27 お友達と別れと竜巻
最長です。
空の目の前にいる可愛げな顔をしている水の精霊。
その口から出て来た言葉は、友達になってくれないか、という何だか笑ってしまうような願い。
精霊として生まれてからずっと一人でいたことを考えれば笑い事ではないのだろうが、その願いに空がした返事は、
「もちろん!俺からもよろしく!」
といった普通の返事だったが、その普通の返事に水の精霊は水でできた顔を破顔させていた。
とりあえず地脈の操作をしに来たという旨の話をして、魔力の操作をしながら水の精霊の話を聞いている空たち。
「私、この湖に生まれてから誰とも話してこなかったんですのよ!」
「話し相手になってくれそうな鳥さんや魚さんは私が近付くと逃げてしまうんですの」
「あー、その魔力量じゃ仕方ないかもな。でももうちょっとして生き物にも魔力が宿り始めたらそうはならなくなると思うぞ?」
「そうなんですの?でも、空さまやイヴさま、ティターニアさまがお友達になってくれるのですからもう大丈夫ですわ!」
「そうだよー!精霊ちゃんいぇーい!」
友達と言われ気分を良くしたのか、水の精霊にハイタッチをしに行くティターニア。
仲良くお喋りをしている二人だったが、ふとティターニアが空の方を向く。
「ねぇ神さま、精霊ちゃんに名前は付けないの?それとも精霊ちゃんってもう名前あったりする?」
「いえ、ティターニアさま、私はずっと一人でしたので名前など考えたこともありませんでした」
「ティターニアさまのお名前も空さまがお付けになったのですか?」
「うん、やっぱ名前があった方が呼びやすいしね」
「では、私にも名前をくださいませんか!?」
「私もティターニアさまやイヴさまのように名前で呼ばれたいですわ!」
「そうか……じゃあ考えるからちょっと待っててくれ」
地脈の操作の片手間に水の精霊の名前について考える空。
頭の中では、水を自由自在に操る精霊ときたら特定の名前が挙がっているのだが、安直にその名前にしてよいものかと悩む空だったが、今までの大精霊たちにも同じような名前の付け方をしていたので、まぁいいか、と思い今か今かと待ちわびている水の精霊に声をかける。
「名前、決まったぞ」
「はい、よろしくお願いしますわ」
「うん、じゃあ君の名前は、ウンディーネだ」
「ウンディーネ、とっても綺麗で美しい名前ですわね!」
「私はウンディーネですわ、うんいい響きですわね!」
「わぁー、ウンディーネよろしくね!」
「ええ!よろしくお願いしますわティターニアさま!」
二人が楽し気に名前を呼び合っている間に地脈の操作が終わる。
ティターニアがとても仲良くしているのでここに暮らすのか、と聞こうとするがその前にイヴに話しかけられる。
「マスター、そろそろ日が落ちてくる頃合いです。いかがいたしますか?」
「うーん、あの空間に一時的に戻ってもいいんだけど、折角こんないい場所にいるんだしなぁ」
「うん、ここでキャンプしよう!」
「キャンプというとマスターの知識の中にある、天幕を立てて一時的な拠点を作るこの行為のことですか?」
「そうだよ、テントは創造神の力で創っちゃうから大丈夫」
「では何か私のすることはありますか?」
「じゃあ、イヴには湖の魚を捕っておいてもらおうかな。二匹でいいよ」
「別に何かを食べる必要はないけど、折角キャンプするならそれっぽくしなきゃな」
「かしこまりました、では」
そう言ってイヴがメイド服のまま湖に突っ込む。
バシャーン、とキレイな水飛沫を立ててどんどん潜水していき、数秒後。
陸地に上がって来たイヴの手には、ほどほどの大きさの魚が二匹掴まれていた。
唖然としてしまい何も止めることなく、そのまま魚を捕ってくるまで一言も発することが出来なかった空。ハッとしてイヴに言う。
「イヴ!何で飛び込んで直で捕って来たんだ!?」
「釣りとか魔法とかで捕ればよくないか!?」
「いえ、これが一番簡単かと……」
熱と風の魔法でイヴを乾かす空。
飛び込んだ際の音を聞きつけてティターニアとウンディーネがやってくる。
「何かあったの神さま?」「どうかなさいましたか?」
「ああ、魚が欲しいって言ったらイヴが湖に飛び込んで自分で捕って来たんだ」
「まぁ、言ってくだされば私が捕ってきましたのに」
「あー、そういやそうだった……」
「流石イヴさまだねー」
そんな事件があったものの無事湖のほとりでテントを創造し、その前で焚火をしている空たち。
日はとっくに落ちており、周りの森は静まり返り、鳥のさえずりや風が木々を通り抜ける音のみが暗闇を支配していた。
