貌が明らかになる。

 人間の何倍もある体躯、大きく開いた口、赤く厚い鱗、二つの巨大な翼。

 転移直後の空たちを襲ってきたのは、フィクションの世界でしか見ないようなドラゴンだった。

 その竜は、空たちに対し明らかな敵意を持っており、グルルルという威嚇の唸り声を出していた。


「敵意があるなら、俺の子供でも容赦しないぞ?」


「グルルララララララ…………ギャオオオオオオオオ!」


「マスター!」


「ここは俺がやる、後ろに隠れてろイヴ」


 威嚇を止め、空たちへと突進を始めた竜を見て、イヴを後ろに下がらせ、グノスの刀を構える。


「抜刀術の一、『一閃(いっせん)』」


 空の手元がぶれ、ドラゴンの体を横一文字に切り離し、遠く離れた丘や木々までもが横にずれていく。

 

「生まれ変わったら、次は平和な世界でな……」


 刀に僅かについた血を払い、そう呟いたのち、魔法で地割れを起こし竜の体を地面へと沈めていく。

 背中で固まっていたイヴの手を引き、進みだす空。

 

 


 こうして、高橋空の創造神としての異世界での冒険が始まった。

 


 

異世界冒険が始まります!

やっと無双させれる!


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