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硝子玉の宇宙、箱庭の娘たち【旧版】  作者: 硝子玉の宇宙
箱庭の娘たち

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第100話-星結びの夜

七夕に似た風習のお話だよ!

硝子玉の宇宙にも、似た様な言い伝えがある星が存在してるみたい!

挿絵(By みてみん)

星結びの夜


――願いを、枝に結ぶ日


惑星監理局の食堂では、昼休みになるといろいろな故郷の話が飛び交う。


どの惑星の港町では雨の日に魚の形をした灯りを吊るすとか。

どの高山都市では成人の日に夜通し鐘を鳴らすとか。

どの砂漠圏では、旅人が帰ってきた朝に甘い塩湯を飲ませるとか。


監理局には、いろいろな惑星から職員が集まっている。


だから、誰かにとって当たり前だった習慣が、別の誰かには不思議な話になる。


その日、生活班の女性職員が話していたのは、故郷の古い星祭りだった。


「星結びの夜、というんです」


向かいの職員が聞き返した。


「星結び?」


「はい。私の故郷の北半球側に残っていた古い習慣です。年に一度、空に見える二つの巡礼星が一番近く並ぶ夜に、願いごとを書いた細い札を枝に結ぶんです」


「枝に?」


「星針樹という細葉の木があって、その枝に結びます。願いを叶えてもらうというより、願いを隠さず外へ出す日ですね」


「外へ出す?」


「はい。心の中だけに置いておくと、願いは自分でも見えなくなるから。薄い札に書いて、枝に結んで、風に揺らす。そうすると、自分も、隣の誰かも、それを見られる。そういう日です」


