24 洞窟と水晶群とずんぐりむっくり
創造神の力での飛行よりも精密に魔法での移動が出来るようになった空は、イヴたちを連れて大きな洞窟の前に立っていた。
洞窟があるのは、サラマンダーがいた山脈より一回り程小さい山々の麓。
入口が森に囲まれており、上空からの目視では位置が分からなかったが、イヴの探知能力によってその場所へと向かうことが出来たのだった。
コオォォォォォ、と何やら不気味な音が洞窟の奥から響いてくる。
「イ、イヴ、この音って……」
「風の反響音でしょうか、何が起ころうとも私がいますよマスター」
「イヴぅぅぅぅぅ!」
「うえぇ、神さまカッコわるいー」
「うるせぇ、怖いもんは怖いんだ!」
暗闇の中に何がいるか分からない洞窟という恐怖空間。
相変わらずのビビりを発揮していた空は「さっさと行こうよー」と言って先に進んで行ってしまったティターニアの後をイヴの袖を掴みながらも追っていく空。
地脈のある場所まで瞬間移動するという手段もあったが、ティターニアが洞窟探検したいと言って聞かなかったので、素直に進むことになっていた。その時にさり気なくイヴもティターニアに加勢していた。
二時間ほど歩いた頃、空の足取りは入った時よりかはしっかりとしたものになっていた。
この道中、洞窟内で休んでいたのであろう昆虫の群れに遭遇したり、空が足を滑らせてパニックになりかけたり、ティターニアが何処かへ行ってしまうといったハプニングがあったのだが、それを除けば常人の洞窟内の移動よりも遥かに速いスピードでの探索をしていた空たち。
それもその筈、どれ程運動しようが疲れなど感じない体の空とイヴ、そもそも疲れる体がない半実体のティターニアという編成の空一行は、本来ではあり得ない速さでも探索を可能としていた。
そんなこともあり、洞窟への恐れも薄くなってきていた空へ、イヴが呼びかける。
「マスター、この下約20メートル、強い魔力の反応があります」
「ん?地脈はもっと下じゃなかったっけ?」
「はい、おそらくこの反応は別のものかと思いますが、この世界に来てから有数の魔力量の反応があります」
「サラマンダーさんにも匹敵するかと」
「大精霊レベルの魔力量か、じゃあここの精霊のものだったりするんかな」
その話を空の肩で聞いていたティターニアがそれを否定する。
「違うと思うよ神さま、僕の感がこれは精霊の魔力じゃないって言ってるし」
「神さまの魔力には似てるんだけど、なんかちょっとだけ違うんだよね、生き物とかでもないんだけど、うーんなんて言ったらいいのかなぁ」
うーんうーん、と悩みだしたのを大して関係ないから、と言って止めとりあえずはその場所を目指して進むことにした空。
生き物ではないとのことだったので、はたして一体どんなものが待っているんだろうと期待して歩みを速めていった。
イヴの報告から一時間程経った頃、思った以上に曲がりくねった道のりを、時々洞窟を魔法でこじ開けたりしながら進んでいった空たちは、大規模の魔力の反応があった場所までたどり着いていた。
そうして、空たちを待ち受けていたのは、壁や天井の至る所から、僅かに発光している光を反射して透き通った水晶が生え乱れる天然水晶の発生地だった。
その水晶の一つ一つには、大きさによってまちまちの魔力が籠っており、許容量を超えた魔力が光として出て行っているのだと、空の身体に当たる光の魔力の量によって理解することが出来た。
水晶たちの魔力の総量は、確かにサラマンダーの放つ莫大な魔力に匹敵するものだったし、魔力を感知する力に長けていない空ですらその魔力の圧に圧倒されていた。
けれどそれ以上に、水晶が放つ光と透明の水晶が反射する光が空間全てを美しい彩色で満たしており、
魔力の圧以上の感動を空たちに与えていた。
「こんな綺麗なものがニューアースにはあるとはな……」
「はい、とても美しいです」
「すごいなぁー!色んな光が混ざってて面白いね!」
「あぁ、それに魔力量も俺がこんなに感じ取れるくらいには強いし、こんなになったのも地脈が近いからか……?」
「その可能性が高いと考察します」
そうやって目の前の光景の感想を漏らしていると、イヴが突然水晶へと叫んだ。
「そこにいるのは誰です!ゆっくりとこちらへ来なさい!」
