第8話. 狩り
ポワイヤックで迎える二度目の朝。
今では屋敷にも新しい顔ぶれが見え始めていた。
侍女が復帰して食事の支度と家事を始め、馬丁も顔を見せた。
皆それぞれ忙しそうに動き回っていたが、マルタンは広間の中央にある炉端に一人で座っていた。
皆がそれぞれの仕事へ出ていった状況。
ジャックは村を見回りに出かけ、ジャンは農地を見回りに出かけた。
侍女は井戸からひっきりなしに水を汲んできており、馬丁は馬と家畜を連れて草を食べさせに出ていた。
ギィ……
やることがなく悩んでいた、そのとき。
ちょうど彼の目に、屋敷へ入ってくるピエールの姿が映った。
「ピエール、俺は何をすればいい?」
ピエールは菜園から採ってきた草を抱え、炉端へ近づいた。
「領主様は……今のところ、特にすることはないのではありませんか?」
このままでは、今だけでなく永遠にすることがなさそうだった。
「父上は普段、何をしていた?」
「まあ……領民同士で争いがあればそれを解決したり、村や農地を歩き回って領民を監視したりしておられました。それ以外では、適当に武器を振るったりもしておられましたね」
村なら昨日歩き回ったし、武器は十年近く振るってきた。
「……他にはないのか?」
ピエールは鍋に草を放り込みながら答えた。
「時々、狩りもなさっていました。この時期なら湿地へ行けば水鳥がかなりいます」
「狩りか……」
マルタンは目の前の鍋に入ったシチューを見た。
たった今、ピエールが放り込んだ草。
昨日も見たような魚の頭。
それらが絡み合って煮えている光景は、ひどいとしか言いようがなかった。
「……狩りはいいな」
彼はそれほど狩りが好きなわけではなかったが、今はやらなければならなかった。
「弓と矢はあるか?」
「はい、すぐにお持ちします」
倉庫へ入ったピエールが、古びた弓と矢筒を持ってきた。
最低限の手入れしかされていない弓。
矢が四本しか入っていない矢筒。
こんなものでまともに狩りができるのか疑問だった。
立ち上がったマルタンは弓を受け取り、弦を引いてみた。
ギギギッ―
弓から少し妙な音はしたものの、ひとまず力にはきちんと耐えた。
弦をゆっくりと元へ戻し、矢筒を受け取った。
「行ってくる」
矢尻など気にする必要もなかった。
どうせ水鳥なら、鏃があろうとなかろうと当てさえすればいい。
矢羽が無事そうに見えるので、それで十分だった。
***
鳥を狩るからといって、飛んでいる鳥を狙うのは狂気の沙汰だった。
狙うべきなのは地面に降りている鳥。
だが、マルタンはそうしなかった。
ギギギギッ―
弦を限界まで引き、遠くから飛んでくる鳥を狙った。
パァン―
彼の放った矢が、恐ろしい勢いで鳥へ飛んでいった。
そして、その鳥の脇を掠めて通り過ぎた。
昼食にする水鳥をすでに四羽仕留めていたので、少し無謀な真似をしてみたのだが、やはり飛んでいる鳥を仕留めるのは無理だった。
そして、その代償は矢を探しに向かう長い旅だった。
せめてもの幸いは、矢が湿地ではなく森に落ちたことだった。
マルタンは歩き出し、矢が落ちた場所へ向かっていた。
パカラッ―
遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。
近くに馬が通れるような道があるらしい。
わざわざ顔を合わせる必要もないので、森の中にじっと座り、彼らが通り過ぎるのを待つことにした。
『馬が一頭、人が四人』
いつの間にか相手は、足音だけで人数を把握できる距離まで近づいていた。
そのとき、彼らの会話が聞こえ始めた。
「ん? これ、矢じゃないか?」
「何だ、本当だな。それ使うのか?」
「じゃあ捨てろっていうのか? 鏃はなくても矢柄と羽根は無事じゃないか」
マルタンは、その矢が自分のものだと確信した。
相手が誰なのかは分からなかったが、物を勝手に取られるわけにはいかなかった。
立ち上がり、声のした方へ向かった。
ガサッ―
草むらをかき分けた音のせいか、相手の一団の視線が彼へ集まった。
「何者だ!」
「その矢の持ち主だ」
相手は馬に乗った中年の騎士が一人と、兵士が四人。
彼らはマルタンの正体を探ろうとするように、上から下まで眺め始めた。
「……剣?」
騎士はマルタンの腰に下げられた剣を見つけ、首をかしげた。
「見覚えのない顔だ。何者だ?」
「ポワイヤックの領主、マルタンだ」
騎士は一瞬、戸惑った表情を浮かべた。
「……こんな場所で会うとは思わなかったな。私はレスパールの武官長、ガルシアだ」
マルタンはガルシアを睨んだ。
「俺を知っているようだな?」
「知っているとも。君を訪ねてきたのだから、知らぬはずがない」