その言葉を、食堂の少し離れた席でレトが聞いた。


スプーンを持ったまま、ぴたりと止まる。


ロジーも止まった。


頭上のデバイスが、ぴこん、と小さく光った。


エルはプリンを見ていたが、二人が止まったので、ゆっくり顔を上げた。


レトは椅子から立ち上がった。


「職員さん」


生活班の職員が振り向く。


「はい?」


レトのエメラルドグリーンの瞳は、もう完全に輝いていた。


「それ、やりたい!」


ロジーも椅子から飛び降りた。


「やりたい! 願いを札に書くの!? 枝に結ぶの!? 星の古習!? 記録価値が高すぎる!」


エルも、少し遅れて立ち上がる。


「願い、叶える日?」


生活班の職員は、一瞬だけ慎重な顔になった。


レトとロジーは、ただ目を輝かせている。


だが、エルがいる。


エルにとって「願い」は、とても軽く扱っていい言葉ではない。


職員は、言葉を選んで答えた。


「叶えるための日ではありません」


エルは首を傾げた。


「違う?」


「はい。願いを、見える場所に置く日です」


「見える場所」


「心の奥にしまったままにせず、紙に書いて、枝に結ぶ。誰かと一緒に眺める。自分の願いを、自分で見失わないようにする。そういう習慣です」


エルは少し黙った。


「魔法、いらない?」


「いりません」


職員ははっきり言った。


「むしろ、使いません。願いは願いのまま飾ります」


エルは、自分の胸元に手を置いた。


「願いのまま」


「はい」


「じゃあ、安全」


職員は内心で大きく息を吐いた。


レトは両手を握りしめた。


「願いを枝に結ぶ作戦……!」


ロジーのデバイスが即座に文字を表示する。


星結び作戦。

目的、願いを見える場所に置く。

注意、エルは叶えない。

重要、かわいく飾る。


「かわいく飾るのは重要だね!」


レトが真剣に頷く。


エルも頷いた。


「かわいい願い」


「そう! かわいい願い!」


ロジーは食堂の中央へ向かって叫んだ。


「職員さーん! 星結びやろう! 監理局で星結びやろう!」


食堂班の職員が厨房から顔を出した。


「星結び?」


技術班の職員が端末を開く。


「星針樹の現物は局内にありませんね」


調査班の職員が言う。


「植物管理区画に似た形状の細葉植物ならあります。枝のしなりも近いです。ただし星針樹ではありません」


生活班の職員が苦笑した。


「故郷でも、最近は別の木で代用する家が多いです。大切なのは形より、願いを結ぶことですから」


レトは真剣な顔になった。


「本物じゃなくてもいいの?」


「はい。古い習慣を、今の場所でできる形にするんです」


ロジーが手を挙げる。


「つまり、監理局式星結び!」


「そうですね」


「記録名、監理局式星結び!」


食堂のあちこちで職員たちが少し笑った。


こうして、惑星監理局に、星結びの夜がやってくることになった。


準備は早かった。


なぜなら監理局の職員たちは、宇宙規模の危機に対応する専門家である。


突然の古習再現にも、対応できる。


技術班は、植物管理区画から背の高い細葉植物を運んできた。


枝は細く、葉は針のように長く、空調の風を受けるとさらさらと小さく鳴った。


設備班が倒れないように台座を作る。


魔術制御部が、枝に負荷がかかりすぎないよう微弱な支えの術式を組む。


生活班が、願い札用の細い紙を用意する。


紙は白だけではなく、淡い青、薄緑、桃色、金色もあった。


情報班は、願い札の公開範囲について簡単な注意書きを出した。


願い札は原則公開物です。

個人的すぎる内容、機密、任務情報、他者の秘密は書かないこと。

箱庭の娘たちに関する願いを書く場合は、本人が見ても困らない表現にすること。


ロジーはそれを見て、胸を押さえた。


「願いにも情報管理がある……!」


副長が通りかかった。


「あります」


「副長、星祭りにも規定を持ち込むタイプだ」


「君たちが参加するなら当然です」


「ぐうの音も出ない!」


レトは願い札の束を見つめていた。


「わたし、何を書けばいいかな」


生活班の職員が微笑む。


「好きな願いでいいんですよ」


「好きな願い……」


レトは真剣に考え込んだ。


ロジーはすでに願い札を十枚持っていた。


「私、いっぱいある!」


情報班主任がすぐに言う。


「公開用は一人一枚です」


「えっ」


「個人用は複数可。ただし枝に結ぶのは一枚まで」


「願いの選抜が発生した……!」


ロジーは衝撃を受けた顔で、願い札を見下ろした。


「私の願いたちが予選落ちする……!」


「予選という扱いにしないでください」


エルは願い札を一枚持って、じっと見ていた。


「願い、たくさんある時は?」


副長が答えた。


「一番、今の自分に見せたいものを書けばいいでしょう」


「自分に?」


「ええ。星結びは、誰かに叶えてもらう儀式ではありません。自分の願いを、自分で見える場所へ出す日です」


エルは願い札を見つめた。


「自分に、見せる」


「はい」


「じゃあ、嘘はだめ?」


「できれば」


エルはこくんと頷いた。


「わかった」


その日の午後、中央ラウンジに星結びの枝が立てられた。


枝にはまだ何もついていない。


けれど、それだけでレトは感動していた。


「わぁ……!」


レトは植物の周りを、ゆっくり一周する。


「ここに、願いを結ぶんだね」


「はい」


生活班の職員が筆を渡す。


「好きな色の願い札を選んでください」


レトは淡い緑の札を選んだ。


机の前に座り、筆を握る。


文字を書く姿勢が、任務報告書を書く時より真剣だった。


一文字ずつ、ゆっくり書く。


お兄さんと、みんなと、また明日もただいまって言えますように。


書き終えると、レトは願い札を両手で持ち上げた。


「できた!」


生活班の職員が少しだけ目を細めた。


「いい願いですね」


レトは照れた。


「えへへ」


そこへロジーが覗き込む。


「レト、かわいい! 願いがレトそのもの!」


「ロジーは?」


「私はこれ!」


ロジーは桃色の願い札を掲げた。


楽しい記録を、未来の私にもちゃんと渡せますように。


レトは目を丸くした。


「ロジーっぽい!」


「でしょ!」


ロジーは胸を張った。


「あと予備願いとして、デバイスがずっと元気でありますように、レトがプリンで泣きませんように、エルが変な魔法アイテムを増やしすぎませんように、副長が一回くらい頭にリボンをつけますように、もある!」


