第25話-ないしょのあそび!
惑星監理局、午後の休憩時間。
廊下の端で、レトがきょろきょろしていた。
右を見る。
左を見る。
天井を見る。
床を見る。
最後に、胸の前で両手をぎゅっと握る。
「……よし。監視なし。職員なし。お兄さんなし」
その背後で、ロジーが小声とは思えない声量で言った。
「秘密作戦開始だね!」
「しーっ! ロジー、声おっきい!」
「私は存在が存在感だから仕方ない!」
「存在感しまって!」
レトが慌ててロジーの口を両手でふにっと塞ぐ。
ロジーはむぐむぐしながら、頭上のデバイスをぴこぴこ光らせた。
その横で、エルはふわふわ浮きながら、眠そうな顔で言う。
「あそび、内緒にすると楽しいの?」
「楽しいよ! 内緒って、なんかきらきらする!」
「うん、分かった。じゃあ、きらきらにするね」
エルが指先をくいっと動かした。
すると、廊下の壁際に、ぽこん、と小さな扉が生えた。
本当に生えた。
壁から、かわいい硝子細工みたいな扉が、にょきっと。
レトの目が輝く。
「秘密基地の扉だ!」
ロジーも目を輝かせる。
「記録価値、高っ! いや、秘密だから記録しない! でも記憶には残す! 心のアルバムに保存!」
「ロジー、内緒守る?」
「心の中だけ!公開しない!たぶん」
エルは扉を開けた。
向こう側には、小さな部屋があった。
廊下の壁なはずなのに、向こうは外のはずなのに、そこには別の空間が広がっていた。
丸い窓の外には宇宙が見える。
ふかふかのクッション。
小さな机。
星形のランプ。
硝子玉みたいな飾りが浮いていて、中で淡い光がゆっくり回っている。
レトが一歩踏み込んだ瞬間、ぽふん、とクッションに足を取られて転んだ。
「わっ!」
そのまま顔から埋まる。
「ふかふかの罠だ!」
「違うよ。ふかふかの床」
エルは淡々と言った。
ロジーはすでに部屋の中央へ走り込んでいた。
「第一回! 誰にも内緒のあそび会議を始めます!」
「はーい!」
レトが勢いよく手を上げた。
エルも少し遅れて、ふわっと手を上げる。
「はーい」
ロジーは机の上に、小さなホログラムを出した。
そこには大きく文字が浮かぶ。
誰にも内緒のあそび
その下に、議題が並んだ。
一、秘密基地の名前
二、秘密のおやつ
三、秘密の合図
四、秘密ですごいことをする
レトは真剣な顔になった。
「名前は大事だよ。作戦名と同じくらい大事」
「じゃあ、レト案どうぞ」
「えっと……」
レトは腕を組んだ。
真剣に悩む。
ものすごく悩む。
そして、堂々と言った。
「きらきらふかふか内緒のお部屋!」
ロジーが拍手した。
「かわいい!」
エルもうなずいた。
「分かりやすい」
「でしょ!」
レトは胸を張った。
ロジーが即座にホログラムへ入力する。
正式名称:きらきらふかふか内緒のお部屋
「次、秘密のおやつ!」
その言葉を聞いた瞬間、レトが持っていた小さな袋を机に置いた。
中には、食堂でもらった星型クッキーが入っていた。
「これ、内緒のおやつ用に持ってきた!」
ロジーもポケットから何かを出した。
小さな瓶。
中には、カラフルな砂糖菓子がぎっしり入っている。
「私は映えるやつ!」
エルは少し考えてから、手のひらを上に向けた。
ぽん。
硝子みたいに透明な小皿が現れた。
その上に、小さなプリンが三つ。
なぜか全部、きらきら光っている。
「ぷりん、出してみた」
レトが固まった。
「ぷりん……!」
「秘密のぷりん」
「秘密のぷりん……!」
レトは感動で震えた。
そして、真剣な顔でプリンに向き合う。
「これは……お兄さんにも内緒……?」
ロジーが腕を組む。
「この遊びは誰にも内緒だよ」
「でも、お兄さんにもプリン食べてほしい……」
レトの表情がぐらぐら揺れた。
秘密を守りたい気持ち。
お兄さんに分けたい気持ち。
プリンを食べたい気持ち。
全部が戦っている。
エルはプリンを見て、レトを見て、またプリンを見た。
「じゃあ、これはレト用。あとでお兄さん用も作る」
「エル……!」
レトが両手を広げた。
