またねって言っていい?
「今回は、なにを決めるの?」
エルの問いに。
上位委員会の議員は、すぐには答えなかった。
惑星監理局の中庭。
その一角を包む、淡い硝子膜。
エルが作った小さなお茶会空間には、白い絨毯と丸い机、七色のクッションが並んでいる。
机の上には、空になった菓子皿。
少し冷めた茶。
そして、楽しさに反応して鳴る七つの小さな鈴。
コロ。
ノクト。
レグ。
ロロ。
レト。
ロジー。
エル。
本来なら、同じ場所に集まることすら想定されていなかった七人が、揃って議員を見上げていた。
硝子膜の外には、ジェレミーと副長。
少し離れた場所には、上位委員会の護衛と監理班の職員たち。
中庭へ通じる通路は、すでに封鎖されている。
周辺の記録設備も停止済み。
映像。
音声。
魔力波形。
空間接続履歴。
通常なら自動的に保存されるはずの情報は、一つも残らないよう処理されていた。
その意味を、七人だけが十分に理解していなかった。
議員は、金色の扉を見る。
ロロが開き、四人が監理局へ来るために使用した扉。
恒常的な接続ではない。
一度限り。
閉じれば消える。
四人は、そう考えていた。
それでも。
扉が開いたという事実は、消えない。
「まず」
議員が口を開いた。
声は低く、硬かった。
「全員、その場から動かないでくれ」
レグが小さく手を上げる。
「帰っちゃだめ?」
「今すぐ、勝手に帰還しないでほしいという意味だ」
「分かった」
レグは素直に手を下ろした。
ノクトも、残っていた焼き菓子へ伸ばしかけた手を引っ込める。
ロロは静かにカップを置いた。
コロは背筋を伸ばす。
レト、ロジー、エルも。
ようやく、これが少し怒られるだけでは終わらない話だと気づき始めていた。
議員はロロを見る。
「この扉を開いたのは、あなたか」
「はいですわ」
「上位委員会へ事前申請は」
「しておりません」
「惑星監理局へ接続の許可は求めたか」
「求めておりませんわ」
「なぜだ」
ロロは、まだわずかに胸を張っていた。
「恒常的な連絡経路を設定してはならないと命じられていましたの」
「そうだ」
「ですので、経路は残しておりません。一度限りの扉ですわ」
「情報共有も禁止されていた」
「機密事項は、何一つ話しておりません」
「惑星監理局との継続的な関係形成も許可されていない」
「ですが」
ロロは、ためらいながらも言った。
「会ってはいけないとは、命じられておりませんでしたわ」
その言葉に。
副長が、ほんのわずかに目を閉じた。
ジェレミーは何も言わない。
議員はロロを見たまま、ゆっくり息を吸った。
「会ってはいけないと書かれていないことを」
声が一段低くなる。
「会ってよいと解釈したのか」
ロロの顎が、少しだけ下がった。
「禁止されていないのであれば、問題はないと……」
「問題しかない」
厳しい声が中庭へ響いた。
七人の肩が、揃って跳ねる。
レグの輪郭が一瞬だけ強く光り。
すぐに小さくなった。
ノクトは菓子を持っていなくてよかったとでもいうように、両手を膝へ置く。
コロの表情も、わずかに強張った。
「秘匿とは、秘密の内容だけを口にしなければよいという意味ではない」
議員は、一人ずつ顔を見ながら言う。
「誰が存在を知っているか」
「誰と接触したか」
「どの組織を訪れたか」
「誰に親しみを持っているか」
「どこへ接続できるか」
「一度会った相手へ、もう一度会いに行こうと考えたこと」
「そのすべてが情報だ」
ロロが、自分の背後にある扉を見る。
議員も同じ扉を見る。
「前回の一度限りの接続感覚を手掛かりに、同じ施設へ再接続できる」
ロロの指が、鍵を握り締めた。
「上位委員会の仲介も、惑星監理局の認証もなく。あなたたち四名だけで再訪できる」
「……はいですわ」
「その事実だけでも、重大な秘匿情報になり得る」
「ですが、誰にも見られていません」
ノクトが小さく言った。
「監理局の中庭へ出ただけで、外には――」
「見られなければ行ってよいという話ではない」
議員の声に。
ノクトはすぐに口を閉じる。
「はい」
「誰にも知られず成功したなら、それは安全だったのではない」
議員は続ける。
「問題を見つけられなかっただけだ」
ノクトの夜空色の髪が、俯いた顔へ落ちた。
「……はい」
議員はコロを見る。
「コロ」
「はい」
「あなたは、三人を止めなかった」
「はい」
「なぜだ」
コロは、少しだけ考えた。
