第96話-ふわふわ洗濯作戦!
惑星監理局、生活班補助任務
惑星監理局には、宇宙を揺るがす危機がある。
神性存在の暴走。
魔術災害の連鎖。
旧世代由来遺物の発見。
外縁宙域の異常反応。
敵性文明との交渉決裂。
そして、もうひとつ。
生活班の洗濯物が、予想を超えて増える日である。
その日の朝、生活班の洗濯室は、すでに戦場だった。
大型洗濯機が三台、低く唸っている。
乾燥機の表示灯が点滅している。
棚には洗剤、柔軟剤、消臭剤、魔術繊維用の中和液、魔力残滓を落とす専用洗浄剤がずらりと並ぶ。
籠には、戦闘班の訓練服、調査班の防寒外套、医療班の予備シーツ、食堂班のエプロン、そしてなぜか誰のものか分からない謎の片手袋が山のように積まれていた。
生活班の職員は、額に手を当てた。
「……今日は、多いですね」
もう一人の職員が、洗濯籠を見下ろして頷く。
「戦闘班が朝の訓練で泥まみれになりました。調査班は湿地惑星から帰還。医療班は仮眠室のシーツ交換日。食堂班はプリン試作で卵液をこぼしました」
「最後だけ平和ですね」
「平和ですが、汚れは強敵です」
その時だった。
洗濯室の扉が、しゅっと開いた。
「生活班補助任務、受領しました!」
元気いっぱいの声とともに、レトが入ってきた。
淡緑の長い髪を左側のワンサイドテールにまとめ、青いキューブの髪飾りを揺らしながら、レトは胸を張っている。
顔は真剣。
完全に任務の顔である。
その後ろから、エルがふわっと顔を出した。
「洗う日?」
さらにその後ろから、ロジーが両手で端末を抱え、目を輝かせて飛び込んでくる。
「記録開始! 本日の任務名、ふわふわ洗濯作戦! 参加者、レト隊長、エル泡担当、ロジー記録・実況・映え確認担当!」
生活班の職員は、数秒だけ黙った。
「……誰が要請しました?」
廊下の向こうから、副長の声がした。
「私です」
生活班職員は、ゆっくり扉の方を見た。
副長はいつもの薄い笑みで、書類を一枚持って立っていた。
「箱庭の娘たちの生活技能実習です。洗濯物を畳む、洗剤を量る、乾いた物を分類する。どれも必要な経験でしょう」
「それはそうですが」
「加えて、今日は生活班の負荷が高い」
「それもそうですが」
「そして、三人はすでにやる気です」
生活班職員は、三人を見た。
レトはきりっとしている。
エルは泡をじっと見ている。
ロジーはもう記録画面を開いている。
生活班職員は、ため息をついた。
「分かりました。ただし条件があります。洗濯機に勝手に魔術をかけない。洗剤を混ぜない。衣類を戦闘対象にしない。泡を増やさない。記録は生活班の許可範囲内」
ロジーが即答した。
「はい! 生活班さんの許可範囲内で、かわいいところを重点的に記録します!」
「重点的に、という言い方が不安ですが、許可範囲内なら結構です」
レトが手を挙げた。
「職員さん!」
「はい、レト」
「わたし、洗濯物をきれいに畳みます!」
「助かります」
「あと、必要なら敵を切ります!」
「必要ありません」
「洗濯物に敵はいない?」
「いません」
レトは真剣に頷いた。
「分かった。今日は非戦闘任務だね」
エルが、棚の上の泡立てネットを見つめていた。
「これは?」
「泡立て用です。洗剤を泡立てる時に使います」
「泡、作っていい?」
「少量なら」
「少量」
エルは小さく頷いた。
その言葉を、生活班職員は信じた。
信じてしまった。
最初の十分は、驚くほど順調だった。
レトは白いタオルを一枚受け取り、職員の手本を真剣に見た。
「まず半分」
「はい」
「もう半分」
「そうです」
「端をそろえる」
「上手です」
レトは息を止めるように集中して、タオルの端をぴしっと合わせた。
