20 浮遊と森と危機
空たちが転移したのは上空。
雲にかかる少し下の辺り、そこでニューアース全体を俯瞰するために宙に止まっていた。
目下に移るのは、広大な大地。
その大地には、大から小規模だったりの様々な森林や、天にそびえる様な山脈の方から流れ落ちる大河、青々とした平原を駆けている多種多様な生き物、海に目を向ければ、今も噴火を続けている活火山が島を成していたり、見たことのない生き物が海上を泳いでいる様を遠くから見ることが出来た。
「これが……ニューアースかぁ…………」
大自然が放つ純然たる迫力に息を吞む空。
それは、隣で手を繋いでいるイヴも同じだったようで、
「マスターは、このような素晴らしい世界を創っていたのですね……」
「世界をこんなに間近で見たのは初めてなので、何だか心が弾むような、マスターの元居た世界の言葉で表すならワクワクします!」
空の脳内を読み取っているので、創造に必要な知識群の他に、空が知っていた地球の知識も得ているイヴ。
創造神の力を用いれば地球がある世界の情報の全てを取得出来るが、空が持ち空に馴染んでいた知識というのが嬉しく、完璧な情報の取得はせず、空と同じ知識であることをただ喜んでいた。
「そうだなぁ、ワクワクするな!」
「じゃあ、山とか深い森とか探して、それっぽい場所の地脈いじっていこうかな」
「それもお供してよろしいでしょうか?」
もちろん、と相槌を打ってそれらしい場所に目星を付け、そこへ向かっていく空たち。
空中を移動するとき、少しの方に下を飛んでいる鳥の群れを見つけたり、高度を上げて雲の中に突っ込むなど、創造神の力を使って自由に遊びながら移動していた。
イヴが、精神年齢相応にきゃっきゃっと喜んでいるのが嬉しい空。
感情を持ち始めたのは空が創造神になってからなのだから、感じるもの全てが新鮮なのだろうと察する。
けれど、そんなイヴの様子を見て、もっと楽しませようなどと思ってアクロバットな空中移動をするものだから、空は目を回してしまった。
まぁ、創造神の身体になり、三半規管すら強化された空にとっては、回した気がするぐらいだったが。
目的地上空に着いて、ふわり、と優しく地面に下りる空とイヴ。
別にわざわざ地上に下りて操作する必要はないのだが、より精密に操作をするなら地面に触れていた方がいいのではないかと言うイヴの助言により下りることにした空。
二人が最初に下り立った場所は、背後を山脈に囲まれ、背の高い木々が立ち並ぶといういかにもな立地の青々とした森林だった。
森の中では、聞き覚えの無い動物の鳴き声が響いており、高く生えそびえる樹木のせいか太陽の光もまばらにしか差してこないせいで暗く、何だか不気味であった。空は、自分の創った森ではあるがさっさとこの場所を離れたくなっていた。
一方イヴはというと、生まれて初めて下り立つの森に大興奮だった。
「わぁ、これが森なんですね!凄いですよマスター!」
「おーそうだなイヴ?俺は地脈の操作するから周り見といてくれよ?」
そう言っている空の足は恐怖のせいか震えていて、一秒でもこの場所にいたくない空はさっと地面に手をやると、地脈を辿っている魔力を感じとり、それを操作していった。
空が地脈の操作に集中している間、イヴは空に言われた通りに周りをよく観察していた。
この森という場所にはどんなものがあるのだろう、という好奇心の元の観察ではあったが……
そうして森を見ていること数分。
空の方を見やるイヴであったが、作業はまだ終わらないらしく、目を閉じ地面に手を当てて集中している空がおり、再び森の観察を開始する。
すると、背中の方にふと視線を感じ、すぐに後ろを向く。
そこには何もおらず、ただ空が作業をしているのみ。
疑問符を浮かべてまた観察に戻るも、正面を向いたその時点でまたもや背後からの視線。
流石におかしいと思ったイヴが、集中している空に呼びかける。
「マスター、私たちの方を見ている何かがいます、どう致しますか?」
「………………」
「マスター?聞いていますか?ま、す、たぁ!」
肩をぽんぽんと叩くが反応なし、顔をぺちぺちと少し強めに叩いても無反応。
その時の空は、魔力という未知であり、操作する感覚も普通のものではないのエネルギーの扱いに集中しすぎるがあまり、地脈の操作に全神経を捧げてたのだ。異常な時間感覚が外部との感覚を断つという仇になった瞬間だった。
そんなことはつゆとも知らぬイヴは、主の指示がない状態での判断を迫られる、という初めての危機に瀕していた。
創造神の力を使って強制的に空の意識をどうにかイヴに向けさせることも出来たが、創造神の力を無許可で主に向かって放つなど言語道断。従者としてあるまじき行為である、という意識があったためその選択肢は無かった。
よって、現在イヴがとるべき行動は一つ。
空の作業に支障が出ない様にこちらを見ている何かの存在を明らかにし、場合によってはそれを退けること。
今イヴが背中に感じている視線は一つ。位置はおそらく木の枝の上。高さでいうと8メートルほど。
イヴがいる森の木は高いため、伸びる枝も当然高い位置にある。
その距離の生物一体ほどであれば、どんな生物であっても瞬時に倒すことが出来るだろうと、そんな予想をするイヴ。
なぜイヴがそんな精確に視線の位置を把握できるか、なぜ遥か頭上の未知の生物相手に簡単に打ち勝てると思うのは、それは神想人間という特殊な種族が持つ特異な身体能力が故だった。
神に想われ、神に創られる人間。そんな種族が持つ身体能力が平凡であるはずが無く、五感から運動能力、思考能力までその全てが人間を凌駕しているのだった。それまでのイヴは、創造神に願われた通りの身体能力でしか生まれず、ホムンクルス本来が持つ能力をあまり持たずに生まれて来たのだ。
そのイヴが、全力で何かに対処したとき、その処理速度は人間のそれを遥かに勝るものとなるだろう。
そんなイヴがその場でとった行動は、
「何者です!姿を現しなさい!」
創造神の力を用いて自身の言葉を全ての生物に理解出来るように変換し、対話による問題の解決だった。
暴力による解決は生命を尊ぶ空が好まないだろう、という考えの元であった。
イヴの言葉が通じたのか、頭上の枝の裏からそろそろと出てくる影が一つ。
「あなたたち、だあれ?」
首をこてんと傾げて尋ねてくる生き物は、その体を淡く光らせた半透明の小さな人だった。
空がその姿を認めたら、きっと『妖精』や『精霊』と呼称するであろう生き物は、不安げにイヴを見つめていた。
魔法生物出現!
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