「情報共有を行わない」
「接続は一度限り」
「滞在は短時間」
「記録も残さない」
「その条件を満たせば、命令文に直接抵触しないと判断しました」
「命令の目的は考えたか」
コロの返答が止まる。
「……情報の流出を防ぐことです」
「それだけか」
「継続的な接触関係を作らないこと」
「なぜ、それを防ぐ必要がある」
「知りません」
「知らないのに、命令文の隙間を使ってよいと判断したのか」
コロは。
すぐには答えなかった。
静かで。
落ち着いていて。
四人の中では、もっとも慎重に見える少女。
それでも。
会いたいと思った。
一度だけなら大丈夫だと思った。
秘密を話さなければよいと考えた。
その願いに都合のよい部分だけを拾った。
「……はい」
コロは認めた。
「あなたは、言葉の範囲を細かく分けることができる」
議員の声は厳しいままだった。
「どこまでが禁止され、どこからが書かれていないかを見つけることもできる」
「はい」
「だが、書かれていない部分を実行してよいか判断するには、その命令が何を守ろうとしているのかを理解していなければならない」
コロは俯く。
「理由を知らされていない命令で、意味に迷った時は、自分に都合よく決めてはいけない」
「……はい」
「確認する」
議員は、はっきり言った。
「確認できないのであれば、その場では実行しない」
コロの指が、膝の上で小さく動く。
「それが、安全側の判断ですか」
「そうだ」
「私は」
コロは、一度だけ目を閉じた。
「確認できないなら、止まるべきでした」
「そうしてほしかった」
「申し訳ありません」
レグが、我慢できずに顔を上げる。
「でも、ぼくたち、会いたかっただけだよ!」
議員がレグを見る。
「分かっている」
「悪いことをしようとしたんじゃない!」
「それも分かっている」
「誰かを傷つけてないし、秘密も話してない!」
「だから問題がないとはならない」
レグの言葉が止まった。
議員は声を少し落とす。
「あなたたちは、攻撃しに来たのではない」
「情報を売りに来たのでもない」
「誰かを困らせるつもりもなかった」
一つずつ。
レグたちの意図を否定せずに認める。
「だが、会いたいという気持ちだけで、許可されていない場所へ入った」
レグの光が、ゆっくり揺れた。
「自分たちの行動が、何を起こす可能性があるか」
「問題が起きた時、誰が責任を負うのか」
「監理局側が、あなたたちをどう扱えばよいのか」
「考えなかった」
レグは唇を噛む。
「……考えなかった」
「それを叱っている」
「はい」
ノクトが、小さく手を上げる。
今度は、すぐに話し始めず。
議員が頷くのを待った。
「わたし」
「言ってくれ」
「上位委員会に聞いたら、だめって言われるかもしれないから、聞かなかった」
「そう聞いている」
「でも」
ノクトは、膝の上に置いた指先を見る。
「だめって言われそうだと思ったなら、危ないかもしれないって分かってたってこと?」
議員は、少しだけ表情を緩めた。
「そうだ」
「止められる前に来ればいいって考えたのは」
「賢い方法ではない」
「……うん」
「見つからずに済ませるための方法だ」
ノクトは、しゅんと俯く。
「ごめんなさい」
ロロが、強く鍵を握った。
「主導したのは、わたくしですわ」
議員を見る。
「扉を開くと決めたのも」
「接続先を選んだのも」
「三人を誘ったのも、わたくしです」
「分かっている」
「でしたら、三人ではなく――」
「三人とも、自分の意思で扉を通った」
ロロの言葉が止まる。
議員は四人を見る。
「あなた一人だけの責任にはしない」
「ただし」
「あなたの責任が軽くなるわけでもない」
ロロは、ゆっくり頭を下げた。
「……はいですわ」
四人への話が終わる。
議員はジェレミーを見る。
ジェレミーが一歩前へ出た。
「ここからは私が話す」
議員は短く頷き。
その場を譲った。
ジェレミーは、まずレトを見る。
「レト」
「はい」
「四人が現れた時、警報が送られかけた」
レトはロジーを見る。
ロジーが小さく肩を縮める。
「お前は、報告するよう言ったか」
「……言ってない」
「なぜだ」
「前に会った子たちだったから」
「前に会った相手なら、無許可で入ってきても確認しなくていいのか」
レトは首を振る。
「だめ」
「お前は戦闘班だ」
ジェレミーの声は硬い。
「知っている相手かどうかだけで、安全を判断するな」
「はい」