副長が微笑んだ。


「最後の願い札は不許可です」


「まだ書いてないのに!?」


「今、聞きました」


「聴覚による事前審査だ!」


エルは、白い願い札の前でじっと座っていた。


筆を持っている。


だが、なかなか動かない。


レトが隣に座る。


「エル、難しい?」


「うん」


「願い、多い?」


「多い。あと、どれが願いか分からない」


レトは少し考えた。


「じゃあね、今、エルがいちばん忘れたくないことを書くのは?」


「忘れたくないこと」


「うん。願いを自分に見せる日なんでしょ? だったら、エルが自分に見せたいこと」


エルは、レトを見た。


それからロジーを見た。


職員たちを見る。


枝を見る。


願い札を見る。


そして、ゆっくり筆を動かした。


文字は少し拙い。


でも、丁寧だった。


うれしいを、勝手に直さないで、いっしょに見つけられますように。


ロジーが、珍しくすぐには騒がなかった。


レトも、願い札を覗き込んだまま静かになった。


エルは二人を見た。


「変?」


レトは首を横に振った。


「変じゃないよ」


ロジーも頷いた。


「すごくエル」


エルは少しだけ瞬きした。


「そっか」


それから三人は、願い札を枝に結んだ。


レトは一番見えやすい枝を選びたがったが、生活班の職員に「みんなの願いが見えるように、少しずつ場所を分けましょう」と言われ、すぐに頷いた。


ロジーは自分の札を結ぶ瞬間まで録画しようとして、情報班主任に「自分の願いを結ぶ時くらい端末を止めなさい」と言われた。


エルは結び方が分からず、願い札を枝に乗せようとした。


落ちた。


エルは願い札を見下ろした。


「願い、落ちた」


レトが慌てて拾う。


「落ちても大丈夫! 結び直せるよ!」


生活班の職員が、エルの手を取らず、横から見せるようにして結び方を教えた。


「こうやって、軽く通して、引きすぎずに結びます」


エルは真似をする。


少し曲がった。


でも、ちゃんと枝に吊るされた。


エルはそれを見た。


「浮いてる」


「結べましたね」


「うん」


エルは小さく頷いた。


その後、職員たちも願い札を書き始めた。


戦闘班の職員は、短く書いた。


全員帰還。


調査班の職員は、少し悩んでから書いた。


未知環境で、変な粘液に追いかけられませんように。


技術班の職員は、妙に現実的だった。


機材が予定外のタイミングで爆ぜませんように。


医療班の職員は、淡々と書いた。


怪我の申告が早くなりますように。


その願い札を見たレトが、少しだけ目を逸らした。


医療班の職員は笑顔で言った。


「レトも対象です」


「はい……」


ロジーが笑う。


「レト、星結びで刺されてる!」


「ロジーも対象です」


医療班の職員は続けた。


「睡眠不足の申告が早くなりますように」


ロジーは目を逸らした。


「はい……」


エルが願い札を見上げる。


「エルも?」


医療班の職員は少し考えて、優しく言った。


「エルは、分からない時に分からないと言えますように、ですね」


エルはしばらく黙った。


そして、自分の願い札の隣に、小さな追加札を書いた。


わからないって、言う。


ロジーはその瞬間を見逃さなかった。


「記録したい!」


「今は心に記録しなさい」


情報班主任が言う。


「心の記録、検索性が低い!」


「それでもです」


中央ラウンジは、少しずつ華やかになっていった。


星形の紙飾り。

細い輪飾り。

硝子片に似せた透明な飾り。

小さな紙の鳥。

青と白の細いリボン。

願い札。


職員たちの願いは、どれも監理局らしかった。


休暇が取れますように。

報告書が減りますように。

食堂の新メニューが当たりますように。

訓練場の修繕費が予算内に収まりますように。

