第14話:搾取の宴
夜のとばりが下り、重厚な防壁に囲まれた砦の内部は、外の荒野の闇とは異なる、沈鬱で奇妙な熱気に包まれていた。
砦の中央広場に設けられた粗末な特設会場にて、人間最後の希望である「救世主」を歓迎するための宴が盛大に開催されていた。
中央の最も上等な席――元々は王が座るべき玉座を模した木製の椅子に、勇者はふんぞり返るように腰を下ろしていた。その周囲を取り囲むようにして、砦の民たちが集まっている。彼らの表情には、明日の食料すら危ぶまれる過酷な現実を忘れさせようとするかのような、無理やり絞り出したような笑顔が貼り付いていた。外からやってきた絶対的な救世主が自分たちを救ってくれるという唯一の希望が、彼らを突き動かしていたのだ。
やがて、宴の始まりを告げる合図とともに、数名の男たちが大きな木製の皿や壺を抱えて運んできた。
勇者の目の前にドサリと置かれた料理を一目見た瞬間、勇者の内心で激しい怒りと不快感が沸き起こった。
(なんだこれは……! こんな豚の餌みたいなものを、この俺に食わせるつもりか!)
並べられていたのは、元の世界であれば裕福な貴族はもちろん、平民ですら見向きもしないような代物ばかりだった。石のようにカチカチに硬く焼き締まった黒いパン、塩気が抜けてパサパサになった貧相な干し肉、そして具材のほとんど入っていない、濁った水のような薄いスープ。どれをとっても、極限まで困窮した底辺の生活を物語る、粗末で味気ないものだった。
しかし、勇者が知らないところで、それは悲しい真実を隠していた。
この粗末な料理の数々は、明日食べるための貴重な備蓄を限界まで削り、砦の民たちが「自分たちの口には一切入れず、命を削ってかき集めた」文字通りの最高のご馳走だったのだ。少しでも救世主にもてなす心を伝えたいと、年老いた者たちが自分の分のパンを差し出し、母親たちが子供たちの口を覆って隠したその日の分のけじめをすべて寄せ集めたものだった。
民たちは、自分たちの全財産とも言えるその食事を勇者がどう評価するか、期待と不安の入り混じった目で固唾を飲んで見守っていた。
だが、勇者にはそんな民たちの健気な想いや犠牲の背景など、知ったことではないし、知ろうとも思わなかった。
(ふん、口当たりの良さそうな顔をしやがって。俺をこんなゴミみたいな食事で誤魔化そうったって、そうはいかんぞ。だがまあ、腹が減っては戦ができんからな。文句を言いながらも全部平らげて、明日からはもっと上等な肉を持ってこさせてやる)
内心で吐き捨てるような悪態をつきながら、勇者は表面上は尊大な微笑みを崩さず、目の前の皿に手を伸ばした。
硬い黒パンを乱暴に手でちぎり、口に放り込む。パサパサとした食感と劣悪な小麦の味に眉をひそめながらも、異様な身体能力と強大なエネルギーを維持するために、勇者は次々と皿の中身を貪り食っていった。薄いスープを喉に流し込み、濁った粗悪な酒をラッパ飲みする。
自分一人が満腹になるために、砦全体の数日分の食料がみるみるうちに消えていく。
その光景を、少し離れた場所から数人の子供たちが、じっと見つめていた。彼らは数日間まともに食事をとっておらず、空腹のあまりお腹を押さえ、トクン、トクンと鳴る胃の音を必死にこらえながら、その豪快な食べっぷりを見つめていたのだ。大人が差し出した馳走を救世主様が美味しそうに食べてくれるなら自分たちも嬉しいのだと、無垢な瞳で信じ込みながら。
しかし、勇者は自分を見つめる子供たちの視線に気づきながらも、一切気に留めることはなかった。それどころか、邪魔だと言わばかりに冷ややかな視線を一瞥で返し、自分に向けられた視線を無視してさらに干し肉を強欲に口へと放り込む。
「どうだ、勇者殿! 口に合うかどうか心配だったが……!」
王が恐縮した様子で声をかけてくると、勇者は口の中のものを乱暴に飲み込み、ふんと不遜に鼻を鳴らした。
「まあ、腹を満たすだけなら悪くない。私の機嫌を損ねないよう、明日以降も怠りなく準備しておけ」
「はっ、ありがたき幸せ……!」
王は安堵したように深く頭を下げた。その横で、自分の子供に分けるはずだったパンが目の前で次々と消えていくのを見た母親が、悲しげに目を伏せ、わずかに震える手を自身の衣服の裾できつく握り締めた。
誰もその歪んだ不条理を告発することはない。
救世主という仮面を被った一人の男が、絶望に喘ぐ人々から最後の希望と命の糧を奪い取り、自らの特権と欲望を満たすだけの搾取の宴。薄暗い砦の広場には、民たちの乾いた笑い声と、満たされない男の咀嚼音だけが、虚しく響き渡り続けていた。