「以前会った時は安全だった」
「だから次も安全だとは限らない」
レトの瞳が、少しだけ潤む。
「四人を疑えと言っているのではない」
「確認しろと言っている」
「……はい」
「歓迎する前に報告する」
「勝負の約束をする前に、入ってきてよい相手なのか確かめる」
「はい」
レトは、両手を膝の上で握った。
「ごめんなさい」
次に、ロジー。
「ロジー」
「はい」
「記録機能を止めたな」
「秘密を残しちゃだめだと思って」
「記録を止めた判断は間違っていない」
ロジーが、ほんの少しだけ顔を上げる。
「だが」
その顔が、また下がった。
「報告まで止めた」
「……はい」
「記録しないことと、責任者へ知らせないことは別だ」
ジェレミーは続ける。
「お前は情報班だ」
「情報を守る仕事は、見なかったことにする仕事ではない」
ロジーの頭上デバイスが、小さく点滅する。
「誰に知らせるべきか」
「どこまで知らせるべきか」
「どうすれば、余計な記録を残さず処理できるか」
「それを判断するのが仕事だ」
「はい」
「秘密だから誰にも言わない、ではない」
「秘密だから、知らせる相手を選ぶ」
ロジーは、小さく頷いた。
「副長に、すぐ報告するべきだった」
「そうだ」
「ごめんなさい」
最後に。
ジェレミーはエルを見る。
「あたしも?」
「お前もだ」
「お茶会しただけ」
「無許可で現れた相手を、大人たちから見えにくい空間へ入れた」
エルは、自分が作った硝子膜を見る。
「隠したつもり、なかった」
「分かっている」
「楽しい場所にしたかった」
「それも分かっている」
ジェレミーは、エルの前へしゃがんだ。
目の高さを合わせる。
「あの四人について、お前は名前しか知らなかった」
「少し聞いてた」
「レトとロジーから、だろう」
「うん」
「名前や好きなものを聞いたことと、その時の相手が安全か確認できていることは違う」
エルは、ゆっくり瞬きをする。
「……うん」
「お茶会をしたかったことを怒っているのではない」
「うん」
「大人へ知らせずに始めたことを怒っている」
エルは硝子膜を見る。
外にいる大人たち。
止められた記録設備。
閉じられた通路。
自分が作った空間の外で、多くの人間が動いている。
「あたし、分からない相手が来たら、職員さんを呼ぶ」
「そうしろ」
「レトとロジーが知ってても?」
「まず呼べ」
「分かった」
エルは俯く。
「ごめんなさい」
七人は、全員しゅんとしていた。
つい先ほどまで、楽しさに反応して鳴り続けていた鈴も。
今は一つも鳴らない。
机の上に並んだカップ。
食べかけの菓子。
冷め始めた茶。
副長は、静かになった七人を見た。
「もう一つ」
その声に。
七人が一斉に顔を上げる。
副長は、いつもの薄い笑みを浮かべていた。
ただし。
レトも。
ロジーも。
エルも知っている。
この笑みを浮かべた副長からは、絶対に逃げられない。
「『会ってはいけないとは言われていない』という主張についてです」
ロロの肩が、小さく跳ねる。
「はいですわ」
「大人が作る規則は、考え得るすべての行動を一つずつ列挙しているわけではありません」
副長は、レグを見る。
「たとえば、格納庫で火を使用してはならないと書かれている場合」
「はい」
「熱線なら、火ではないので使用してよいでしょうか」
レグは首を振る。
「だめ」
「爆発なら、火ではないので構わない?」
「だめ」
「床を燃やさず、天井だけなら?」
「だめ」
「なぜですか」
レグは、少し考えた。
「格納庫を危なくしないための決まりだから」
「その通りです」
副長が頷く。
「規則に書かれた単語だけを避ければよいのではありません」
「規則が、何を守ろうとしているのかを考える必要があります」
コロが静かに言う。
「私たちは、文面だけを満たそうとしました」
「ええ」
「目的を考えずに」
「ええ」
「分からなければ確認する」
「確認できなければ実行しない」
副長の笑みが、わずかに柔らかくなる。
「今後は、そうしてください」
「はい」
コロは深く頷いた。
「今回は、間違えました」
「はい。間違えました」
副長は、はっきり認めた。
だが。
その声には、先ほどまでの厳しさだけではなくなっていた。
◇
十分に叱ったあと。
上位委員会の議員は、しばらく黙って七人を見ていた。
四人は俯き。
監理局の三人も、同じように小さくなっている。
会いたかった。
話したかった。
