第6話. レスパール
ピエールは炉の前で貧乏揺すりをしながら、爪を噛んでいた。
それを見たマルタンが尋ねた。
「どうした?」
ピエールは相変わらず爪を噛みながら答えた。
「先ほどは気が動転していたので従いましたが、私たちは本当に大丈夫なのでしょうか?」
「レスパールの者たちの話か?」
ピエールはゆっくりとうなずいた。
「あの人たちを、あんなふうに扱ってもよかったのか分かりません」
マルタンはそれに同意した。
「確かに、贈り物が少し足りなかったとは思っていた」
ピエールはゆっくりと顔を向け、マルタンと目を合わせた。
「……はい?」
「向こうが要求した物しか送らなかったのが気になってな」
上位の君主の娘が結婚するというのに、あれが最善だったのかという疑問。
振り返ってみれば、もう少し気を配るべきだった。
「寝室の箱の中に銀の腕輪があった。それを贈るのはどうだ?」
ピエールはかなり不遜な目つきでマルタンを見た。
「いや……贈り物がどうこう以前に、そもそもあんなふうに殴り倒したこと自体が間違いではありませんか?」
マルタンには理解できなかった。
「あの程度なら、後遺症さえ残らなければ互いに挨拶を交わしたようなものだ」
ピエールは頭を抱えた。
「……」
「わ……私は正直、怖いです。レスパールの城主が抱えている騎士が何人いるか、ご存じですか?」
「何人だ?」
ピエールはしばらく答えをためらった。
「……私も正確には知りませんが、その配下に荘園領主が二十人近くいることは確かです」
荘園領主が二十人ということは、騎兵が最低でも二十人いるということだ。
マルタンは頭の中で戦力を見積もった。
『ぎりぎりだな……』
レスパールの城主が直接率いている兵力まで合わせれば、危険かもしれないと思った。
「やはり、腕輪くらいは追加で贈るべきだな」
結婚祝いに装身具。
なかなか悪くない組み合わせに思えた。
「結婚式がいつか知っているか? 花嫁が出発する前にレスパールへ立ち寄らなければな」
ピエールはしばらく考え込んだ。
「そこまでは分かりませんね。他の者たちに尋ねてみてはいかがですか?」
尋ねようにも、ここには彼とピエールしかいなかった。
「そういえば、皆の姿が見えないな。どこへ行った?」
「ジャンは家畜に草を食べさせに行き、ジャックは裏庭で薪を割っているはずです」
ピエールの説明を聞いたマルタンは、しばらく口を閉ざした。
かなり経ってから、慎重に口を開いた。
「……使用人と兵士のうち、どちらがジャックだ?」
ピエールは呆れたような顔で彼を見た。
「まさか、名前すらご存じなかったのですか?」
マルタンは黙ってうなずいた。
「……体格の大きい兵士の方がジャックです。小狡そうな顔をしている方がジャンです」
「……そうか。ジャックのところへ行ってみよう」
マルタンは会話を終え、裏庭へ向かった。
小さな井戸。
馬を含むさまざまな家畜が暮らす家畜小屋。
地面に座って休んでいるジャック。
故郷へ戻って初めて目にする裏庭の景色だった。
人の気配を感じたのか、ジャックは顔を上げてマルタンを見た。
「どうなさいました、領主様?」
「城主の娘がいつ結婚式を挙げるのか、知っているか?」
ジャックは頬をかいた。
「さあ。正確には分かりませんが、聖マルタン祭の頃ではないでしょうか? 待降節に入れば、教会が結婚を禁じるではありませんか」
マルタンは中世式の日付を頭の中で換算し始めた。
聖マルタン祭は十一月の上旬から中旬。
待降節は降誕祭前の四週間。
結婚式の日取りを、おおよそではあるが予測できた。
「長くても二か月というところか」
マルタンはすぐにジャックへ尋ねた。
「レスパールへ行ったことはあるか?」
ジャックはしばらく彼の顔色を窺った。
「ええと……領主様のお父上とロベール様について、何度か訪れたことがあります」
マルタンは首をかしげた。
「まるで一緒に行ったように聞こえるな? 二人は仲が悪かったのではないか?」
ジャックはうなずいた。
「そうでした。それでも、レスパールへ行く用事があるときは必ず一緒に行かれました」
「なぜだ?」
「私にもよく分かりません。ロベール様はレスパールで従騎士をなさっていたそうですから、そのためではないでしょうか?」
従騎士としての生活。
彼が受けられなかった上等な教育だった。
「その頃は一族にも多少は金があったようだな」
もちろん、今となっては関係のないことだった。
感情が少し鈍くなったとはいえ、戦場は彼に多くのことを教えてくれたのだから。
「とにかく、近いうちにレスパールへ行く。覚えておけ」
用件はそれで終わりだった。
マルタンが裏庭を離れようとしたところで、ジャックが彼を呼び止めた。
