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29 つむじ風と帰宅とそれから



「うん、おとうさんはおとうさんだよね?」


「あー、創造神って意味ならそうかも知れないけど……」


 広義的にはあまり間違ってもないので少し困ってしまう空。

 そんな空にイヴが言葉をかける。


「マスター、その妖精の魔力がマスターの魔力と全く同質のものになっています」

「他の大精霊の方々の魔力は少しながらマスターの魔力と異なる点がありましたが、その妖精は違うようです。おそらく、マスター自身が魔力の制御を手助けしたためだと思われます」


「なるほどなぁ、なら仕方ないか。よし!」


 そう何か決心を付けると、腕に抱いたままだった妖精を地面に立たせ、しっかりと目を合わせて語り掛ける。

 きょとんとしている妖精の無垢な目が空を捉える。


「俺は、お前のお父さんでもあるけど実はみんなのお父さんでもあるんだ」


「ってことは、上を飛んでる鳥さんや沢山いる葉っぱさんのおとうさんなの?」


「そうだ。それでな、そういう人のことを神さまって言うんだ」

「だから俺のことは、お父さんじゃなくて神さまって言ってくれ」


「うーん、わかった!かみさま!」


「そう、それでいいんだ」


 思ったより物分かりがよかったので、よしよしと頭を撫でる。

 ふわふわのくせ毛の撫で心地が気持ちよく、ついつい撫ですぎてしまう。

 そんな空を睨んでいたイヴの「マスター……」という叱りつけるような呼びかけで我に返る。


「どうしたイヴ」 


「マスターがここに来たのはその妖精を撫でるためではありませんよね?」


「あ、地脈かぁ。忘れてた」


「マスター……」


 地面に手を触れ、地脈に流れる魔力の流れを感じ取る。

 先ほどの魔法の連発で少し気怠さが残っていたが、地脈の操作ならば流れを変えるだけなので空自身の魔力はあまり必要としないので、休まずに続ける。

 地脈の操作をするその間、空はショタ妖精と会話をして暇を潰すことにした。


「なぁ妖精くん、妖精くんは名前ってあるの?」


「ないよ、だって今さっき生まれたんだもん」


 黒い風の頃の記憶が無くなっている妖精。

 そちらの方が本人にとってはいいことかと思い、そのまま話しかける。


「じゃあ、俺が付けてもいいか?お前がよければ、だけどさ」


「かみさまがぼくの名前を!?つけてつけて!」


「おっけー、ちょっと待っててな」


 うーんと唸りながら脳内でショタ妖精の名前を考える空。

 もちろんこれという名前はとっくのとうに浮かんでいるのだが、一応この名前でいいかを考え直す。

 少しの間悩み、ようやく考えが纏まったという所で口を開く。


「シルフ、お前の名前はシルフだ」


「シルフ!僕はシルフ!やったぁ!」


 体を風に変えて、周りの木の葉と共に踊り出すシルフ。

 シルフとは、風を司る四大妖精の名。

 普段は体を目に見えない風に変えているが、人の体になると可憐な少女の姿になると言われている。

 少女も少年も大して変わらないだろうという思いから名付けた空。

 それに火土水と他の大精霊がいるのに風だけいないというのもアレだし……というのも含まれていた。

 



 それから空がこれまでしてきたことを語ったりしていると、そろそろ地脈の操作も終わりそうになって来たので、シルフのこれからのことを決めようと思い話しかける。


「なぁ、シルフはこれからどうしたい?」


「どうしたいって、かみさまとずっと一緒にいたい!」


 予想通りの答えが返ってきて少し困ったような表情になる空。

 だか、すぐに気を引き締めて言う。


「それは出来ないんだ。俺は神だからさ、お前と一緒の時間では過ごせないんだ」


「なんで!?イヴさまは一緒にいるんでしょ!?ずるいよ!」


「イヴは俺の傍に居続けるために創られたんだ、だから神としてどんなに長い時間でも耐えられる」

「でも、シルフみたいなこの世界に生まれた奴にはな、ちゃんとこの世界で生きなきゃいけないっていう決まりごとみたいなのがあるんだ」



 それの決まり事を知ったのは、ティターニアと別れた後、竜巻の森に向かう道中。

 いきなりイヴが「申し訳ございませんマスター」と切り出した時のことだった。

 その時のイヴ曰く、この世界には生まれた時からの役割のようなものがあり、最終的に死ぬことでその運命を全うしなければならず、空たちがいた創造神の空間はその運命から切り離すようなものなので、ティターニアはどうやってもウンディーネと一緒にいなければならないとのことだった。

