↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある勇者の逆転劇  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/50

第48話:砕け散る光と絶対の闇

砦の至る所に転がる無残な骸と、鼻をつく血の匂い。つい先ほどまで人々の活気と希望に満ちていた郷は、今や完全な死の静寂に支配されていた。

すべての人間を屠り、返り血で全身をどす黒く染め上げた勇者は、死体で作られた凄惨な道を踏み越え、砦の最奥に隠された地下聖堂へと足を踏み入れた。

重厚な石の扉を押し開けた先には、冷厳な空間が広がっていた。

その中央の台座に浮遊していたのは、神聖なるクリスタル。大魔王の瘴気を防ぎ、長きにわたって人間たちの命と希望を守護し続けてきた、この世界に残された最後の光の核である。

クリスタルからは、暗闇を切り裂くような清冽で純粋な光が放たれていた。それは魔界の気に属する者にとっては猛毒そのものであり、いかに大魔王の側近や高位の魔族であろうと、この光に触れるどころか近づくだけで肉体を灰燼に帰してしまうほどの、強烈な拒絶の波動を帯びている。大魔王が自らの手でこの砦を滅ぼさなかった、唯一にして最大の理由であった。

しかし、その光の結界は、血に濡れた勇者の歩みを少しも阻むことはなかった。

彼の魂がどれほど腐りきり、その行いがどれほど悪魔に等しいものであろうとも、彼が正真正銘の「人間の肉体」を持っているという事実だけは変わらないからだ。さらには、砦の民衆たちから「勇者」として完全に受け入れられ、無条件の信頼を得ていたこともあり、魔族を焼き尽くす神聖なる光は彼に対して何の防衛機構も働かせず、ただ静かにその身を照らすだけであった。

「くくく……あっけないものだな。大魔王すら手出しできなかった結界の核に、こうも簡単に辿り着けるとは」

何の苦労もなくクリスタルの目前、光の中心へとにじり寄った勇者は、底なしの強欲に満ちた笑みを浮かべた。

目の前の輝く石を叩き割るだけで、大魔王との契約が果たされ、世界の半分が手に入る。途方もない権力、富、そして全てを支配する絶対的な玉座。その甘美な未来に脳を焼かれた勇者にとって、この光が人類の存亡を懸けたどれほど尊いものかなど、考慮に値しない些事であった。

「これで世界の半分は俺のものだ。消え失せろ、目障りな光め」

醜悪な恍惚と共に、勇者は右手に握りしめた伝説の剣を大きく振りかぶった。

かつては世界を救うために振るわれるはずだった神聖な刃が、大魔王由来の不気味な赤紫色の瘴気を軌跡に残しながら、人類を守護し続けてきた光の核へと無慈悲に振り下ろされる。

パリンッ――!!!

地下聖堂に、甲高くも悲痛な破砕音が響き渡った。

次の瞬間、クリスタルは無数の破片となって虚空に散り、これまで砦を、そして世界を温かく包み込んでいた清冽な光が一瞬にして弾け飛んだ。

「おお……はーっはっはっは!! 終わったぞ! 全て俺のものだ!!」

砕け散る光の粒子を浴びながら、勇者が狂気的な高笑いを上げたその時。

砦を覆っていた不可視の結界が完全に消滅し、外で待ち構えていた大魔王の放つ絶望的な瘴気が、怒涛の勢いで流れ込んできた。

光は死んだ。

人間たちの悲鳴も、彼らが紡いできた歴史も、全てが漆黒の中に塗り潰されていく。世界を照らしていた最後の希望が完全に消失し、ガイナックスはもう二度と夜明けの来ない、絶対的な闇に飲み込まれたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。