「できた!」
「とても綺麗ですよ」
「ほんと!?」
「はい」
レトの顔がぱあっと明るくなる。
「ロジー! 見て! わたし、畳めた!」
ロジーは即座に端末を向けた。
「記録! レト隊長、初回タオル畳みに成功! 端のそろい方、生活班基準で合格! 表情、たいへん誇らしげ!」
「たいへんって書くの?」
「たいへんかわいいから書く!」
「もうっ」
レトは照れながらも、畳んだタオルをそっと積み重ねた。
二枚目。
三枚目。
四枚目。
最初は少し曲がっていたが、だんだん綺麗になっていく。
レトは完全に職人の顔になった。
「この子は、端が逃げるタイプだね」
生活班職員が止まった。
「レト」
「はい!」
「タオルに意思はありません」
「……分かってるよ」
レトは少しだけ頬を赤くした。
「分かってるけど、端が逃げるみたいだっただけ」
副長が洗濯室の入り口で、静かに肩を震わせていた。
レトはそれを見て、ぱっと心配そうな顔になる。
「副長、寒いの?」
「いえ。健康です」
「泣いてない?」
「泣いていません」
「ほんと?」
「本当です」
副長は笑いを飲み込むために、少しだけ視線を逸らした。
その頃、エルは泡を作っていた。
洗面台の前に立ち、両手いっぱいに白い泡を乗せている。
泡はふわふわで、軽くて、丸くて、まるで雲を小さくちぎったみたいだった。
エルはじっと泡を見つめる。
「これ、消える?」
生活班職員が答える。
「時間が経つと消えますね」
「消えるのに、作る?」
「洗うために作ります」
「洗うため」
エルは泡を少し持ち上げた。
「かわいいのに、働く」
「そうですね」
エルは小さく頷いた。
「えらい泡」
ロジーがものすごい勢いで端末に入力した。
「記録。エル、泡の労働倫理を認識!」
「ロジー」
生活班職員が低い声を出す。
「許可範囲内です! かわいい発言の記録です!」
「ならよし」
ロジーはにこにこしながら、エルと泡を撮影した。
「エル、その泡ちょっと持って! そうそう! かわいい! 泡とエル、相性いい! 白くてふわふわで、なんか全部ゆるされる感じ!」
エルは泡を両手に乗せたまま、首を傾げる。
「全部、ゆるす?」
「雰囲気の話!」
「雰囲気」
「うん!」
エルはしばらく考えた。
「じゃあ、泡はやさしい」
生活班職員は、少しだけ微笑んだ。
「はい。今日はそのくらいの認識でいいです」
問題は、その次だった。
エルは泡を見つめたまま、ぽつりと言った。
「もっと、ふわふわでもいい」
生活班職員の目が鋭くなった。
「エル」
「うん」
「作らない」
「うん」
「増やさない」
「うん」
「魔法を使わない」
「うん」
エルはちゃんと頷いた。
頷いた。
だが、泡は少しだけ増えた。
ほんの少しだけ。
手のひらの上の泡が、ふわっと膨らんだ。
レトが気づいた。
「エル、泡、増えた?」
エルは泡を見る。
「増えた」
「作った?」
「作ってない」
生活班職員が目を細める。
エルは正直に言った。
「かわいいと思ったら、増えた」
洗濯室に一瞬の沈黙が落ちた。
副長が穏やかに言った。
「エル。かわいいと思うこと自体は禁止しません。しかし、かわいいと思った結果として現実が変わるのは別問題です」
「うん」
「今のは?」
「別問題」
「では?」
エルは泡を両手でそっと押さえた。
「止まる」
すると泡は、それ以上増えなくなった。
生活班職員は胸を撫で下ろした。
「よし。よく止まりました」
エルは少しだけ得意そうにした。
「止まれた」
レトがぱっと拍手した。
「エルえらい!」
ロジーも手を叩く。
「えらい! 泡の増殖危機を自己制御! 生活班評価プラス!」
エルは泡を持ったまま、二人を見た。