「だいすき!」
そのままエルに抱きつこうとする。
エルは避けない。
ふわっと受け止める。
ただしレトの勢いが強すぎて、二人まとめてクッションに沈んだ。
「むぎゅ」
「エル、だいじょうぶ!?」
「ふかふかだから平気」
ロジーはその様子を見ながら、顔を両手で押さえた。
「記録したい……! でも内緒……! 心のカメラ連写……!」
三人はクッションの上で丸くなって、秘密のおやつを食べた。
レトはプリンを一口食べて、ほっぺたを押さえる。
「おいしい……秘密って、おいしい……」
「あたしのプリンがおいしいんだよ」
エルが言う。
「秘密もおいしいよ!」
「概念を食べてる」
ロジーが笑った。
次は、秘密の合図を決めることになった。
ロジーが提案する。
「廊下ですれ違った時、誰にも分からないように合図するの!」
「いいね! どうする?」
「こう!」
ロジーは片目をつむって、指で星の形を作った。
「秘密っぽい!」
レトも真似する。
しかし指の形がうまく作れず、ただのぐにゃっとした何かになった。
「星にならない!」
「レトのそれは……もちもち星だね」
「もちもち星!」
レトは嬉しそうにした。
エルも真似した。
エルの指先から本物の小さな星がぽんと出た。
「あ」
「エル、それは目立つ!」
「秘密じゃなくなる!」
「そっか」
エルは星をぱくっと手で包んで消した。
「じゃあ、あたしはまばたきする」
「普通!」
「でもエルがやると秘密っぽい!」
「じゃあ決定!」
こうして秘密の合図は決まった。
ロジーは星の指。
レトはもちもち星。
エルはまばたき。
最後の議題は、秘密のなにかすごいやつだった。
レトはすぐに立ち上がる。
「わたし、硝子細工つくる!」
青白い熱を帯びた魔力が、レトの手の中に集まる。
けれど戦闘用の短剣ではない。
小さな硝子の花。
三枚の花びらがあって、それぞれ淡緑、桃色、白と薄桃色に輝いている。
「これ、三人の秘密のしるし!」
ロジーが息を呑んだ。
「かわいい……!」
エルもじっと見つめる。
「これ、うれしい」
レトは照れたように笑った。
「えへへ」
ロジーはすぐに自分のデバイスを操作しようとして、ぴたりと止まった。
「……写真、撮らない」
レトが目を丸くする。
「ロジーが?」
「内緒のあそびだからね。記録しないって決めたから」
ロジーは少しだけ得意げに笑った。
「私、ちゃんと秘密守れる女だから」
その瞬間、部屋の外から足音が聞こえた。
三人は同時に固まった。
レトが小声で叫ぶ。
「誰か来た!」
ロジーも小声で叫ぶ。
「秘密保持体制!」
エルは淡々と扉を消した。
部屋ごと、ふっと隠れる。
三人は完全な別空間の中で、息を潜めた。
外から聞こえてきたのは、職員二人の声だった。
「……今、ここに小さい扉なかったか?」
「疲れてるんじゃないですか」
「そうか……いや、最近そういうこと多いな」
「この局では普通です」
足音が遠ざかる。
三人は顔を見合わせた。
そして、同時に笑った。
「ばれなかった!」
「完全勝利!」
「秘密、守れたね」
レトは嬉しさのあまり、クッションの上でごろごろ転がった。
「すごい! 秘密のあそび、すごい!」
ロジーも隣で転がる。
「またやろう! 次は秘密のお茶会! 秘密の作戦会議! 秘密のかわいい物交換会!」
エルは二人を眺めながら、少しだけ微笑んだ。
「秘密、増えると楽しい?」
「楽しい!」
「めちゃくちゃ楽しい!」
「そっか」
エルは小さくうなずいた。
「じゃあ、また作る」
その日の夕方。
廊下でジェレミーとすれ違ったレトは、何食わぬ顔をしようとした。
しようとした。
けれど、嬉しさが顔から漏れていた。
にこにこ。
そわそわ。
ふにゃふにゃ。
ジェレミーは足を止める。
「レト」
「な、なに、お兄さん」
「楽しいことがあったな」
「なっ……!」
レトは両手で口を押さえた。
「なにもないよ! お兄さんに内緒のあそびなんてしてないよ!」
少し離れた場所で、ロジーが頭を抱えた。