イヴが何者かを察知したらしく、水晶の影を睨みながら臨戦態勢をとる。
そのイヴの警戒度合に空とティターニアも身構える。
コツ、コツ、と硬質な音が静まり返った水晶の洞窟に響く。
ゆっくりと水晶の後ろから現れた存在。
それは、ずんぐりむっくりとした茶髪の小さな人間の子供…………の形をした精霊だった。
その体躯よりもずっと大きいピッケルを担いでおり、精霊なのに服を着ていた。
厚ぼったそうな生地の作業服であったため、丸っこい体格をよりふっくらさせており、とても可愛げであった。
魔力量はサラマンダーやティターニア程ではなかったが、そこらにいる野生生物とは比べ物にならない量の魔力を秘めているのが分かった。
そんな精霊が、こちらを不機嫌そうに見つめて言う。
「なんじゃお前ら」
「ちっちゃ」
「いきなり小さいとはなんじ…………」
「もしかしてその魔力、わしらの主さんであるかの?」
「まぁ、創造神ではありますけども……」
「そうか、やっぱりあんたがわしらの創造主さんじゃったか」
「あんたらがここに入って来た時から何やら変な魔力の奴が来たとは思っておったが……」
「で、その主さんがこんな洞窟に何の用かの?」
「地脈の操作をしに来たんだ、この奥にあるか?」
「地脈か……まぁあるにはあるぞい」
「とりあえず付いて来るといい、そこのしかめっ面のお付きさんも一緒にの」
「僕はぁー?ぼ、く、は?」
「こうなりそうな気がしたから無視したんじゃよ」
「ぬがあぁぁぁぁ!」
目の前で暴れるティターニアを適当にあしらって、空たちを洞窟の奥へと案内していくずんぐり妖精。
その道中でいくつか質問を投げかけていく空。
「どうしてこんな洞窟の中にいるんだ?」
「気付いたらもうここにいたからのう、外に出たこともあるが、結局岩や鉱石の中で暮らすのが一番じゃわい」
「そういうもんか」
「ここに他の妖精とかはいるのか?」
「おう、沢山いるぞい、みんなわしと似たような背格好じゃから分かりずらいかもしれんがの」
「その中じゃ一応わしがまとめ役になっておるからの、それでわしが洞窟に入って来たお主らの様子を見に来たという訳よ」
「なるほどなぁ」
「お前らって、仲間も含めて名前ってあるのか?」
「ないのう、わしら精霊は互いの名付けは出来んからのう」
「そうじゃ、主さんが付けてくれんかの?」
「いいのか?」
「うむ、折角わしに名付けが出来る創造主さんが来たんじゃから、ここでしっかり名前を付けてもらうのがいいと思うしのう」
「じゃあ、そうだな…………」
目の前の精霊にどういった名前を付けようかと少し悩む空。
条件的には間違いない名前が思い付いているのだが、サラマンダーとは違って他にも似た精霊がいるとのことなので少し思い悩む空。
ほんの少しして、決心して名前を告げる。
「お前の名前は、グノス、ノームのグノスだ」
「グノス……か、いい名前じゃ、しっくりくるわい」
「そのノームというのは、わしら全体の名前かの?」
「うん、他にも一杯仲間がいるならお前らをどう呼ぶかの名前も必要になりそうだろ?」
「確かにその通りじゃ、感謝するぞ主さんよ」
そう言うノームの体は僅かに光を放っており、名付け前後での魔力量の増加を感じた空だった。
やがて「ここじゃ」とグノスが言い、目的地らしい場所に到着する。
狭い横穴を抜けたそこには、洞窟とは思えないほどの広さの空間に建ち並ぶ鉄や石製の建造物と、その底を流れる溶岩の川による光に照らされた熱気溢れるノームの里であった。
グノスの仲間が焚いているであろう火や、溶岩の熱気により、洞窟内の冷えた空気とは全く違った熱量がそこを包み込んでいた。
周りを見渡すと、空たちが今立っている大きな突き出した岩の先から、鉄製の橋が何本も家々へと繋がっていた。
下を見れば、溶岩の川の近くでは、グノスに似たずんぐりむっくりのノームたちが何かを作っており、硬質な弾ける音がよく響いていた。
「ここがわしらの里じゃ、金属の弾ける音がよく聞こえるいい場所じゃよ」
「すごいな……こんなに進んでる文明の場所があるなんて思わなかった」
「神さまここあついよー!」
火山の時のようにぐったりし出したティターニアに魔法をかけると、空はノームこの場所への質問をし始めた。
「これ全部ノームたちで作ったのか?」
