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とある勇者の逆転劇  作者: 八咫 日本


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第23話:美談へのすり替え

黒焦げになった巨大な毒蛇の肉塊と、二人の若き兵士が跡形もなく消し飛んだ石室の中には、むせ返るような血と肉が焦げる異臭が充満していた。

台座から「伝説の兜」を回収し、満足げに頷いている勇者の背後で、生き残った二人の兵士はへたり込み、ガタガタと激しく震えていた。

彼らの瞳には、恐怖と絶望、そして拭いきれない疑念が渦巻いていた。

つい先程の光景が、網膜に焼き付いて離れない。

自分たちの仲間は、確かに化け物の注意を引くために突撃した。しかし、勇者が魔法を放ったのは、彼らが逃げる猶予など全くない、まさに化け物と組み合っている最中だった。

最初の罠で盾にされた仲間の最期も脳裏をよぎる。もしかして、この救世主様は意図的に自分たちを犠牲にしているのではないか……?

「ゆ、勇者……さま……」

兵士の一人が、震える声で勇者の背中に呼びかけた。その声には、すがりつくような響きと同時に、明確な非難の色が微かに混じっていた。

勇者はその声のトーンを聞き逃さなかった。

(ほう。どうやらこの下等な荷物持ちども、俺がわざと仲間を巻き添えにしたことに気づきかけているようだな。ここで反逆されて寝首をかかれたり、荷物を運ぶ奴隷がいなくなったりしては少々面倒だ。よし、ここは一つ、三文芝居で完全に洗脳しておくか)

勇者は兜を小脇に抱えると、突然、その場にガクンと膝をついた。

そして、両手で顔を覆い、肩を激しく震わせながら、悲痛極まりない嗚咽を漏らし始めたのである。

「ああ……! なんという……なんという痛ましい悲劇だ……っ!」

そのあまりにも唐突で、痛切な悲しみに満ちた泣き声に、二人の兵士はビクッと肩をすくめ、戸惑いの表情を浮かべた。

「ゆ、勇者様……?」

「許してくれ……どうか私を許してくれ!」

勇者は顔を上げ、涙(もちろん、魔力で眼球を刺激して流した完全な嘘泣きである)で濡れた頬を隠そうともせず、絞り出すような声で叫んだ。

「私にもっと力があれば、もっと早く魔法の詠唱を終えられていれば……彼らを犠牲にすることなどなかった! だが、あの化け物の瘴気はすでに限界まで膨れ上がっていたのだ! もし彼らが命懸けで化け物の動きを止めてくれていなければ、魔法は躱され、世界は完全に終わっていただろう!」

勇者は這いずるようにして二人の兵士に近づき、泥とすすにまみれた彼らの肩を力強く抱き寄せた。

「彼らの犠牲は、決して無駄ではない! 最初の罠から身を挺して私を守った彼も、そして今、あの恐るべき化け物を逃がさないよう決死の足止めをしてくれた二人も……自らの命を投げ打って、この世界を救うための礎となったのだ! 私は彼らの覚悟を無駄にしないため、血を吐く思いで魔法を放ったのだ!」

勇者の声は、石室に響き渡るほど熱を帯びていた。

「泣くな、若き戦士たちよ! 彼らは犬死になどではない! 彼らこそが、このガイナックスを大魔王の脅威から救い出した、真の英雄なのだから……!」

過酷な環境での行軍、仲間の無惨な死、そして死と隣り合わせの極限状態。

肉体的にも精神的にも限界を迎え、冷静な判断力などとうに失っていた若い兵士たちの心に、勇者の熱弁は劇毒のように甘く、深く浸透していった。

もし、勇者の言うことが嘘だとしたら。仲間たちはただの使い捨ての駒として、理不尽に殺されただけになってしまう。

そんな残酷な現実を、今の彼らの精神が受け止めきれるはずもなかった。

だからこそ、彼らは勇者の用意した「美しい嘘」にすがりつくしかなかったのだ。

「あ……ああ……っ」

兵士たちの目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。

「そうか……あいつらは、英雄になったんですね……! 世界を救うために、尊い犠牲に……!」

「勇者様! 疑うような心を持ってしまった我々をお許しください! 勇者様も、身を切られるような思いで彼らを……っ! うわあああああん!」

二人の兵士は子供のように泣きじゃくり、勇者の足元にひれ伏して額をこすりつけた。仲間の死を大義のための尊い犠牲であったと完全に思い込み、それを導いてくれた勇者に対する信仰心は、もはや狂気の域にまで達していた。

「そうだ。彼らの魂は、私が必ず大魔王の首を討ち取るまで、共に戦い続けるだろう。さあ、顔を上げなさい。彼らの分まで、お前たちが私の手足となって世界を救うのだ」

勇者は慈愛に満ちた声で優しく語りかけながら、足元で泣き崩れる二人を見下ろし、内心で腹の底からゲラゲラと嘲笑っていた。

(単純な馬鹿どもめ。適当に英雄だの犠牲だのと美辞麗句を並べてやれば、こんなにも簡単に騙されやがる。仲間の死すら肯定して俺に服従するとは、実に優秀な奴隷の完成だな)

嘘の涙を拭うふりをしながら、勇者の口元には底知れぬ邪悪な笑みが張り付いていた。

残る二人の命も、もはや勇者にとっては「次にどの罠で使い潰すか」という程度の価値しかない。狂信という最も厄介な鎖で繋がれた二人の肉盾を引き連れ、底なしに強欲な男の武具探しの旅は、さらに最悪の道程へと続いていく。

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