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15 ご飯と驚きと理解



 ヤグが森の方へ狩りをしに行って三時間ほど。

 すっかり日は傾きかけて、うっすらと空に朱が入り始めていた。

 頑張って身一つで魚を捕っていた空のその結果たちは、宙を浮く水の球体の中で悠々と泳いでいた。

 その数は、20匹ほど。捕った魚の保存ぐらいは力を使っても、ヤグたちの為にやってることだから……と言い訳をしていた。

 何故こんなに魚を捕れたかというと、創造神になったことによる、身体能力、感覚の強化により、地球にいた頃ではあり得ないスピードで川の中の魚を手掴みしていた。


「これで、22!」

「結構捕れたなー、てか、ヤグ帰ってこないな」

「怪我とかしてたら、力使って転移させないとだな」


 そんなことを一人呟いていると、ヤグが消えて行った対岸の方の森から、赤い体色の何かがゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。

 のそりのそりと歩いており、何か大きいものを担いでいるのは見えるが、それ以上は視力が地球の頃の比ではないほど上がった空の目でも分からなかった。


「うわっ、何だあれ、新しい人間もどきか?」

「それなら、次こそ最初から仲良く出来るようにしないと」


 そんな覚悟を胸に、その何かの姿を待っていると、その何かが、


「おまえ、どれだけ、とれたかー」


 と間の抜けるような声で呼びかけてきて、空は、なんだヤグだったか、と安心していたが、森の中から出て来たその姿に驚愕することになる。

 

「ヤグ!どうしたんだ!そんな血塗れで!」


 そのヤグの姿は、頭から足まで血塗れ、深い体毛にべったりと付いた血がグロテスクにその大きな体をぬらりと光らせていた。

 そして、ヤグの肩に担がれていたものは、毛深く大きな角を持つ牛に似た生き物だった。

 どちらかというと、ヌーとか闘牛とかに似ていた。

 その生き物は、死んでいるようで先程からピクリとも動かない。


「ヤグ……その肩に背負ってる生き物って……」


「おれが、とってきた、とちゅう、べつのに、おそわれた」

「けど、すぐにたおした、でも。そいつどく、たべれないから、うめた」

「このち、そいつの」


 ヤグは、肩に背負っている獲物の他にも、それを狙って襲ってきた生き物までも返り討ちにしていたらしい。原初?の人間の力恐るべし。


「おまえの、うえ、さかなか」


 ヤグは不思議そうに、空の頭上に浮く魚が泳ぐ水球を指していた。

 おもむろに近付いて、つんつん、と触るが水球の表面に波紋が立つだけ。

 創造神パワーで創った水槽はちょっとやそっとでは壊れないのだ。

 その後ヤグは、肩の獲物ごと川へ入っていき、体に付いた血とその獲物の内臓の血などを洗い流していた。それらを洗い終わり、ふとヤグが空の方を向き、


「たくさん、ある、おまえ、やるな」

「じゃあ、かえるぞ」


「あ、ああ」


 狩りをした後にあの住処に帰ることなど分かり切っていたことだが、未だにヤグのつがいであるレガやその子供であるルーガの空を見る目を思い出し、少し遠慮してしまいそうになるのだ。

 そんな空の悩みなど知らないヤグが、


「なにしてる、はやく、めしたべる」


 そう急かして来たので、パンッ、と頬を叩いて気合を入れ、


「分かった、今行く」


 そうして二人は、住処がある方角へと森の中を進んで行くのだった。






 ヤグたちの住処に着くと、レガとルーガが木の器を彫っていた。

 レガがこちらに気付き、

 

「ヤグ!と……ソラも、おかえり」


 恐らくどう接すればいいか迷っているのであろう態度のレガを見て、少し落ち込む空。

 すると、ヤグが作業中の二人に見えないように空いている手で空の背中を叩く。

 気にするなという意味なのだろうが、加害者である空からしてはなぜそんなに自分に対して明るくいられるんだ、という気持ちで一杯である。


「おれの、ウシと、ソラの、サカナ、ある」

「ごちそう、だぞ」


 そう言って、ヤグに駆け寄って来たルーガを撫でながら、肩の獲物を開けた地面に落とす。

 ドスン、と重い音がし牛のような生き物、ヤグたちの言葉で”ウシ”が地面に横たわり、それをテキパキと解体していくレガが、


「このおおきさ、サカナも、ある、いっかいじゃ、たべきれない」

「ヤグ、ルーガといっしょに、ほす、じゅんびして」


 レガが、ヤグたちにそう指示し、空の方をジッと見て、少し考え、


「ソラは……わたし、てつだう」


「ああ、うん、分かった」




 これも罪滅ぼしの一環、と言われたことをしっかりとこなしていく空。

 解体などという面倒くさい作業にこそ創造神の力で短縮が出来るのだが、この時の空にはそのような

発想はないのであった。

 魚を〆て内臓を除く作業がもうすぐ終わりそう、というところで別の作業をしていたレガから、


「ソラは、いきもの、なのか?」

「わたしや、ヤグがしっているいきものには、いきなりけしたり、みずをうかせたり、そういうのはいない」

「ことばを、はなせるようなやつも、いままでいなかった」

「ソラは、なんなんだ?わたしたちの、なかまでは、ないだろう?」


 そう聞いてくるレガの声音には、自身が分からないものに対する恐怖が混ざっているような気がした。

 

「うん、俺は君たちの仲間ではないよ」


 レガの言葉を否定して、大きく深呼吸をして言う。


「俺は、実は神様なんだ」

「神様っていうのは、とても強い力を持ったやつでこの世界、俺たちがいるこの森や、その外側に広がる色々な場所を空のもっと上から見守っているんだ」

「俺は、少し前にその神様になったんだけど、この世界どうなってるのか気になってこの森に来たんだけど、そこにいた君たち、ヤグやレガの見た目に驚いてしまって、思わず力を使ってしまったんだ」

「ほら、レガの体と俺の体、全然違うだろ?それにびっくりしちゃったんだけどさ、中身は、心は何も変わんないのにアホらしいよな、これで神様なんてさ」


 それまで静かに話を聞いていたレガが、おもむろに立ち上がってこちらに来て、長い大きな腕で空の頭をこつんと叩いた。


「かみさま、すごいやつ、それは、わかった」

「でも、ソラと、わたしたち、なかみ、おなじ」

「ソラ、みためはちがう、でも、さかなとれる、ヤグもかえってきた」

「なら、もういい、さっさと、ごはんたべる、いっしょに」


 そう言った後、あ、と思い出したように付け足し、


「あと、ソラといっしょにいる、ヤグ、すこしうれしそう」

「ヤグ、うれしい、わたしも、うれしい」


 その言葉を聞いて、空はただ一言、


「そっか」


 と確かな声で言った。

 そう言った空の肩は震え、目には涙が溜まっていた。


 

あらすじにある冒険云々はもう少し後になりますが、絶対に書くのでお待ち頂けると幸いです。


良ければ評価等もお願いします。

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