局長が少し休みますように。

副長がたまには本気で驚きますように。

ロジーが無許可閲覧しませんように。

レトが廊下を走りませんように。

エルが寝ぼけて中庭を増やしませんように。


ロジーはその札を見つけて、けらけら笑った。


「名指し願い多い!」


レトは頬を膨らませた。


「わたし、そんなに走ってないよ!」


近くの外務班職員が言った。


「本日、午前中に二回」


「それは急いでたから!」


「急いでいても廊下は走りません」


「はい……」


エルは自分に関する願い札を見て、少し考えた。


「中庭、増やしたらだめ?」


技術班長が遠くから即答した。


「許可制です」


「許可制」


エルは頷いた。


「中庭は、申請する」


その日の夕方。


食堂班が、星結びの夜に合わせた夕食を出した。


最初に運ばれてきたのは、透明な器に入った細い星糸だった。


青白く澄んだ冷たいスープの中に、白い星糸が流れるように沈んでいる。

星型に抜かれた野菜。

小さな月形の卵焼き。

透き通った海藻に似た食材。

上には、きらきらした食用結晶が少しだけ散らされていた。


食堂班の職員が説明する。


「星河風・冷たい星糸鉢です」


レトの目が輝いた。


「星の川、食べていいの!?」


「食べられる星の川です」


ロジーはすでに撮影していた。


「映える! かなり映える! 食堂班、本気出した!」


次に出てきたのは、細葉の香りを移した蒸し包みだった。


やわらかい葉に包まれた穀物料理。

中には甘辛い具材と、星型の根菜。

葉を開くと、ふわっと青い香りが立つ。


「星葉包みです」


「星葉!」


「本物の星針樹ではありませんが、香りの方向を寄せました」


「監理局式!」


さらに、二つの小さな星を並べた甘い星玉。


青いソースのかかった白身魚。


夜空みたいな濃紺のゼリー。


透明なゼリーの中には、星型の果物が沈んでいた。


最後に、レト用の特別小皿として、星型プリンが出た。


レトは言葉を失った。


「……星」


食堂班の職員が言う。


「星結びなので」


「プリンが、星」


「はい」


レトは両手を胸に当てた。


「食堂班さん……」


「泣かないでください」


「まだ泣いてないもん……!」


目はもう潤んでいた。


ロジーがデバイスを向ける。


「レト、星型プリンに感情が追いついていません!」


「撮らないで!」


「かわいいから撮る!」


「ロジー!」


エルは夜空ゼリーをじっと見ていた。


スプーンですくう。


中の星型果物が揺れる。


「空、食べる」


生活班の職員が言う。


「そういう感じですね」


エルは一口食べた。


少しだけ目を丸くする。


「冷たい。甘い。夜っぽい」


「夜っぽい!」


ロジーがすぐ記録した。


「エル食レポ、冷たい甘い夜っぽい!」


食堂は笑い声で満ちた。


職員たちも、いつもより少しだけ長く席に座っていた。


任務の話もした。

故郷の話もした。

古い星祭りの話もした。

願いを書いて飾る習慣が、形を変えていくつもの惑星圏にあることを、情報班が補足した。

食堂班は「来年はもっと星結びっぽくします」と、すでに来年のメニューを考えていた。


そして夜。


中央ラウンジの明かりが、少しだけ落とされた。


星結びの枝には、小さな星明かりの照明が灯っている。


願い札が揺れる。


青。

白。

淡い緑。

桃色。

金色。

普通の紙。

少し高級な紙。

誰かが間違えて書き直した跡のある紙。


その中に、三人の願い札も揺れていた。


レトは、ジェレミーと一緒にそれを見ていた。


「お兄さん」


「何だ」


「願い、届くかな」


ジェレミーは願い札を見上げた。


「どこか遠くへ届くかどうかは分からない」


レトは少しだけ口を尖らせた。