「言ったー!」
エルはまばたきした。
秘密の合図だった。
レトは慌てて、ぐにゃっとしたもちもち星を作る。
ロジーも星の指を作る。
三人の秘密の合図が、廊下の端で揃った。
ジェレミーの前で、堂々と。
ジェレミーはそれを見て、少しだけ目を細めた。
「そうか。内緒か」
「う、うん!」
「なら、聞かない」
レトの顔がぱあっと明るくなる。
「お兄さん、だいすき!」
「知ってる」
ジェレミーはそう言って、何も聞かずに歩いていった。
その背中を見送ってから、レトは小さく跳ねた。
「お兄さん、秘密守ってくれた!」
ロジーが笑う。
「聞いてないだけだけどね!」
エルがぽつりと言う。
「聞かない優しさ」
三人は顔を見合わせた。
そしてまた、こっそり笑った。
誰にも内緒のあそび。
でも、ちょっとだけ分かってくれている人がいる。
それもなんだか、秘密みたいで。
三人にとっては、とてもきらきらした遊びだった。
◆
別の日。
惑星監理局、午後の休憩時間。
レト、ロジー、エルの三人は、廊下の端に集まっていた。
今日は第二回、誰にも内緒のあそびの日だった。
レトは胸の前で両手をぎゅっと握り、真剣な顔で宣言する。
「これより、きらきらふかふか内緒のお部屋へ入室する!」
ロジーが小声で拳を上げた。
「秘密保持、よし!」
エルもふわふわ浮きながら、こくりとうなずく。
「扉、出すね」
エルが指先をちょん、と動かす。
廊下の壁際に、小さな硝子細工の扉が現れた。
前回と同じ、かわいい秘密の扉。
レトはきらきらした目で扉に手をかける。
「今日こそ、秘密のお茶会するんだ……!」
「映えるお菓子とシール持ってきた!」
「クッション増やした」
三人はわくわくしながら扉を開けた。
そして、固まった。
秘密のお部屋の中。
ふかふかクッションの山の中心。
そこに、副長がいた。
脚を組み、背中を大きなクッションに預け、片手には湯気の立つカップ。
もう片方の手には、なぜか小さな焼き菓子。
あまりにも自然に。
あまりにも優雅に。
あまりにもくつろいでいた。
副長は三人を見ると、いつもの薄い笑みを浮かべた。
「おや。いらっしゃい」
沈黙。
レトの口が、ぱくぱく動く。
ロジーの頭上デバイスが、ぴこぴこぴこぴこ高速点滅する。
エルは首をかしげた。
「……なんでいるの?」
副長はカップを置いた。
「休憩です」
「ここ、わたしたちの秘密のお部屋だよ!?」
レトが指を突きつける。
副長は穏やかにうなずいた。
「ええ。大変良い部屋ですね。静かで、クッションの質も高い」
「扉も隠してたのに!」
ロジーが叫んだ。
「どうやって入ったの!? この部屋、エルの空間だよ!? 秘密だよ!? 扉だってさっき出したばっかりだよ!?」
副長はにこやかに言った。
「秘密です」
「意味分かんない!」
レトが悔しそうに震える。
「副長、ずるい! わたしたちの秘密のお部屋に入るの、ずるい!」
「隠密特化の魔術師に対して、秘密空間を作る。これは挑戦状に近いものかと」
「ちがうよ! あそびだよ!」
「参加させてください、この局で内緒事は私の隠密魔術師としてのプライドが許しません」
「参加の仕方がこわいよっ!」
ロジーが両手で頭を抱える。
エルは少し考えて、部屋の床を見た。
「痕跡、ない」
「当然です」
「魔力の揺れも、少ない」
「当然です」
「クッション、へこんでる」
「座っていますので」
「痕跡発見、副長の負けね」
エルが少しだけ勝ち誇った顔をした。
レトはずんずん副長に近づいた。
頬をふくらませている。
「ここは、三人の秘密のお部屋なの!」
「はい」
「副長がいると、秘密じゃないの!」
「なるほど」
「だから……だから……!」
レトは言葉を探した。
怒りたい。
でも副長は悪びれずくつろいでいる。
しかも焼き菓子がちょっとおいしそう。
レトの視線が、ちらっと焼き菓子に向いた。
副長はすっと皿を差し出した。
「どうぞ」
「……いらないもん!」
お腹が、きゅう、と鳴った。
ロジーが即座に言う。