 何故イヴがあの場ですぐにそれを言わなかったか、それは、きちんと自分の創ったものに頼らずに創造をやり遂げることが出来るのか知りたかった、という神の従者としてはあるまじき疑問だった。

 その心境を語るイヴの顔は押し寄せてくる自責の念のせいか、みるみるうちに暗くなっていた。

 そんなイヴに空は、お前がいるから大丈夫だよ、と優しく声をかけて落ち着かせたという出来事があったのだ。



 そんな決まりごとを聞いて、どこか寂しげな顔をしているシルフ。

 だが、空にはそんなシルフを一人ぼっちにさせないための名案を思い付いていたのだった。


「なぁシルフ、神さまにシルフが一人ぼっちにならないような名案があるんだ」

「聞いてくれるか?」


「……うん」


「シルフはさ、風になれるだろ?ならさ、それならさ風になって世界中の色んな生き物とか妖精に会いに行けばいいんだよ」


「風に?ぼくにできるかなぁ?」


「出来るさ、シルフはすごい妖精だからな」

「それにさ、俺たちは一回自分たちの場所に帰えるから会えなくなるけど、またいつか絶対この世界に来た時にはさ、風になって一番先に会いに来てくれよ」

「風になれるんだからきっと誰よりも先に会えるぞ?」


「ほんと?ほんとにまたくる?」


「ああ、ほんとのほんとだ」


「やくそくだよ!かみさまがきた時にすぐに分かるように、うーんと、えーと」


 何やら考え出してうーんと唸っているシルフ。

 やがて何かを思い付き、体内の膨大な魔力を練り出す。

 竜巻を出していた頃よりも濃い魔力がシルフの胸の辺りに集まり、碧色に光る結晶が出来る。

 それを空に差し出す。


「これかみさまにあげる!ここにきたらすぐに分かるやつ!」


「ありがとう、肌身離さず持っとくよ」


 状況を見かねて傍に来ていたイヴの手を掴む。

 寂しげだがどこか嬉しそうな顔のシルフに言う。


「じゃあ、またなシルフ。元気でな」


「うん!かみさまとイヴさまもがんばってね!」


「もちろん」「お任せください」


 目を閉じ、創造神の空間への帰還を念じる。

 転移が始まろうかというその瞬間、満面の笑みを浮かべるシルフの姿を垣間見た空。


(絶対お前たちが幸せに暮らせるような世界を創ってやるからな……)


 そう深く心に刻み、空とイヴの姿はニューアース上から消えた。

 二人が消えたその場所には、一迅のつむじ風が吹いていた。






 


 いつも通りの感覚のあと、目を開けた場所は、無数の星広がる漆黒の空間。

 久しぶりの我が家?に到着した空たち、だが、空はすぐに(くつろ)ぐといったことはせず、イヴに質問を投げかけた。


「イヴ、これからはどうしたらいい?」


「はいマスター、ひと先ずはマスターの考える問題点は解決したので、ニューアースの時間を経過させることがいいかと考えます。何か問題があるとしても時が進まなければ分かりません」

「時間経過中は私が変化等を見張っていますので、マスターはどうかお寛ぎください」


「了解、ってことは俺は暇ってことか」

「じゃあ魔法とか剣でも鍛えてようかな」













 それから、鍛錬をしたりイヴとお茶を楽しんだり、時々加速を止めニューアースの大精霊たちに会いに行ったりと、数百万年が経過した。

 時間加速と空の体感時間の異常のせいで、空が感じている時間では2、3年そこらだったのだが。

 

 

 そんな永遠にも近い時間が経過したニューアース。

 空が知る人間も現れて、着実と文明を発展させていた。

 だが、その文明は空が知るものとは大きく違っていたのだ。

 その原因は、魔法という存在のせいだった。科学や技術といったものとは全く違う分野のものであった魔法は、それを中心とした文明を発展させた。

 それら魔法や、力を増した魔獣や魔物、魔族といった強力な存在もあり、地球とは違う進化を遂げていたニューアースであった。

 



