最終話【いつか、届いて】
それから二週間が過ぎ。
下校する生徒が賑わう校門前に、陽の光りに反射するボディが眩しい、青いスポーツカーが停まっていた。
う、わ……カッコイイ車……。
みんなの注目を集めるその車に、ついつい視線を向けてしまうのは仕方がないこと。
ボーッと車を見てると、運転席のドアが開いた。
長い足が覗き、中から出て来た男性。
「エナちゃん! 迎えに来たよ」
「けっ……!?」
――景都さん、だった。
「ど、どうしたんですか!?」
「今日結果出るから。行こう?」
「えぇ!?」
「ほら! 乗って乗って」
混乱する私を余所に、景都さんは助手席を開けて、私は押し込まれる様に乗り込む。
続いて直ぐに景都さんも乗り込み、車は動き出した。
「私、制服……」
「大丈夫だよ」
でも……ね。
ハンドルを操作する景都さんを横目で見遣ると、この前よりもシックで上品なスーツを着込んでて。
こんなに突然な上に、身なりもちゃんと出来てないから、もの凄く不安。
「前以て言って下さいよぉ……」
「驚かせたくて」
そりゃもう驚きました。
きっと景都さんの予想以上に。
景都さんって……本当に突然驚く行動するから……強引と言うか、天然?
そう言う所は、外見に見合って幼さを残してる。
でも、こんな車を持ってて、めちゃくちゃ優しくて、温かくて、キスも……大人で。
景都さんが、前に自分でいいのかって言ってたけど、私こそ聞きたい。
私でいいの? って……。
「着いたよ」
一時間程車を走らせて、やっと辿り着いた所は大きな美術館。
入口には次々と人が吸い込まれていて。
隣接する駐車場に車を停め、私達は会場内へ。
足を踏み入れると、そこは既に別世界だった。
美しく飾られたオブジェに、色とりどりの絵画。
審美眼などない私でも、その空間に目を奪われた。
「こっちだよ」
呆然と立ち尽くす私の手を取り、景都さんはそのフロアから出ると廊下を進んで行く。
そこの壁にかけられた様々な絵に見向きもせず、長い廊下を抜けると、広いホールにも似たフロアに出た。
「ここは……?」
キョロキョロと辺りを見渡して、景都さんを見上げる。
景都さんは入口から真っ直ぐを見つめ、動かない。
私も、その視線を辿った。
「あ……」
その先には、綺麗な片翼の天使の絵が。
愁いを含んだ表情で、寂しげに自分の羽根を一枚、空へと放つ。
美しい、天使。
その絵には、金色の勲章が掛けられていた。
「この絵……」
「うん……金賞、とっちゃった」
「え……?」
やっぱり、景都さんの絵……!
嬉しいのに、信じられない。
そんな複雑な表情の景都さんに、私は思わず抱き着いた。
「景都さん! 金賞だよ、金賞! おめでとう!!」
涙が、止まらない。
私がモデルになって、景都さんが必死になって描いた絵。
みんなが、認めてくれたんだ……。
――ん? でも……。
「私、こんなに綺麗じゃない……」
「あはは!」
あははって!?
景都さんを見上げると、優しい瞳で私を見つめていた。
ドクン、と胸が高鳴って、目が反らせない。
「話したいことがあるって……言ったよね」
静かに紡ぐ景都さんの言葉。
私は頷く。
ぎゅっと手を握られて、私は絵のすぐ前まで導かれた。
「この絵の天使は、間違いなく君だよ。でも、俺でもある」
「え?」
スッと、景都さんは絵の下を指差す。
そこには、タイトルがあって。
『いつか空に届いて』
私はその意図が分からず、タイトルを見つめ首を傾げた。
「エナちゃんの姿を借りたけど、この天使は俺で、君は空なんだ」
「空……?」
「……片翼の天使は翔べなくて、いつかあそこへ行きたいと空に焦がれてる……。この絵が飾られた時に、俺の気持ちを伝える筈だったんだけど……」
まだ、言葉の意味が理解出来なくて、私は絵を見つめる景都さんをずっと見てた。
ゆっくりと、景都さんは私に向かい、微笑んだ。
「この天使が空に焦がれる様に、俺もずっと君に焦がれてた。初めて君を見た、あの日から……」
「景都さん……」
初めての出会いは、思い出すだけでも恥ずかしくって。
でも、あの日から景都さんは、私を好きでいてくれたの?
嬉しい……。
ありがとう景都さん。
金賞、おめでとう……。
――後日、コケただけの私のどこが良かったのか、どうしても分からなかったから、満を持して聞いてみた。
「あの時、直ぐに起き上がらなかったよね? そしたら震え出して、泣いちゃったかと思ったら大笑いしながら起きたでしょ。見てて本当に面白くって」
「……」
結局、よく分からなかった。
景都さんは今、絵画雑誌や展覧会へ飾る絵を描いていて、忙しい毎日を送ってる。
私は学校はあるけど放課後は暇で、でも邪魔になると思って景都さんのマンションには行っていない。
前の様に、朝の
「おはよう」
だけの関係に戻っちゃってるけど。
景都さんの仕事が一段落したら、泊まりにおいでって言われてるから……。
――本当は、景都さんのマンションに行くのは、景都さん自身に止められてたりする。
仕事にならないって……私に触りたくなって仕事にならないって。
うぅ、恥ずかしい……。
「ねぇエナちゃん。仕事が終わったらさ、ご褒美にぎゅってさせて。キスも……それ以上もしたいけど」
「え!?」
カワイイ笑顔の景都さんは、私には刺激の強すぎる、オトナの男の人です。
END
最後までお付き合い下さった方々、ありがとうございました!感想等あれば是非お寄せ頂けると有り難いです。これからも頑張りますので、また他作品でも愛読して頂けると嬉しいです(^-^)