「鳴ったね」
「鳴ってない!」
「記録価値高い音だった」
「記録しないで!」
副長は微笑んだまま、皿を机に置いた。
「皆さんの分もあります」
レトはぐらっと揺れた。
「……みんなの分?」
「ええ。秘密のお茶会用に」
ロジーが目を細める。
「副長、レトをお菓子で釣らないで!負ける!!」
「他意はありません」
「今の顔、絶対悪い顔!」
副長は紅茶を一口飲んだ。
「職員が廊下の壁に小さな扉を幻視したと報告していましたので、安全確認を行いました」
レトがはっとする。
「安全確認……!」
「ええ。怪異、侵入者、未承認空間接続、局内構造への敵性干渉。懸念すべき点は多い」
副長の声は穏やかだった。
けれど、その言葉には監理局の職員としての重みがあった。
「ここが皆さんの遊び場であることは分かりました。危険はありませんでした。なので、私は休憩しています」
「安全確認のあとに、くつろいだの!?」
「はい」
ロジーが腹を抱えて笑い出した。
「仕事はした! だから休憩! 無敵の理屈!」
レトはぷるぷるしている。
「副長……副長は……敵性副長……!」
副長の眉がわずかに上がった。
「敵性副長」
「秘密のお部屋に勝手に入ったから!」
「なるほど。では、安全確認済み敵性副長ですね」
「安全なのか敵なのかどっちなの!」
エルがぽつりと言った。
「怪異、侵入者、未承認空間接続、局内構造への敵性干渉。」
「副長のことじゃんっ!!」
ロジーは笑いすぎてクッションに倒れ込んだ。
副長はまったく動じない。
むしろ、くつろぎ度が増している。
ふかふかクッションに深く沈み、優雅にカップを持つ姿は、秘密基地の侵入者というより、最初からこの部屋の主みたいだった。
それがレトには悔しかった。
「うぅ……」
レトは副長の正面に座った。
正座だった。
真剣だった。
「副長」
「はい」
「このお部屋は、誰にも内緒のあそびなの」
「はい」
「だから、副長は、見なかったことにして」
「分かりました」
副長は即答した。
レトは目をぱちぱちさせる。
「いいの?」
「ええ。私は何も見ていません」
ロジーがむくっと起き上がった。
「でも今ここにいるじゃん」
「ここにはいません」
「いるじゃん!」
「いません」
「めちゃくちゃいるじゃん!」
副長は紅茶を飲んだ。
「隠密ですので」
ロジーが床を叩いて笑う。
「存在感!」
エルは副長の横にふわっと移動して、じっと顔を見た。
「副長、楽しい?」
「ええ」
「秘密だから?」
「それもあります」
「じゃあ、副長も秘密のあそび、好きなんだ」
副長は少しだけ考えた。
そして、薄く笑う。
「嫌いではありません」
レトはその顔を見て、さらに悔しそうにした。
「副長、なんか大人っぽく秘密を楽しんでる!」
「大人ですから」
「わたしも大人っぽく秘密したい!」
ロジーが即座に言った。
「レトは顔に全部出るから無理」
「できるもん!」
レトはきりっと表情を引き締めた。
秘密を守る大人の顔。
の、つもりだった。
だがほっぺたがぷくっとしていて、目がきらきらしていて、どう見ても「楽しいことがありました」と全身で叫んでいた。
副長は口元を押さえた。
肩がわずかに震えている。
レトが目を見開く。
「副長、笑ってる!」
「笑っていません」
「震えてる!」
「隠密魔力の微細制御です」
「絶対うそ!」
ロジーが追撃する。
「嘘副長に進化した!」
「安全確認済み嘘つきですね」
「肩書きが増えた!」
エルは小さな皿を手に取り、焼き菓子を一つ食べた。
「おいしい」
その一言で、レトの怒りが少し揺らいだ。
「……おいしいの?」
「うん」
「すごく?」
「すごく」
レトは副長を見た。
副長は黙って皿を差し出す。
レトは悩んだ。
秘密のお部屋に勝手に入った副長。
でも安全確認をしてくれた副長。
勝手にくつろいでいた副長。
でもお菓子を用意していた副長。
敵なのか安全なのか、判定が難しい。
レトは焼き菓子を一つ取った。
ぱくり。
「……おいしい」
