2 創造神と俺と決心
「いや、神て」
「いやいや、神て」
『いや結構楽しいよ神、なんでも出来るし』
正直いきなりすぎて、能天気で有名な俺でもたじろいだ。頭の中の整理を少し付けてから、
「お、俺の最強ハーレム冒険譚は?」
『あはは、そんなのないよ』
なんだか嬉しそうな、嘲笑するような調子で言う。
ムカッと来たがパッと思考を切り替えて問い直す。
「神って、あんたが神様じゃないのかよ」
『まぁ、私は神だよ』
『この世の森羅万象、ありとあらゆる法則を創り上げた、創造神ですらあるよ』
『でもね、もう飽きたんだ』
『創るのは飽きちゃった』
飽きた…ってそんな子供みたいなことあるんだ。
神なのに。
『そ、神だって飽きるんだよ』
『一兆年』
『私が知性をもって存在したのは一兆年前のことさ』
『何も無い所に出現して、全てを考え、己が存在を訝しんで今までこの世を創り上げてきた』
『さすがにね、飽きたのさ、何も無いここにあぐらをかいて有るのもね』
「じゃあ、そんな全部に飽きた神様は俺にその創造神を譲るってことですか?」
『うん、そう思ってくれていいよ』
神に飽きた神が俺に神を譲るって……
じゃあ俺は何をすればいいんだ?
『君にはねぇ、世界を創ってもらうよ』
う、うちゅう?
突飛な発言にキョトンとする。
『ほら、私が神を辞めた後にさ、私が生き物として暮らす世界が必要な訳さ』
『前の君がいた世界、地球があって、太陽系があった世界に転生したっていいんだけどさ』
『あの世界のことならもう全部知ってるからさ、面白くないんだよね』
んな勝手な…
ふと思った。
ん?これ俺が目の前の神様と同じ様な道を辿ることにならないか?つまるところ一兆年近くを世界を創るのということに費やさなければいけないのではないか?
地獄か?いや地獄よりも酷いな。
というかこの神様ヤバくないか?
『あははは、めっちゃウケる』
『君の思ってる通り、死ぬよりやばいよ、世界創りって』
『まぁ、もっとやばいのもあるけどさ』
もっとやばいのあるのか。
だがそうではなく。
「死ぬよりやばいってお前……」
「ひょっとして俺ってあんたの私利私欲の為にタダ働きさせられに来たってこと?」
『あったりー!』
あ、当たりって…
マジでコイツふざけてる…
「嫌だぞ!俺は絶対に嫌だぞ!」
「あんたは生まれてからこの世界しか知らないんだろうが、俺は色んな娯楽やら人間と出会ってきたんだぞ!」
「少なくとも一兆年ぐらいかかる作業なんか出来るかこのクソ神!」
「いっそ殺せ!」
拷問より酷いことをされそうなので申し訳程度の敬語すら消え去ってなんでも言った。
すると、目の前の異常に黒い神が、
『まぁ、そうなるよねぇ』
『君なら結構大丈夫そうではあるんだけどさ』
『そういうの分かってたからさ、もし私の思い通りにならなかったらの案もしっかりあるんだよ』
『君、神にならないならさ』
『罰があるに決まってるよね?』
そう神が言った瞬間、神の体が光のように広がり、白い空間を黒く染めあげた。
その空間は、何も無かった。
漆黒の中、光もなく、目の前にはあの神すらおらず、存在感の何もかもが消え失せていた。
何が起こったんだ?
ふと、自分の体を意識する。
手が無い。挙げる腕すら無く、走るための足すらなく、気付けば眼すら動いている感覚がない。
ただ恐ろしく暗い、いや本当に何も無い空間で思考だけが動く。
何も動かない、音の一つすら出せない。勿論声も出せない、叫ぼうと思っても声帯がないのだろう。
少しずつ何かが障る、徐々に怖くなる。
恐怖を打ち消そうと叫びをあげようとしても、何も出来ず、走り回って何も動かない。
精神に蛆虫のような何かが湧いてくるような気さえしてくる。
ぐずりぐずりと何かが蝕まれる。
精神の欠片が崩れ落ちていく。
暗い、暗すぎて本当に狂いそうだ。
情動の限りのたうち回ることすら許されない。
何も無い、思考しかない、その思考すらに無という狂気に当てられ、薄れていきそうになる。
数分?いや数時間?それとも数年?
いくら時間が経ったかすら分からない。思考だけが止めどなく回っていく。
時間が過ぎていく。
思考がやがて緩慢に、自分の何処か遠くになっていくのが分かる。
時間のみが過ぎていく。
嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖いこわいコワイくらいよなんで俺がというかこれはくらいのかああ嫌だくるいたくなんてないないないないないなあああああ
叫べればどれ程楽だろう。
時間だけが過ぎていく。
こんなのなら、神やってた方がずっとずっとずっとマシだ。
『ははは』
『やっとそこに行き着いてくれたねぇ』
パッと周りが明るくなる。
初めてこの空間に来た時の様な眩い光の空間に移り変わっていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
さっきの空間でずっと叫ぼうとしていた反動で声が出る。
『おお、煩いねぇ』
『まぁでも、結構耐えた方かな?』
目の前にはまた、黒い神がいた。
「お前お前お前お前お前!」
「なんだあの空間は!」
恐怖やら、狂気やらですっかり混乱していて、まくし立てる。
『あれが何も無いところでーす』
あれが、何も無い?
何も無いって、本当に何も無いのか?
『そりゃそうに決まってるでしょ』
『無だよ、無』
『意識だけ存在する、虚無』
『神にならないなら君をあそこにずっと入れる』
『死という概念すらない空間に一兆年よりずっと置きっぱなしにしまーす』
狂ってる…
少し居ただけで意識が乱れてきたのに、ずっと?