「あの……領主様?」
マルタンは振り返り、黙ってジャックを見た。
ジャックは立ち上がると、しばらくためらってから口を開いた。
「昼間のことですが……レスパールの騎士と戦っておられるのを見ました。まるで子供を相手にするようにあしらっておられました」
ジャックは続けて尋ねた。
「……どうすれば領主様のように強くなれるのでしょうか?」
傭兵として暮らしていた頃にも、よく聞かれた質問。
マルタンはいつものように、同じ答えを返した。
「相手の手を読み、正しい判断を下せばいい。あとはそれを支える力と反応速度を身につける。それがすべてだ」
マルタンは昨夜のジャックの一撃を思い出し、一言付け加えた。
「お前は四つとも備えていないがな」
ジャックはしばらくためらったあと、小さな声で反論した。
「……力もですか?」
「武器に乗せる力の話だ」
マルタンはジャックの全身をゆっくりと見回した。
「体格は多少いい方だが、昨夜お前が突き出した槍はひどいものだった」
突然、夜襲の話を持ち出されたせいか、ジャックの表情が固まった。
「昨夜のことは……本当に申し訳ありません」
マルタンは首を横に振った。
「俺にとっては好都合だったから、気にするな」
「……?」
しばしの沈黙のあと、ジャックは再び質問を始めた。
「それでは……どうすれば武器に力を乗せられるのですか?」
「まずは武器を持ち、何度も扱ってみることだ」
マルタンは周囲を見回し、薪の山の横に置かれていた斧を持ち上げた。
「斧も優れた武器の一つだ。扱いは難しいが、力を乗せるのは簡単だ」
マルタンは斧をまるで棒切れのように手の中で回転させた。
やがて斧の柄を握り、ゆっくりと振り始めた。
「手首、腕、肩、上半身。その都度適切な程度の力を乗せ、ぶれないよう固定すればいい」
マルタンは斧を大きく一度振り、それをジャックへ渡した。
「だいたい分かったか?」
ジャックは斧を受け取り、首を横に振った。
「……分かりません」
マルタンはゆっくりとうなずいた。
「なら仕方ない。自分でやってみろ」
「……?」
ためらいなく背を向けるマルタン。
彼はもう話すことはないとばかりに、その場を去っていった。
***
レスパールの城主、ゴセルム。
彼の前には忠実な家臣の一人であるアマニウと、彼が連れていった兵士たちが立っていた。
「もう一度言ってみろ。何があったのだ?」
アマニウは頭を下げて答えた。
「ポワイヤックの領主ロベール卿の一家が死亡し、その甥であるマルタンという者が領主の座を占めました」
ゴセルムは低く唸った。
幼い頃からの友が死んだという知らせ。
まったく予想していなかった話だった。
「……一家が突然死んだはずはない。そのマルタンという者の仕業か?」
「……その者の仕業であることは確かです」
「確かだとは、どういう意味だ?」
その問いに、アマニウは慎重に口を開いた。
「城主様、他の者たちをしばらく下がらせていただけませんか?」
ゴセルムは周囲を見回した。
壇の下の左右に並んでいるのは、全員が彼の忠実な家臣たち。
彼らに聞かせられない話などなかった。
「ここにいる誰が聞いても構わぬ。続けろ」
アマニウはしばらくためらってから答えた。
「ロベール卿がマルタンへの夜襲を命じたそうです。それに失敗し、逆に報いを受けたとのことです」
ゴセルムは信じられないというように目を大きく見開き、尋ねた。
「……確かな話なのか?」
「ポワイヤックの司祭にも尋ねました。話を聞く限り、かなり高い確率で事実のようです」
ゴセルムはゆっくりと目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。
『ロベール、この愚かな友よ……』
彼は家臣たちを下がらせなかった自分の選択を後悔した。
臆病な友がしでかしたことは、どうやっても庇うことのできない行いだった。
他の家臣たちも聞いてしまった以上、ロベールの名誉まで地に落ちたことになる。
案の定、彼の予想通り、広間の空気がざわつき始めた。
「ロベールめ、ついにやらかしたか」
「いったい、どんな夜襲を仕掛ければ失敗するのだ?」
「領主になってまだ数か月も経っていないというのに、このようなことを起こすとは」
ゴセルムは厄介な状況に頭を抱えた。
愚かな友がしでかしたことをどう収めるべきか悩んでいた、そのとき。
彼の目にアマニウと兵士たちの姿が入った。
『……?』
正体の分からない違和感。
薄暗い室内と距離のせいでよく見えなかったが、彼らの様子はどこかおかしかった。
「……アマニウ卿?」
「はい、城主様」
「兵士たちを連れて、もっと近くへ来い」