副長がにこりとした。
「それは何より」
レトはもぐもぐしながら、悔しそうに言う。
「今日だけだからね」
「はい」
「秘密のお茶会、今日だけ参加していい」
「ありがとうございます」
「でも、副長は秘密のお部屋のこと、誰にも言っちゃだめ」
「もちろんです」
「あと、次から勝手に入っちゃだめ」
「努力します」
「努力じゃなくて約束!」
副長は少しだけ沈黙した。
ロジーがじとっと見る。
「今、約束できない理由を探したね?」
「安全確認は職務ですので」
「それ言われたら勝てないの!」
レトは腕を組んだ。
「じゃあ、次から入る時は合図して」
「合図ですか」
「そう!」
レトはぐにゃっとした指の形を作った。
「もちもち星!」
ロジーも星の指を作る。
「私はこれ!」
エルはまばたきした。
「これ」
副長は三人を順番に見た。
そして、実に自然な動作で、レトよりも綺麗な星の形を指で作った。
レトが叫ぶ。
「うまい!」
ロジーが叫ぶ。
「腹立つくらいうまい!」
副長は穏やかに言う。
「手先は器用な方です」
「副長、秘密の合図まで上手なのずるい!」
「では、少し崩しましょうか」
副長はわざと指をぐにゃっとさせた。
レトのもちもち星に近い形になった。
レトはぱあっと明るくなった。
「それ! それならいい!」
ロジーが笑った。
「副長のもちもち星、誕生!」
「記録もしませんよ」
「心のアルバムに保存する?」
「そうですね」
こうして、第二回秘密のお茶会は、予定外の四人会になった。
副長はなぜか最初から馴染んでいた。
紅茶を注ぎ、菓子を分け、三人の話を聞き、ときどき悪びれもなく秘密のお部屋の構造を褒める。
「この空間の遮断精度は非常に高いですね」
エルが少し得意げにする。
「がんばった」
「ただ、廊下側に一瞬だけ魔力の歪みが出ます」
「直す」
「あと、扉の出現位置が毎回同じだと、観察眼のある職員には気づかれます」
ロジーが目を輝かせた。
「秘密基地改善会議だ!」
レトも乗った。
「じゃあ次は、扉の場所を変える!」
「天井」
エルが言う。
「入れない!」
「床」
「落とし穴になる!」
「副長の背中」
ロジーが言った。
副長は微笑む。
「それは私が困りますね」
「よし、それにしよう!」
「レトさん?」
「それなら勝手に入れないでしょ!」
お茶会が終わる頃、エルは扉を開けた。
三人が廊下に出る。
最後に副長も立ち上がった。
レトが振り返る。
「副長」
「はい」
「今日のこと、内緒だよ」
副長は胸に手を当てて、少しだけ芝居がかった礼をした。
「もちろん。私は本日、この部屋を見ていませんし、入ってもいませんし、紅茶も飲んでいません」
ロジーが笑う。
「三杯も飲んでた!」
エルが言う。
「お菓子もいちばん食べてた」
レトも言う。
「いちはんくつろいでた!」
副長はにこやかに答えた。
「楽しかったので」
三人は同時に叫んだ。
「わたしたちのお部屋なのに!」
その日から、秘密のお部屋の参加条件に新しい項目が増えた。
副長は、もちもち星の合図をした時だけ入っていい。
ただし三人は知らない。
副長はそのルールが決まる前から、秘密のお部屋の入口付近に、非常に控えめな空間転移用の術式を置いていた。
危険があれば即座に入れるように。
でも、普段は勝手に覗かない。
でも、たまに秘密で勝手に使うつもりで。
副長は大人げない大人だった。
そして後日。
レトたちが秘密のお部屋に入ると、机の上に小さな紙袋が置かれていた。
中には焼き菓子。
紙には、短く一言。
みなさんへ、お茶会用です。
レトは紙を読んで、ぷくっと頬をふくらませた。
「副長、やっぱり敵性副長……!」
ロジーは笑った。
「めちゃめちゃ勝手に部屋使ってるじゃん!」
エルは焼き菓子を一つ食べて、こくりとうなずいた。
「おいしい」
「もう、くやしい!!」
レトが叫びながらお菓子を頬張る。
秘密のお部屋は、今日も秘密だった。
たぶん。
少なくとも、副長はそういうことにしてくれていた。