嫌すぎる、死なんて比較にならないほど嫌すぎる。
「やる、やるって神」
『お』
「世界創ればいいんだろ?お前の住処になるような」
『そうそう』
『創る世界はどんなのでもいいからさ』
「いいよ、そんなんでいいならいくらでもやってるやるよ」
「あんな場所にいるよりはずっとずっとマシだ」
『うんうん、いいじゃん』
『それにさ、君が神になったら話し相手とかもあげるよ』
「話し相手?そんなのいるのか?」
『うん、管理者』
『世界を管理するコンピュータみたいもんなんだけど、感情とか知能付ければ話し相手にはなると思うよ』
『私が直々に創ったホムンクルスだし』
「ならもうマシってレベルじゃないな」
正直初めから言って欲しかった。
でも、あの空間に行かなきゃそれすらも分からなかったと思うと……
うーん、でもな………………
「ま、いいか」
『そうそう、あんま考えると毒だよ』
なんだか勢いで色々決まっていくが、よくよく考えてみると世界を創るのも案外面白そうだ。
文明だったり、地形だったり、人だって意のままに創れるなら、ゲームみたいで楽しいかもしれない。でも、命を扱うのかぁ……俺に出来るかなぁ…………
『整理も大体着いたみたいだし、そろそろ交代してもいいかい?』
「え、もうか?」
『うん、創造神って結構雑になんでも出来るからさ』
『なんか分からないことあったら、話し相手のホムンクルスに聞いてよ』
『ほら』
神から何かを投げられる。
くるみぐらいの、何かの種?だ。
「これは…?」
『それが、話し相手の子の種』
『神になったら、適当に傍に置いておけば、地面に根を張って育って、君が望んだ何かが生まれる』
『君が願った通りに生まれるからさ、しっかりと内容は考えて放置しなよ?』
また、ゲーム要素的なものを…
でも、自分の想像通りのものが育つっていうのはとてもいいかもしれない。
育つ過程を見るのも楽しいかもだし。
『じゃあ、もういいかい?』
なんだか楽しげな声の神が言う。
『私は君が星を創ったらそこに住んで、成長を見守るからさ』
『後は全部君に任せるよ』
スッと気配が薄れそうになる。
「あ、ちょ、星の創り方ぐらい教えてけよ」
話し相手が育つまでは誰にも世界の創り方など聞けないのだ、今しかない。
『あー、世界の創り方はね、想像だよ』
『君が、こうあればいいなぁってのを想像して、それが星やら大陸やらを創る』
『それが法則性に乗っ取ってようが乗っ取っていなかろうが、その時は君が神だから心配いらないよ』
『全てを創る君が法則になるからね』
「じゃあ、俺が法則まで考えたらその法則までそのまま適用されるってことか?」
『そう、君が思えば、世界は平面になるし、星だって広い宇宙に一つだけになる』
『あまつさえ、惑星に栄えるのは、山より大きな虫かもしれないし、生物を生み出す海は、溶岩になってもいい』
それは……本当にとんでもないな…………
「でも俺は地球がある前の世界の法則が染み付いてる」
「そんな世界でいいのか?」
『勿論さ!私が創った世界の法則が一番慣れ親しんでいて心地がいいからね』
『でも君の創る世界だと、細部は私の世界とは異なることになるだろうからさ』
『その違いが楽しみなのさ』
「なるほどな」
「何となくは分かったよ、つまり俺は本当に自由に世界を創っていけばいいだな?」
『そうそう、やっと意思が固まってきたと見えるね』
『じゃあ、私は君が初めての星を創るまでどこかに漂わせてもらおうかな』
「漂うって?」
『言葉の通りだよ、何かが存在する場所をただ漂うのさ』
『暇つぶしにはちょうどいいんだ』
一兆年間世界を創ったやつの言うことはイマイチ分からない。
きっと、一兆年過ごしたやつにしか分からないことなんだろう。
ふと、ふと思った。
「あ、なあ創造神」
『ん?なんだい』
「お前が神を譲った後ってお前の力はどうなるんだ?」
「俺が創った星にいるとしてもだ、例えばその星で天変地異が起きてお前が死にかけるようなことが起きるってことが起きるんじゃないか?」
俺が悪戯で殺そうとする、みたいなこともあるかもなのだ。というか一瞬思った。
こいつの気紛れのせいで狂わされかけたし……
『あー、それは大丈夫だよ』
『私は神だから』
「は?」
「いや、神は俺に譲るんだろ?ならお前はもう神じゃ無くなるんじゃないのか?」
『譲っても神は神であり続ける、そうあるんだよ』
『私は神だからさ、死んでまた転生してもいいし、死んだ後に意識を断ってもいい』
『また、奇跡を起こしてそれを退けても、不死になってもいいんだ』
「んな勝手な…」
『ふふ、それが神だからね』
『でも、君の創った世界には干渉しないから安心してよ』
『私はただそこに生きるだけ』
『気が向いたら助言をしに来たりもするかもしれないけれどさ、大体は君に任せるつもりでいるから、何も考えずに創りなよ』
「ふーん、そういうもんか」
なんだか慣れたのかもしれない、結構簡単に納得してしまった。
それもそうだ、自分が神になるんだからなんでもアリなのだ。
小さいことなど気にするだけ……というやつである。
「よし、世界の創り方も何となく分かったし、もう行っても大丈夫だぞ」
『そうかい、じゃあゆっくりと待ってるよ』
そう言うと、黒い神はその体を霧のようにして、あっさりとどこかへ消えていった。
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