「あー、そろそろまたニューアース下りよっかな」

「どうイヴ?今どんな感じ?」


 日課である刀の素振りをしていた空が、汗を拭ってイヴに問いかける。

 空に話しかけられたイヴは、腰ほどまで伸びた長い髪をなびかせ空の問いに答えた。


「マスター、つい三か月前に行ったばかりですよ。そんなのではマスターの夢である異世界での冒険も出来ませんよ」


 空が初めに出会った頃よりも背が伸び、すっかりと大人びた女性の姿になったイヴ。

 どうやら、ウンディーネのような麗しい女性に憧れを持っていたようで、空に「マスター、私も成長したいです」と言ってきて、空と同じくらいの背丈まで成長したのだ。

 少女であった頃の面影はあまりなく、可愛さよりも美しさが勝るようになったイヴ。

 年齢で言うと、ちょうど二十歳のあたり。

 そんなイヴがニューアースの方から、空に向き直して言った。


「あれ、そんな最近だっけ。でもティターニアとかシルフとか俺が行かないと寂しがるじゃん」

「ちょっと会って来るだけだって、な?」


 一方空はというと、この数百万年特に見た目に変化はなく、魔法の扱いが上手くなっていたり、刀が少し使えるようになっただけであった。

 眠くならないのが気持ち悪いので、運動したら汗が出たりという代謝の機能を復活させたぐらいの変化はあったが。


「仕方ないですね、少しだけですよ」

「では転移させますね」


「おう」


 イヴに創造神の力を分けているので、大精霊たちの近くに転移させてもらっている空。

 文明が発達仕切っていない人間の生活圏に行くのは楽しみが薄れる、との思いでいつも精霊たちの場所へ行く時は直で行っている。

 しばらくしても転移が始まらないのでイヴに話しかける。


「どうした、イヴ?何かあったか?」


「はい、マスターを転移させれません」


「……?どういうことだ?」


「少々お待ちを…………」

「……!大変ですマスター!」


 今までで見たことのない顔をして空の方へ向くイヴ。

 その顔には驚愕と焦燥があった。


「なんだ、詳細を言えイヴ!」


「は、はい、マスターの魔力、いえ創造神の力自体がこの世界への干渉が不可能になっています」

「今私たちがいる空間は世界からは断絶されているので何も関係がありませんが、ここから外に出ること自体が不可能です」


「は?どうして、そんなこと、俺の創った世界だろ!?」


「それは、私にも分からず、申し訳ありませんマスター、私の不注意です……」

「本当に申し訳ございません……」


 空が今まで見たことのない涙を目尻に浮かべ、俯くイヴ。

 

「そんなことあるか、イヴならそういう変化ならすぐに察知出来るだろ!?違うか!?」


「はい、何かニューアース上であればすぐに分かりますが、この問題はマスターより世界の観察を預かっていた私の責任です……!」

「どうあろうとも、私が…………」


「イヴ、仕方ないって、お前が分からないなら俺にだって分る筈ないんだからさ、な!」


 泣き崩れるイヴの背中を擦りながら慰める空。

 イヴがこんなに落ち込むのは初めてなのでどうしたらいいか分からず、途方に暮れる。

 それ以上に問題なのはニューアース、創造神の力でも干渉が出来ないという異常が起こっているのだ。

 その中にいる大精霊や生き物がどうなっているか、という情報すら得れない空。

 八方ふさがりの状況に少しずつ混乱してくる。


「あーくそっ、どうしたらいいんだよ」


 暗闇に拳を打ち付ける。

 痛くもなく、ただ衝撃だけが空の身体に跳ね返ってくる。

 





『何やってんのさ、そうやって床殴るのって楽しいかい?』






 こちらをあざ笑うような軽率な声。

 それは空が何度となく聞いたことのある声だった。

 その声の主は、長い髪の人間。 

 顔は整っていたが、男か女かは顔からは判断が付かなかった。

 だが、それ以上に目を引くのは口。

 きっとあの黒いもやの中ではそんな口をしているんだろな、とそう思うような笑み。

 うすら笑いを浮かべた元創造神(やつ)がいつの間にかに現れていた。




『お困りでしょ?創造神さま?』




リアルが少し忙しくなるので隔日投稿になります。

申し訳ございません。


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