「えらい?」
「えらい!」
「かなり!」
エルは小さく頷いた。
「じゃあ、泡もえらい」
そこから作業は再開した。
レトはタオル畳み係。
エルは泡観察兼、少量泡洗い係。
ロジーは記録係兼、乾いた衣類の分類補助。
ロジーの分類能力は、生活班を驚かせた。
「これは医療班仮眠室のシーツ。端のタグが違う。これは戦闘班訓練服。泥汚れの成分が第三訓練場の土。これは食堂班エプロン。プリン試作の卵液、砂糖、焦がしカラメル少量。これは……」
ロジーは謎の片手袋を持ち上げた。
「誰のか分かんないやつ!」
生活班職員が言った。
「そこは分からないんですね」
「分かるけど、今言うとプライバシー的にだめなやつ!」
「大変よろしい判断です」
ロジーは胸を張った。
「情報倫理、成長中です!」
「その調子です」
レトが感心した顔で言う。
「ロジー、すごいね。手袋を見ただけで分かるの?」
「ふふん。記録者だからね!」
「じゃあ、このタオルは?」
レトが白いタオルを一枚掲げる。
ロジーは見た。
「生活班共用タオル!」
「すごい!」
「タグに書いてある!」
「タグかぁ!」
レトは真剣にタグを見た。
「タグ、強いね」
「強いよ。分類社会を支える小さな英雄だよ」
「タグさん……」
レトは言いかけて、はっと止まった。
生活班職員がじっと見る。
レトは小さな声で言い直した。
「タグ、えらいね」
「はい。よく言い直しました」
「えへへ」
副長はまた肩を震わせた。
その時、洗濯機が終了音を鳴らした。
ぴー。
レトが反射的に振り向く。
「敵!?」
「洗濯終了音です」
「分かってる!」
レトは赤くなりながら、洗濯機の前へ行った。
丸い窓の向こうで、洗濯物が水を切っている。
レトは真剣に言った。
「おつかれさま」
生活班職員が口を開きかけたが、止めた。
そのくらいは、まあいいか、という顔だった。
ロジーはにやにやしながら記録する。
「レト、洗濯機への労いを実施。物への敬称なし。教育成果あり」
「ロジー、それも書くの!?」
「成長記録だよ!」
「恥ずかしい!」
「恥ずかしいのも記録価値高い!」
「だめ!」
レトがロジーの端末を覗き込もうとする。
ロジーはひょいっと逃げる。
「だめでーす! 記録者の端末は守られていまーす!」
「ロジー!」
「レト隊長、タオル畳み任務を放棄して記録妨害に移行!」
「妨害じゃないもん! 確認だもん!」
「確認という名の検閲!」
「けんえつじゃない!」
二人が洗濯室の真ん中で小さく追いかけっこを始めかけた瞬間、生活班職員が言った。
「廊下も洗濯室も走りません」
二人は同時に止まった。
「はい!」
「はい!」
エルが泡を持ったまま、ぽつりと言う。
「走らない追いかけっこ?」
ロジーの目が輝いた。
「それ、競技化できる!」
レトも目を輝かせた。
「忍び足作戦?」
生活班職員が言った。
「しません」
「はい」
「はい」
「うん」
しばらくして、洗濯室には穏やかな時間が戻った。
レトは畳む。
エルは泡を洗い流す。
ロジーは分類する。
乾燥機から出したばかりのタオルは、ほかほかだった。
レトがそれを抱えた瞬間、顔がふにゃっと緩む。
「……あったかい」
エルが近づく。
「どれ」
レトはタオルを少し分けてあげた。
エルは頬に当てる。
「ふわふわ」
ロジーも横から顔を突っ込む。
「私も!」
三人は、乾きたてのタオルに頬を寄せた。
ほかほか。
ふわふわ。
洗剤のやさしい匂い。
窓から入る光。
洗濯機の低い音。
生活班職員の少し呆れた、でも柔らかい視線。
その瞬間だけ、洗濯室は任務現場ではなく、秘密の休憩室みたいになった。
レトが小さく言った。
「生活班さん、毎日これしてるの?」