「そっか」


「だが、ここにある」


「ここ?」


「お前が書いた願いを、私が見た。職員も見た。ロジーもエルも見た。お前自身も見た」


ジェレミーは静かに続けた。


「それなら、何もないよりは届いている」


レトは願い札を見上げた。


自分の書いた文字が、星明かりの中で揺れている。


お兄さんと、みんなと、また明日もただいまって言えますように。


レトは少しだけ笑った。


「じゃあ、届いたね」


「そうだな」


ロジーはその横で、職員たちの願い札を見上げていた。


「いっぱいあるね」


情報班主任が隣に立つ。


「全部は記録しませんよ」


「分かってるよ。公開範囲あるから」


「本当に?」


「本当に!」


ロジーは少しだけ頬を膨らませたあと、小さく言った。


「でも、いいね。みんなの願い、揺れてる」


情報班主任は頷いた。


「記録に残らなくても、残るものはあります」


ロジーは頭上のデバイスを見上げた。


デバイスは静かに光っている。


録画はしていない。


でも、ロジーはその景色を見ていた。


「うん」


エルは、自分の願い札の前に立っていた。


うれしいを、勝手に直さないで、いっしょに見つけられますように。


願い札は、ただ揺れている。


魔法は起きない。


世界は書き換わらない。


誰かの心が勝手に変えられることもない。


願いは、願いのまま飾られている。


エルはそれを見て、少しだけ胸元に手を置いた。


「叶えないのに、あったかい」


副長が近くで言った。


「願いは、叶う前から人を動かすことがあります」


エルは副長を見る。


「魔法じゃない?」


「魔法ではありません」


「魔術?」


「それも違います」


「じゃあ、なに?」


副長は少し考えた。


「習慣です」


エルは願い札を見上げた。


「習慣」


「ええ。人間が、長い時間をかけて残してきたものです」


エルは、もう一度願い札を見た。


「人間、すごいね」


副長は薄く笑った。


「ええ。なかなか」


その夜、監理局の中央ラウンジには、遅くまで小さな星明かりが灯っていた。


誰かが通るたびに、願い札を見る。


少し笑う。


自分の願いの位置を確認する。


他人の願いに気づいて、何も言わずに頷く。


医療班の職員は、レトの願い札の隣にそっと追加で書いた。


そのためにも、怪我は早めに申告。


翌朝、レトがそれを見つけて叫んだ。


「医療班さん!!」


食堂では、星結びの残りメニューとして、星型プリンが少しだけ出た。


ロジーは「星結び延長戦!」と騒いだ。


エルは願い札を回収する日程を聞き、「願い、しまうの?」と首を傾げた。


生活班の職員は答えた。


「はい。また次の星結びで、飾るために」


エルは少し考えた。


「次も、する?」


レトが即答した。


「する!」


ロジーも両手を上げた。


「する! 次はもっと飾る! 記録テンプレも作る! 願い札用フォントも作る!」


エルはこくんと頷いた。


「じゃあ、次まで、願いは待つ」


副長が言った。


「叶えるのではなく?」


エルは、少しだけ得意そうに答えた。


「結ぶ」


レトが笑った。


ロジーが笑った。


職員たちも笑った。


硝子玉の宇宙の中で、古い星祭りは、監理局式の小さな習慣になった。


願いを叶える日ではない。


願いを隠さず、紙に書いて、枝に結んで、誰かと一緒に眺める日。


その夜、願い札はもう片づけられていたけれど。


レトは眠る前に、こっそり呟いた。


「次も、お兄さんとみんなとできますように」


それは枝には結ばれていない願いだった。


けれど、たぶん。


もう、ちゃんと届いていた。



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