ガルシアはしばらく考え込んだ。
「……城主様の伝言を伝えるには、場所があまりよくないな。場所を移そう」
マルタンは周囲を見回した。
「どこへ行っても同じではないか? どうせこの辺りはどこも道端だろう」
ガルシアは失笑した。
「君の屋敷へ行こうという意味だったのだが……望むのなら、ここで話そう」
彼は馬を進め、マルタンの前へ近づいた。
「城主様がお尋ねだった。君はいつ忠誠の誓いを立てに来るつもりだ?」
上位の君主に捧げる忠誠の誓い。
新たに領主となれば行うべきことなので、特にためらう理由はなかった。
「指定された日に行こう」
ガルシアは片方の眉を上げた。
「思ったより素直だな?」
「領主としてやるべきことだからな」
「そうか……」
ガルシアはしばらく黙った。
「それでは……相続税についても知っているか?」
その存在については知っていた。
「忘れていたな。いくら納めればいい?」
「……君の領地収入二年分だ」
「二年?」
マルタンは顔をしかめた。
「ここでは元々、相続税を二年分も取るのか?」
ガルシアは苦々しい顔で首を横に振った。
「君の場合は……ロベール卿がまだ相続税を納めていなかったため、彼の分まで納めねばならない」
マルタンはしばらく考え込んだ。
領主になって間もなかった叔父。
原則として、彼が納められなかった相続税を自分が負担する必要はあった。
『原則通りなら、だが』
数か月で死んだ先代領主の相続税を、そのまま全額課す者などいなかった。
少なくとも、交渉する過程くらいはあるべきだった。
「理解できないな。それで合っているのか?」
「城主様の命令だ」
城主の命令。
そんなものは関係なかった。
これは彼の一線を越えた仕打ちだった。
「一年分しか納められないと言ったら?」
ガルシアは表情を固くした。
「そうしないことを願う」
マルタンの頭が冷えていった。
城主の意図。
それを明確に把握する必要があった。
「どういう経緯で、俺が二年分の相続税を納めるという話になった?」
ガルシアはしばらく何も言わなかった。
何かを悩んでいるようだったが、やがてゆっくりと話し始めた。
「……正直に言おう。城主様はロベール卿と、それなりに深い縁がおありだった。君が彼を殺したのだから、気に入らないのも当然だ」
マルタンは状況をより明確にするため尋ねた。
「ああ……では、城主が自ら決めたことなのか?」
ガルシアはうなずいた。
「君が起こしたことが原因なのだから、今回は受け入れたまえ」
城主の意図はあまりにも明白だった。
彼に向けられた明確な悪意。
もう悩むことはなかった。
マルタンは微笑みながら宣言した。
「近いうちに俺の相続税を準備して、レスパールへ赴こう。忠誠を誓う日が早く決まるといいな」
ガルシアは満足げな表情を浮かべた。
「それでも話の通じる者で安心した。他に何か尋ねたいことはあるか?」
マルタンは首を横に振り、別れの挨拶を告げた。
「楽しい話だった、ガルシア卿。大いに役立った」
「役立った……?」
ガルシアはしばらくマルタンを見つめたあと、大したことではないというように顔を背けた。
「何のことかは分からないが、君がそう言うならそうなのだろう」
ガルシアは馬首を返し、兵士たちへ叫んだ。
「用は済んだ。レスパールへ戻るぞ」
兵士たちがガルシアの後ろへ移動し、隊列を組み直している途中、マルタンが兵士の一人の肩を掴んだ。
「な……何でしょうか?」
マルタンは冷たい表情で手を差し出した。
「俺の矢だ。返してもらおう」
「え……あ、はい」
兵士は持っていた矢を、慎重にマルタンの手の上へ置いた。
「ありがとう」
マルタンが肩から手を離すと、兵士は急いで隊列へ戻った。
遠ざかっていくレスパールの者たちの後ろ姿。
マルタンはその場に立ち、彼らが去っていく様子を見届けた。
***
ポワイヤックの鍛冶屋。
彼は真っ赤に熱した斧の刃を叩いていた。
カン――
あちこち刃こぼれしていた斧。
それを鉄片と共に熱し、打ちつけることで新たに作り直している最中だった。
「鍛冶屋」
聞き覚えのある声に、鍛冶屋は振り返った。
昨日会ったポワイヤックの新たな領主、マルタン。
その表情は昨日と同じく無関心そうだったが、なぜか一段と冷たく見えた。
「またいらっしゃいましたか。何か必要な物でもございますか?」
マルタンは彼の前へ盾を一つ差し出した。
「盾に鉄の縁を取りつけた経験はあるか?」
「ありません」
「それでもやってもらう」
マルタンは棚の上へ盾を置き、冷たい声で続けた。
「撒菱を六十個、短槍用の穂先を三つ。合わせて五日やる。それまでに作っておけ」