そんな闇の中にある一つの光。魔法で切り倒した丸太に座る空とイヴ、その空の肩に座るティターニア、空が創造した水瓶に入って空たちと談笑しているウンディーネがいた。
ウンディーネがわざわざ水瓶に入っている理由は、水がない場所では存在自体は出来るが話をしたり、魔法を使ったりといった能動的なことが出来なくなるからだった。
たわいもない話をしていた空たち、さっきからちらちらと焚火の方を見ていた空がその焚火に手を伸ばす。
「そろそろかな」
「はい、これイヴの分」
空が焚火に手を伸ばしイヴにあげたもの、それはイヴが捕って来た魚を串に刺して焼いたものだった。
てっきり空が二つ食べるものだと思っていたイヴが空に聞く。
「これはマスターのものです。私は受け取れません」
「まぁまぁ、捕って来たのはイヴなんだしさ、きっと美味しいから食べてみてよ、ほら」
「神さま私のはー?」「私のも……」
「お前らは食べ物とか縁がないものかと思ってたわ、はい俺の半分やるから。少ないけど二人で分けてくれ」
「やったー!」「これがお魚さん……いただきますわ」
「ほら、イヴも食べて」
「あ、はいマスター」
空に勧められるままに焼けた魚の腹に食らいつくイヴ。
「マスター、とっても美味しいです!」
「だろ?じゃ、俺も食うかな」
「モグモグ……、うんやっぱ塩焼きはいいな」
「神さまー!これもっと!」
「また今度な」
そんなこんなで夜が更けていき、空たちはテントの中で眠るための準備をしていた。
空は寝袋、ティターニアはクッションの上、ウンディーネは水瓶の中。
イヴは眠る必要なく眠気も来ないそうなので、外で寝ずの番をしてくれていた。
創造神の力で眠れるようにしようか、と提案したが夜の世界を楽しみたい、とのイヴの希望でそのまま外にいることになった。
少し雑談をしていたが程なくして、ウンディーネが寝てしまい水瓶の中に籠ってしまったので素直に寝る二人。
木の葉のさざめく音と虫の音が空を眠りと誘い、やがて緩やかに意識を手放す。
「んっ……」
しばらくして目を覚ました空。外はうっすらと明るく、ならばともうひと眠りしようと思ったが中途半端に頭が冴えてしまったため、顔を洗いにテントの外に出ることにした空。
外に出て空が最初に見たのは、湖の中心で水面を跳ねながら踊るティターニアの姿だった。
着水するたびに小さな波紋が湖を伝い、明け方の光に当てられたティターニアのその様は妖精女王と呼ぶに相応しい美しさであった。
やがて踊りを眺めていた空の視線に気付き、テントの方にやってくるティターニア。
「早起きしちゃったから踊ってたの!こういう場所で踊るのも楽しいね!」
「そっか、綺麗だったよ、ティニーの踊り」
「そう?ありがとう!」
「なぁ」
「うん?どうしたの神さま?」
「ティニーは、ここで暮らすか?」
「お前が俺たちに付いて来てるのはさ、同じ精霊の仲間が欲しい、っていう理由からだろ?」
「お前がウンディーネと一緒にいてもいいな、って思ってるならここにいてもいいんだ」
「ウンディーネと、一緒に……」
「まぁ結論は今じゃなくていいんだ、もう少ししたら朝ごはんにするからその後にな」
「うん……」
珍しく悩み顔を見せるティターニアを横目に、少し離れた場所で釣竿を創造して湖に浮きを垂らす。
少しして、イヴが木の実や山菜を持ってやってきた。
「お、テントにいないと思ったら森に行ってたんだな」
「はい、マスターが起床したのを確認したので、検知にかかる距離で採っていました」
「マスター、ティターニア様の件なのですが……」
「聞こえてたのか?」
「はい、無礼だとは思ったのですがふと聞こえてきてしまって……」
「全然大丈夫だよ、イヴにも関係のあることだしね」
「ありがとうございます。先程の話の中で、ティターニア様に創造神の空間があると教えなかったのはなぜでしょうか?」
「あそこであればティターニア様はずっとマスターと一緒にいられますが……」
「確かにそれも考えなかった訳じゃないけどさ、でもあそこに住むってことは、普通の生物じゃありえない年月を過ごすってことでもあるからさ」
「ティニーにとってはそれは良くないことだろうなって、それにあんな活発な奴があの空間でずっと暮らすなんて無理そうだろ?」
「……その通りですね」
「だろ、って浮きが沈んでる!」
「お手伝いいたしますマスター」
そうして、魚が数匹捕れたのち、ウンディーネも起きて来たので朝食をとることになった空たち。
美味しそうに魚を頬張っているウンディーネだったが、その隣のティターニアは悩みながら食べているのだろうか、あまり食が進んでいなかった。
それに気付いてウンディーネが声をかける。
「どうなさいましたの?ティターニアさま?」
