19 魔力とメイドと地形
ニューアースに魔法という概念を創り、その詳細な設定を考えていこうとしていた空。
空の中にある魔力、または魔法といった存在は、基本的に実体を持たず気体でも液体でも固体でもない何にでも宿るようなもので、魔法や何かしらの能力に自由に変換出来るエネルギーという印象だ。
そのイメージを念じ、もっとニューアースの魔力の設定を詰めていく。
人間より魔族の方が魔力を多く持てる、魔法は魔力というエネルギーを別のエネルギーに変換するもの、魔力を取り込んだものはより容易く魔力を扱えるようになるが取り込みすぎると変異したり暴発する、魔力の発生源は惑星の核であり地脈にのって地上に出てくるなど、様々なことを想像し、そのたびに念じてその設定を適用していく。
そうして、様々な設定を盛り込んだニューアースの魔力が完成した。
ソファーに座ってずっと考え込んでいたせいか、所々身体が凝っているような気がしたので伸びをして身体をほぐす。
創造神の身体になっているのでそういった身体の不具合は無くなっているようだが、人として
んーっ、と伸びをすると思わず出てしまう声を上げていると、芳しい紅茶の匂いが漂ってきた。
香りがした方向へ目を向けると、コーヒーを淹れるためのものが置いてあるテーブルの隣、そこにガラスのティーポッドなど紅茶を淹れるための器具が創られていた。
紅茶の抽出を静かに待っているイヴは何だか美しかった。
ピンと伸びた背筋、ティーポッドから全く目を離さない集中した様子、それら全てが絵画のように整っていたのだ。
けれど不満な点が一つ。着ている服がワンピースではなくメイド服ならなぁ、と心の中でぼやいたその時、自分が創造神であることを思い出し、ふとメイド服になんないかなと想う。
空は、イヴは従者として例外的なところがあったりするので今の想像は発動しないだろうから、後でメイド服に着替えてもらおうように言おうかな、と思いながらそう想像した矢先。
瞬き一つほどの間、目の前のイヴの服装がメイド服になっていた。
しかも、秋葉原等で有名なミニスカメイド服に。
「え、えっ!ま、マスター!?」
はっとして短いスカートで股の辺りを隠そうとする。
(こっからじゃ風でも吹かない限り見えな……あぁ俺がそれすると思ったのね……)
性に関する自分への信頼の無さにちょっと凹みながら、まじまじとメイド服姿のイヴを見る。
自分に起こっていることに混乱してこちらを問いかけてくる様はとても可愛らしく、白と黒を基調にしているメイド服に白い髪がよく似合っており、ミニスカから覗く白く伸びた足に美しささえ覚え、ほんのりと朱に色付いた頬や耳が何とも……
などとそんなことを思って、ミニスカ姿のイヴを眺めていると、思考の狭間、またイヴの服が変わっており、今度は古き良き、長いスカートにシンプルな装飾のメイド服に変わっていた。
きっとイヴが自分で服を変えるように力を使ったのだろう。
「マスター!メイド服であればこちらで十分では!」
「まぁそっちでもいいけど……」
こちらを睨みつけながら淹れたての紅茶を渡してくれるイヴ。
クラッシックなメイド服もいいなぁ、と思いながらそれを受け取る。
紅茶の味もコーヒーと同じようにとても美味しかった。
目ではメイド服の美少女、舌では丁度いい温度の美味しい紅茶、二感を完璧に満たし少しの間寛ぐ空であった。
二杯目の紅茶を飲み干す頃、空は次にすべきニューアース創造計画に思いを馳せていた。
次にすべきこと、それは文明の興りそうな場所の調整だと考えていた。
川や湖、海の近く、そういった水場の近くに人間は集まる。他にも平地だったり、近くに森林があったり、魔物などがいる世界であったらそれらが少ない場所というのもあるかもしれない。
そういった人間が定住しそうな場所に魔力が集まるのを防ぐ、つまり地脈を操作してヤグたちのような魔族が出現し、定住する位置を人間の生活圏とあまり被らない様にするためだった。
そうと決まればやることは早く終わらしたい性分の空、ニューアースに転移しようとして、ティーカップを拭いていたイヴに声をかける。
「今からニューアースの創造するけど、イヴも来る?」
「よろしいのですか!?」
「私もニューアースを間近に見たいです!」
バンッ、と手を衝いて嬉しそうにするイヴ。
テーブル上の拭かれたティーカップがカタッ、と揺れるほどの衝撃だった。
「う、うん、全然いいんだけど、何でそんなにテンション高いの?」
「それは、今までの創造神様方は、この場では優しくしてくれる方は沢山いましたが、間近に世界の創造をするという時には皆様何も言わずに行ってしまうのです」
「創造神様のご命令がなければ転移を使うことも出来ないので、創造している間はずっと此処に……」
なるほどね、と相槌を打ってイヴを慰めるが、空には歴代の創造神のその行動の意味が何となく分かった。
みんな気付いていないのだ。
イヴは前は表立った感情が無かったのだし、創造するところを直で見たい、という欲求がホムンクルスにあるだろうと察することの出来る人間はまあいないだろう。
そんな出来事があって、ニューアースの創造にイヴも同行することに。
自分の意志で人と一緒に転移するのは初めてなのでやり方が分からず、イヴの前に手を差し出し、目で手を握るように指示する。イヴは、その咄嗟の出来事に目をぱちくりとさせていた。
元創造神が勝手に転移させた時に、肩に手をやっていたので接触が条件なのかなと思い、手を繋いで転移しようと考えた空。
その時の空は、一緒に転移するなら手繋ぐのがありがちだよなー、と特に考えずに手を差し出していたのだが、おずおずと差し出して来たイヴの柔らかい手を握った瞬間、女の子と手を繋いでいるという事実を認識した。
(あ!?何でイヴの手握ってんだ俺!?)
(てかイヴの手柔らか!男のごつごつした手とは全然違うんだな……)
(てかこれ女の子の手じゃんんんんんんんんんんんんんん)
童貞は女の子と手を繋いだら死ぬ。
そんな当たり前のことに注意を払わなかった空の慢心だった。
ショートした頭で握った手の感触を味わっていると、少し冷えた目でこちらを見てくるイヴが、
「マスター、少し……気持ち悪いです、その、顔とか手がワキワキしているのとか……」
「あの……ごめん…………」
今まで感情を持たなかったホムンクルスに、嫌悪という感情を覚えさせた空。
ある種の人間はその感情を向けられることを、ご褒美という。
美少女に、というフィルターを通すとより嫌悪を快感に感じる人間が増えるそうだが、生粋マゾヒストか、はたまたイヴが美少女だからか。
空は、イヴの「気持ち悪い」にえも言われぬ快感を覚えてしまっていた。
どっちにせよ、中学生くらいの女の子に軽蔑されて興奮できる変態であるのは間違いない。
変態とメイド服の美少女は、やがてその姿を空間からふっと消した。
イヴかわいい回です。
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