「はい」
「すごいね」
生活班職員は少し驚いた。
「そうですか?」
「うん。だって、みんなの服とかタオルとか、きれいにして、ふわふわにして、また使えるようにするんでしょ」
レトはタオルを抱きしめた。
「帰ってくる場所を、ちゃんと作ってるみたい」
洗濯室が静かになった。
ロジーも、少しだけ記録の手を止めた。
エルはタオルに頬を当てたまま言う。
「洗濯は、戻る魔術?」
生活班職員は、少し考えてから答えた。
「魔術ではありません。ただの生活です」
「生活」
「はい。汚れたものを洗って、乾かして、畳む。次に使えるようにする。それだけです」
エルは瞬きをした。
「それだけ、すごい」
生活班職員は、照れたように笑った。
「ありがとうございます」
ロジーの端末が、静かに記録を再開した。
生活班補助任務。
洗濯とは、帰還後の身体を受け止める準備である。
レト発言により生活班職員一名、照れ反応。
エル、生活を魔術に近いものとして認識。
ただし職員より、魔術ではなく生活と訂正。
重要。
そのあと、昼前になってジェレミーが洗濯室に現れた。
別件の報告を終えた帰りだった。
扉が開いた瞬間、レトが振り向く。
「お兄さん!」
ジェレミーは洗濯室の中を見た。
畳まれたタオル。
分類済みのシーツ。
泡を見守るエル。
端末を抱えて満足げなロジー。
そして、なぜか棚の上に置かれた「本日の洗濯作戦進捗表」。
ジェレミーは短く言った。
「順調か」
レトは胸を張った。
「うん! わたし、タオル畳めるようになった!」
「そうか」
「見て!」
レトは一番綺麗に畳めた白いタオルを、両手で差し出した。
ジェレミーは受け取って、端を見た。
「綺麗だ」
レトの顔が、一気に明るくなった。
「ほんと!?」
「ああ」
「お兄さん、使っていいよ!」
生活班職員が慌てて言った。
「それは共用タオルです」
レトははっとする。
「そっか。じゃあ、共用としてお兄さんも使っていいよ!」
「それなら問題ありません」
ジェレミーはタオルを戻した。
「よくやった」
その一言で、レトは完全にご機嫌になった。
ロジーがすかさず記録する。
「レト隊長、局長評価により士気最大!」
「ロジー!」
「事実!」
エルがジェレミーに泡を見せた。
「ジェレミー。泡、増えかけた。でも止めた」
ジェレミーはエルを見る。
「そうか」
「うん」
「よく止めた」
エルは、ほんの少しだけ目を細めた。
「止まるの、できた」
「ああ」
ロジーが横から手を挙げる。
「局長! 私は無許可アクセスしてません!」
ジェレミーはロジーを見る。
「当然だ」
「当然を達成しました!」
「よろしい」
ロジーは満足そうに頷いた。
副長が入り口から言った。
「皆さん、生活技能実習としては上々ですね」
生活班職員は棚を確認しながら言う。
「はい。多少の泡増殖未遂と、タオルへの人格認識未遂と、忍び足追いかけっこ企画未遂はありましたが」
副長は微笑んだ。
「未遂で済んだなら成長です」
「そうですね」
レトが手を挙げる。
「副長!」
「はい」
「次の生活班補助任務はありますか!」
生活班職員が言った。
「ありますよ。次はシーツ交換です」
レトの目が輝いた。
「シーツ交換!」
ロジーも輝いた。
「大きい布! 絶対楽しい!」
エルも静かに頷く。
「ふわふわ、大きい」
生活班職員は、すぐに付け加えた。
「ただし、シーツをマントにしない。戦闘訓練にしない。布団に潜って昼寝しない。シーツの海を作らない」
三人は黙った。
一秒。
二秒。
三秒。
レトが小さく言った。
「……シーツの海、だめ?」
「だめです」
エルが小さく言った。
「浅い海も?」
「だめです」