もう一度、一緒に過ごしたかった。
その気持ち自体は。
誰かを傷つけようとしたものではない。
議員は、ゆっくり息を吐いた。
「顔を上げてくれ」
七人が、恐る恐る顔を上げる。
議員は、ロロたち四人の前へ歩み寄った。
「あなたたちが、レトとロジーに会いたいと思ったことは悪くない」
レグが瞬きをする。
「悪くないの?」
「会いたいと思ったことはな」
「来たのは?」
「来方が悪かった」
「……うん」
「誰かへ親しみを持つことを、禁止したいわけでもない」
コロが議員を見る。
「ですが、関係形成は禁止されています」
「組織同士で、無許可の恒常的な関係を作ってはならないという意味だ」
ノクトが小さく手を上げた。
「友達だって思うことも?」
議員は、少しだけ困った顔をした。
「心の中まで、命令で禁止できるものではない」
「じゃあ、友達って思っていい?」
「思うだけなら、誰にも止められない」
ノクトの顔が明るくなる。
「やった」
「ただし」
明るくなった顔が止まる。
「会いたくなったら、必ず申請すること」
「だめって言われたら?」
「話せる範囲で、理由を説明する」
「ずっとだめだったら?」
議員は、すぐには答えなかった。
秘匿の理由を話すことはできない。
次の面会を、今ここで約束することもできない。
「すぐに会えるとは約束できない」
正直に答える。
「だが、会いたいという要望を出すことまでは禁止しない」
ロロが顔を上げる。
「正式に申請すれば、検討されますの?」
「検討する」
「却下される可能性は?」
「ある」
ロロは少しだけ不満そうだった。
「それでも、勝手に来るよりはよいのですね」
「比べる必要もないほど、よい」
「分かりましたわ」
議員は、監理局の三人を見る。
ジェレミーも、レトたちの前へ立った。
「お前たちも」
「はい」
三人の声が揃う。
「また四人に会いたいと思うこと自体は、怒っていない」
レトが少しだけ顔を上げる。
「会いたいって言っていい?」
「言っていい」
「会っていい?」
「勝手にはだめだ」
レトの顔が、また下がりかける。
ジェレミーは続けた。
「私か、副長に言え」
「こちらから、上位委員会へ確認する」
「聞いたら、会えるようにしてくれる?」
「要望は出す」
「会わせるとは約束しない」
レトは少し考える。
「ちゃんと聞いてくれる?」
「必ず聞く」
「分かった」
ロジーも言う。
「記録しなくても、報告はする」
「そうしろ」
エルは、机の上の鈴を見る。
「お茶会したい時も、聞く」
「ああ」
「楽しい場所、作る前に?」
「そうだ」
「分かった」
ジェレミーは三人を順番に見た。
「お前たちが、誰かと仲良くなることを止めたいわけじゃない」
レトが尋ねる。
「じゃあ、なにを止めたいの?」
「仲良くなるために、自分たちや相手を危険にすることだ」
レトは、しばらく考えたあと。
しっかり頷いた。
「うん」
◇
四人が帰還するための準備が始まった。
ロロが形成するのは。
来訪時の接続を再利用する扉ではない。
帰還先を監理局へ開示しない、一方向の帰還専用扉。
監理局側へ情報が流れないこと。
中庭側へ異常が逆流しないこと。
閉鎖後、接続痕が残らないこと。
副長が確認したのは、その三点だけだった。
行き先は表示されない。
経路の構造も分からない。
監理局側の装置には、接続先を示す座標も識別情報も残らない。
「帰還先は、秘匿領域内の中継区画ですわ」
ロロが説明する。
「監理局側へ位置情報は出ません」
議員が尋ねる。
「扉は一方向か」
「はいですわ」
「閉じた後、同じ扉を再形成するための接続痕は残るか」
「残しません」
副長が中庭側の漏出値を確認する。
「監理局側に異常反応なし」
「経路情報の表示もありません」
議員が頷いた。
「帰還専用扉の形成を許可する」
「承知しましたわ」
ロロは、先ほどまでよりも慎重に鍵を構えた。
金色の光が集まり。
白い柱を持つ扉が形成される。
向こう側に見えるのは。
白い床。
金色の天井。
白鍵回廊の一角。
その先は見えない。
四人が帰る場所の情報は、監理局側へ渡らない。
七人は、エルのお茶会空間から出た。
白い絨毯。
七色のクッション。
途中で止まった鈴。
少し冷めた茶。
エルは、空間をまだ消さなかった。
四人が帰るまでは。
この場所を残しておきたかった。
最初に扉の前へ立ったのは、コロだった。
ロジーを見る。
「今日は、楽しかったです」