「おう、そうじゃよ。わしらノームは鉄や石を弄るのが好きでのぅ、その勢いのまま色んなものを作っておったらこうなったんじゃよ」
それもそうか、と内心で納得する空。
空の知識でも、ノームという妖精はもの作りが好きで、武器や道具などを好んで作っていた記憶があるからだった。空の知識がベースであるニューアースでも、その特徴はやっぱり変わらないらしい。
「おーい、わしらの主さんがおいでなすったぞー!挨拶せいー!」
声を張り上げて他のノームたちに呼びかけるグノス。
グノスの呼びかけに応じて、作業を止めたノームたちがぞろぞろと広場らしき場所に出て来た。
広場のお立ち台らしき所に立たされる空。その横でグノスがノームたちに話をしていた。
「この方はわしらを創ってくださった創造神である……」
名前何じゃったっけ、と小声で聞いてくるグノス。
そういえば自分の名前は言ってなかったなと思い、声を大きくして言う。
「創造神の空でーす!みんなよろしくー!」
「とのことなので皆仲良くするように!主さん方は地脈の操作をしに来たようじゃから、後でわしが案内をする!」
「後、わしの名前はグノスじゃ!そしてわしらの名前はノームとなった!のでこれからはわしのことはグノスと呼ぶように!」
「それじゃ、戻ってもいいぞい!」
地脈の話をした際に多少のざわつきがあり、一体ここの地脈には何があるのかと思う空。
その後すぐにグノスによる解散の号令が掛かり、大勢のノームに取り囲まれ、質問攻めにあっていた。
そんな空を助けようと横でイヴが奮闘していたが、全力を出して傷つけるわけにもいかず、「ますたー」と言って何処かへ流されて行ってしまった。
そして現在その人混みの中心である空はというと、
「神さまわしにも名前付けとくれ!」「わしは名前より壊れない鎚が欲しいのう!」「外に行ったことがあるんじゃろ!?どうだった!?」「いい鉄!いい鉄が欲しいんじゃ!」「そこ押んじゃないぞい!」「わしも名前がいいのう!」
といったようにノームたちの願望が多分に入っていたものの、名付けだけならと思い、ノームたちを一列に並ばせ名付けを始める。
他のノームたちもグノスと同じように見た目は結構愛らしく、テキパキと住処全員の名付けを終わらせる空。
それが終わってノームたちもまばらになった広場に座り、一息つくいていた空にグノスが声をかける。
「主さんや、目的の地脈に案内するから付いて来るんじゃ」
「あと、そこら辺でチビ妖精とお付きさんがのびておったから連れて来たぞ、ほれ」
「ま、マスター、面目ありません……」
「神さまぁ……僕ここきらーい!」
少ししょげているイヴと、文句ばかり言うティターニアと合流しグノスに付いていく。
ノームたちの住処の底、それよりももっと下。
洞窟内と比べるといくらか整備された穴を進んで行く空たち。
「結構きれいにしてるんだな」
「まぁ、地脈はわしらにとっても大切な場所じゃからの」
「だが今は少し問題があっての」
「問題?地脈にか?」
「そうじゃ、ここの地脈の傍が海と繋がっておるんじゃが、その海から来たちと厄介なやつがいての、おちおち作業も出来んのよ」
「何か作るぐらいじゃったら上を通ってる溶岩で足りるんじゃが、もっと強い熱が必要になった時に強い魔力源が必要でいつもは地脈の溶岩を拝借しておったんじゃがの」
「あいつが海に居座ってからはあの水晶群からしかいい魔力が採れないんじゃよ」
「ああ、だから水晶群にいた時もピッケル担いでたんだな」
「俺たちを見に来たわりには水晶持ってたから、何してんだろって思ってたよ」
地脈へ続く道を下りていく空たち。
少しして、目的の地脈があるという地下海岸に着き、その場所にいた『厄介なやつ』を目の当たりにする。
そこにいたのは、海面の下で悠々と眠っている海龍。
ほの暗い海の底まで続いているであろうその長い体は、大きな鱗によって守られており、目を閉じている頭からは波に逆らわぬように生えた巨大な角があった。
その生き物は、空の知識では、
『リヴァイアサン』または『レヴィアタン』と呼ばれた、海を守る巨大な海神である龍。
その龍が海を泳げば地上では津波が起こるとされ、鱗にはどんな武器も通用しないとされた。
そんなリヴァイアサンが地脈の傍で眠っていたのだった。