「あー、いや何でもないよ」
「いえ、あのティターニアさまが食べ物にがっつかないなんて何かあるに違いありません!話してくださいまし!」
「えー、じゃあ話すけどさぁ……」
重々しく口を開き、仲間を探すために空たちに付いて来ていることを話すティターニア。
その話を聞いた後、ティターニアの悩みが感染したかのような表情のウンディーネが口を開く。
「そうですものね、空さまとイヴさまとは最初に友達になった仲。そんな方々と別れるのはとっても悩みますわね」
「え……ウンディーネと一緒にいることと迷ってるのに何も怒らないの?」
「そんな、私がそのようなことで怒ると思っていまして?」
「私も友達という存在がどれだけ重要な存在かなど、とってもよく分かっていますわ」
「その中でも、私と一緒にいることと悩んで頂いているのに、どこを怒る必要がありますの?」
「ははは、ウンディーネは優しいなぁ」
微笑みを浮かべ、また考え込こむティターニア。
ほんの少しの思慮があり、その後に決意したように宣言する。
「うん!僕ウンディーネと一緒にいる!」
「まぁ、本当にいいんですの!?もちろん嬉しいのですけれど、空さまとイヴさまと別れますのよ?」
「大丈夫!ウンディーネといたらもっと楽しそうだし、神さまとイヴさまだっていつかは会えるもんね!」
「ああ、そうだな」「はい、絶対に会えますよ」
「ほら!だから大丈夫!」
「なら、私が言うことは何もありませんわね」
「ティターニアさまこれからよろしくお願い致しますわ!」
「うん!よろしく!」
そうやってティターニアの居場所が決まった。
ニューアースに下り立ってからずっと一緒にいたティターニアと別れるのは、少し寂しさを感じる空だったが、己に喝を入れて自身のやるべきことに焦点を合わせる。
釣りの際にイヴに聞いた次なる目的地。
それは、竜巻荒れ狂う枯れた森だという。そんな危険な場所に行くのに、浮ついた気持ちではイヴに怪我をさせてしまう。
覚悟を決め、イヴと手を繋ぐ。
浮いた空たちの下には、手を振るティターニアとウンディーネがいた。
ティターニアの目尻に涙が溜まっていたのを見て、自分も泣きそうになってしまう空。
「じゃあな!ウンディーネ!ティターニア!」
「じゃあねー!神さまー!イヴさまー!また下りてきたら絶対会いに来てね!」
「ティターニアさまのことはお任せ下さいましー!」
熟達してきた空の魔法の移動速度により、ティターニアたちの姿はすぐに見えなくなった。
ティターニアの姿が完全に見えなくなり、溜まっていた涙を零す空。
その涙をエプロンに入っていたハンカチでそっと拭うイヴ。
空が最初に飛行の魔法を使った時には、向かってくる風のせいで喋ることしか出来なかったイヴ。
そんなイヴが柔らかいハンカチを空に当てられるほど、風を操る魔法の熟練度が上がっていた。
「ごめん、ありがとうイヴ」
「いえ、私はマスターの従者ですから」
空の涙もすっかり乾ききった頃、空とイヴの視線の先に天まで上るような竜巻が見えて来た。
その近くの森にはなぎ倒された木々が広がっており、その竜巻の威力を如実に語っていた。
「あれが次の目的地か……」
「イヴ、魔力の反応は?」
「はい、竜巻の中心に……今までのどの精霊よりも大きい反応ですマスター」
「まぁ、こんな竜巻起こし続けられんだからそりゃそうか」
まだ視認できる程度の距離にいる空たち、それでも近付けば近付く程に風が強くなっていくのを感じた。
中心近くともなればさらに強い風が吹いていることは、想像に難くなかった。
「イヴ!あの竜巻って、俺の全力の魔法で突破できそうか!?」
「マスターならば絶対に可能です!」
「よっしゃ、ならもっと早くするぞイヴ!俺の背中にくっついてろ!」
「かしこまりましたマスター!」
イヴが背中に移ったのをしっかりと感じ取り、体内の魔力をさらに練る。
リヴァイアサンの時よりももっと濃く、あの後も絶えず魔法の練習を繰り返してした空は、より短時間で今までにない量の魔力を練ることが出来るようになっていた。
今出せる全力を練り上げ、放つ。
放たれた魔力は推進力の風と、空たちを守る防護壁の二つをより強化した。
音速を超え竜巻に突撃していく空と、その背中に捕まるイヴ。
厚い暴風の壁を越え、抜けた先は無風の空間。
その上空にいた空たちは、その空間の下にいた精霊を見つけた。
その精霊とは、黒いつむじ風。
本来は、巻き上げられた木の葉などにより視認出来る風が、そこに佇んでいた。
ティターニア……
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