ロジーは少しだけ笑う。
「すっごく怒られたけどね」
「はい」
「次は、ちゃんと申請してね」
「はい」
コロは頷く。
「確認できなければ、勝手には来ません」
「私も、すぐ報告する」
「それがよいと思います」
ロジーが少し笑う。
「コロが一番先に止める側になると思ってた」
「私も、そうするべきだと思っていました」
「でも、来たかった?」
コロは一瞬だけ黙った。
「はい」
正直に答える。
「私も、もう一度会いたかったです」
ロジーの桃色の鈴が。
お茶会空間の中で、小さく鳴った。
ちりん。
コロはエルを見る。
「冷たいお茶、おいしかったです」
「また作る」
エルが言う。
少し考え。
言い直す。
「許可されたら、作る」
「はい」
コロは、小さく微笑んだ。
「またね」
「またね」
コロが扉を越える。
次はノクト。
「ロジー」
「なに?」
「拾ったものの話、途中だった」
「まるかじり一号と二号!」
「次に会えたら教える」
「秘密じゃなかったらね!」
「うん!」
ノクトはレトへ手を振る。
「レトも、またね!」
「またね!」
エルにも。
「エルも!」
「ばいばい、ノクト」
「ばいばい!」
ノクトが扉の向こうへ飛び込む。
レグは、レトの前へ立った。
二人とも、叱られたあとなので。
最初に会った時より、少しだけ大人しい。
「勝負」
レグが言う。
「今日は、できなかったね」
「勝手にしちゃだめだって」
「うん」
「次は、聞いてから」
「うん」
レトが手を差し出す。
レグも手を出した。
ぱん、と。
二人の手が軽く重なる。
「またね、レグ」
「またね、レト」
「次は、怒られないようにしようね」
「うん!」
「絶対?」
「……絶対って言うと、また怒られるかも」
レトが少し考える。
「じゃあ、ちゃんと聞こうね」
「うん!」
レグは明るく光りながら、扉を越えた。
最後に。
ロロが残る。
ロロは、上位委員会の議員の前へ立った。
「本日は、ご迷惑をおかけしましたわ」
「本当に」
議員は即答した。
ロロの肩が、少しだけ下がる。
「次回は――」
議員の眉が動く。
ロロは、すぐに言い直した。
「次回の訪問が許可された場合は!」
「……ああ」
「正式な申請を行いますわ」
「そうしてくれ」
「訪問目的」
「人数」
「滞在時間」
「接続方法」
「すべて明記いたします」
「頼む」
「茶会開催の希望も」
議員は、少しだけ迷った。
「書いてよい」
ロロの顔が明るくなる。
副長を見る。
「次回は、正式な受入施設として評価しますわ」
「受入が承認されてからにしてください」
「分かっていますわ!」
ロロは扉の前へ立った。
レト。
ロジー。
エル。
三人を順番に見る。
「では」
いつもの誇らしげな声で。
「また、お会いしましょう」
議員が、わずかに口を開きかける。
まだ、再会できるとは決まっていない。
そう訂正しようとしたのかもしれない。
だが。
ロロは続けた。
「許可が得られましたら」
議員は、口を閉じた。
レトが大きく手を振る。
「またね!」
ロジーも手を振る。
「次は、最初に報告するから!」
エルも、小さく手を上げる。
「またね、ロロ」
ロロは。
とても満足そうに頷いた。
「またね、ですわ!」
金色の扉を越える。
扉が閉じ始めた。
向こう側には。
コロ。
ノクト。
レグ。
ロロ。
四人が並んでいる。
こちら側には。
レト。
ロジー。
エル。
三人が並んでいた。
「またね!」
七人の声が重なる。
金色の光が細くなり。
扉は完全に閉じた。
残留接続反応。
なし。
経路情報。
取得なし。
再接続痕。
なし。
副長が端末を確認する。
「帰還完了です」
上位委員会の議員は、長く息を吐いた。
ジェレミーも。
扉が消えた場所を、しばらく見ていた。
その横で。
レトが小さく聞く。
「お兄さん」
「何だ」
「またねって、言ってよかった?」
「次に会えると約束したのか」
「してない」
レトは首を振る。
「会えたら、またねって」
「なら、いい」
「今度って、いつか分かんない時もあるけど」
先ほどのお茶会で話したことを思い出す。
「またねも、いつか分かんないね」
「ああ」
「でも、言っていい?」
ジェレミーは。
扉が消えた先を見る。
「言っていい」
レトは、少しだけ笑った。
ロジーも。
エルも。
何もなくなった空間へ、もう一度手を振る。
「またね」
今度は。
誰にも叱られない声だった。