ロジーが小さく言った。
「記録用に一回だけ」
「だめです」
三人はしょんぼりした。
ジェレミーは淡々と言った。
「規定内で楽しめ」
レトは顔を上げた。
「規定内!」
ロジーがすぐに端末へ打ち込む。
「次回作戦名、規定内シーツ交換作戦!」
エルが頷く。
「規定内の海」
生活班職員が言った。
「海から離れてください」
副長が、今度こそ少しだけ笑った。
その日の洗濯室には、最後まで泡の匂いと乾きたての布の温かさが残っていた。
三人が畳んだタオルは、少しだけ形が不揃いだった。
でも、生活班はそれを直さなかった。
端が少し曲がったタオル。
妙に丁寧すぎて四角く固まったタオル。
エルが触って一瞬だけふわふわが増したタオル。
ロジーが分類タグをつけすぎかけて、職員に止められたタオル。
それらは全部、ちゃんと棚に並んだ。
その夜。
医療班の仮眠室で、ある職員がタオルを手に取って言った。
「今日のタオル、なんかいつもよりふわふわですね」
別の職員が答えた。
「生活班が頑張ったんでしょう」
その通りだった。
生活班が頑張った。
そして、三人も少しだけ頑張った。
惑星監理局を守る仕事には、戦闘もある。
記録もある。
魔法を止める訓練もある。
外縁宙域の異常に備える夜もある。
けれど同じくらい、洗って、乾かして、畳んで、棚に戻す日もある。
レトはその日、自分の部屋で眠る前に、ジェレミーに報告した。
「お兄さん、わたし、洗濯物を畳めるよ」
ジェレミーは短く答えた。
「知っている」
「明日も畳める?」
「生活班が許可すればな」
「許可もらう!」
レトは布団の中で、嬉しそうに笑った。
「わたし、またひとつ、監理局の役に立てること増えたね」
ジェレミーは、ほんの少しだけ目を細めた。
「ああ」
そして同じ頃。
ロジーのデバイスには、今日の記録が保存されていた。
ふわふわ洗濯作戦。
結果、成功。
特記事項、生活はすごい。
レト、タオル畳み習得。
エル、泡増殖を自己停止。
ロジー、無許可アクセスなし。
生活班、偉大。
次回、規定内シーツ交換作戦。
エルは自室で、両手を見ていた。
泡はもうない。
消えた。
でも、泡を見ていた時間は残っている。
タオルの温かさも残っている。
職員さんが「生活です」と言った声も残っている。
エルは小さく呟いた。
「生活は、幸せに近い」
それから、少しだけ考えて言い直した。
「生活は、幸せの場所」
そして、眠った。
翌日、生活班の申請箱には、三枚の紙が入っていた。
一枚目。
レトより
生活班補助任務にまた参加したいです。
シーツの海は作りません。
たぶん。
二枚目。
ロジーより
規定内シーツ交換作戦の記録係を希望します。
無許可アクセスしません。
シーツの海は作りません。
記録上の比喩としての海は許可範囲か確認希望。
三枚目。
エルより
ふわふわ、する。
でも、増やさない。
生活班職員は三枚を読んで、しばらく黙った。
そして、申請箱の横に新しい札を貼った。
箱庭の娘たち生活班補助実習
次回実施予定:未定
備考:シーツの海は禁止
その札を見たレトは、廊下でぱあっと笑った。
「未定って、だめじゃないってことだよね!」
ロジーが端末を掲げる。
「前向きに解釈します!」
エルが静かに頷く。
「海は禁止」
レトも真剣に頷いた。
「うん。海は禁止」
ロジーも頷いた。
「海は禁止」
三人は顔を見合わせた。
そして、同時に言った。
「じゃあ、雲なら?」
その瞬間、廊下の角から生活班職員の声が飛んできた。
「雲も禁止です!」
三人はびくっと肩を跳ねさせた。
でも、すぐに笑った。
惑星監理局の一日は、今日も平和だった。
少なくとも、洗濯室に関しては。




