第17話. 支配者
ザッ―
マルタンは塔を背にし、丘を下りた。
そのまま前へ歩き続けていた彼が、不意に宴会場のほうへ顔を向けた。
宴会場の入口付近。
そこにはピエールとジャックが立っていた。
「領主様……?」
マルタンは彼らへ近づきながら尋ねた。
「司祭を見なかったか? 子供を抱いていたはずだが。」
ピエールとジャックは何も答えなかった。
「どうした?」
ピエールが震える声で尋ねた。
「もしかして……領主様がなさったのですか?」
「……?」
マルタンが何も答えないと、ピエールは宴会場のほうへ顔を向けた。
「ここ……のことです。」
マルタンはピエールにつられて顔を向けた。
宴会場の光景を見てから、ようやく頷いた。
「ここの死体のことなら、俺がやった。」
ピエールはしばらく呆然としていたが、やがて魂の抜けたような顔でマルタンを見た。
「いったい……いったい、どうするおつもりでこんなことをなさったのですか? この者たちが領主様へ何かしたのですか?」
マルタンが答えた。
「俺のものを奪おうとした。」
「何をですか?」
マルタンは不思議そうな目でピエールを見た。
「何を奪おうとしたかが重要なのか?」
ピエールは何も答えられなかった。
息苦しい沈黙の中、ジャックが不安に満ちた顔で口を開いた。
「それでは……私たちはこれからどうすればいいのですか?」
マルタンはしばらく夕焼けを眺めた。
「もうほとんど日が沈んだ。宿で一晩過ごしてから行くしかないだろう。」
ジャックは戸惑った表情を浮かべた。
「そういう話ではなかったのですが……まさか、ここでお休みになるのですか?」
「他に行く場所でもあるのか?」
ジャックは渋い顔で答えた。
「……いいえ、ありません。」
話を終えたマルタンは顔を巡らせ、周囲を見回した。
辺りの様子を隅々まで見渡すと、残念そうに口を開いた。
「……どうせ司祭は立ち去ったようだ。すぐ宿へ戻ろう。」
マルタンが先頭に立って歩き始めると、ピエールとジャックがその後を追った。
宿へ戻る道。
ジャックは続けて質問した。
「領主様、ポワイヤックへ戻った後は? その後はどうなさるのですか?」
マルタンが聞き返した。
「何かしなければならないことでもあるのか?」
「いや。あんなことをなさったのに、何もないのですか? ただ何事もなかったように暮らせばいいのですか?」
マルタンは当然だというように答えた。
「そうだろう?」
ジャックは理解できないという顔で尋ねた。
「これほど大勢が死んだのですよ? 誰かが復讐しに来るのではありませんか?」
マルタンは首を横に振った。
どうせ復讐する勇気のある者たちは全員殺した。
逃げた荘園領主たちも、復讐を試みることすらできないだろう。
死んだ荘園領主の後継者たちくらいは来るかもしれないが、大した問題ではなかった。
「来たところで数人もいないだろう。」
「まあ……これほど大勢が死んだのですからね。」
ジャックは頷きかけ、何かに気づいたように足を止めた。
「あの……それではレスパールはどうなるのですか?」
マルタンは少し考えてから答えた。
「……どうにかなるだろう。」
主を失った城、レスパール。
マルタンは、もはやこの場所に興味がなかった。
***
旧帝国の遺産を受け継いだ、ボルドーの巨大な城。
その中だけで数千人が暮らしているのだから、城門を守ることはかなり重要な仕事だった。
ボルドー西門の門番、アルノー。
彼は城門から聞こえる騒ぎ声で目を覚ました。
どれほど待っても収まらない騒ぎ。
アルノーは寝台から体を起こしながら愚痴をこぼした。
「くそっ……あいつら、何をしてやがる?」
城門を守る兵士たちへ一言言ってやると固く決意し、家を出た。
ギィッ―
早朝の冷たい空気。
そして、城門を叩く音。
この二つは同時にあってはならない組み合わせだった。
城門へ近づいたアルノーは、その前に立つ兵士たちへ苛立ちをぶつけた。
「外は何だ? 城壁の上にいる奴らは何をしている?」
兵士が困った顔で答えた。
「その……ひとまず聞いてみてください。」
どういう意味か考える間もなく、城門を叩く音とともに誰かの叫び声が聞こえた。
「私はレスパールの侍従長ルーフスだ! 早く……早く門を開けろ!」
アルノーは眉間に皺を寄せ、外の声へ耳を澄ませた。
ドン―ドンドン―
「頼む……! 今すぐ公爵様へお目通りしなければならないのだ!」
アルノーは兵士へ尋ねた。
「レスパールといえば、あの湿地にある城ではなかったか? メドックで一番栄えているところだろう?」
「はい。そうですけど?」
アルノーは呆れた顔で兵士を見た。
「ただの狂人ではないか? なぜ見ているだけなんだ?」
兵士は後頭部を掻いた。
「それが……相手は本当にレスパールの侍従長らしいんですよ。」
「何……?」
レスパールほどの場所の侍従長が、あんな真似をしているはずがなかった。
「何を馬鹿なことを言っている?」
「そうですよね。城壁の上の連中がそう言うので、どうしたものかと考えていたところです。」
兵士は続けて言った。
「ひとまず通用門から出て、連れてきましょうか?」
「いや、待て。」
アルノーは顔を上げ、城壁の上を見た。
「おい! 城壁警備隊! 外にいるのは誰だと言った?」
彼らの会話を聞いていたのか、城壁の上から兵士が一人すぐに顔を出した。
「はい、レスパールの侍従長で間違いないと思います!」
「何を見てそう判断した?」
兵士は少し返答をためらった。
「ええと……顔が同じように見えました。去年見た気がしますけど?」
アルノーはため息を吐き、額を押さえた。
「この馬鹿どもが……。」
こんな暗い早朝に、相手の顔などどれほど見えるというのか。
そもそも、あの中にレスパールの侍従長の顔を正確に知っている者がいるのかも怪しかった。
「本当に間違いないんだな?」
「……おそらく?」
城門の上からそう言われては、確認しないわけにもいかなかった。
アルノーは隣に立っていた兵士を連れ、通用門へ向かった。
「早朝から何をやっているのやら。まったく。」
かなり歩いて、ようやく通用門へ着いた。
そこから城外へ出て、再び城門のほうへ向かった。
ドンドン―
城門が近づくにつれ、誰かが暴れている音がより鮮明に聞こえてきた。
「城主様が……城主様が危険なのだ。」
力尽きたのか、城門を叩いていた中年男がその場へ倒れ込んだ。
疲労困憊しているように見える中年男へ、アルノーと兵士が近づいた。
「……ん?」
乱れた髪に、どこかを転げ回ったのか全身を土まみれにした中年男。
アルノーは信じられないという目で相手の顔を確認した。
「……本当に侍従長だ。」
「はい……?」
兵士の問いへ答えている暇はなかった。
レスパールの侍従長が、このように突然訪ねてくる場合。
それが何を意味するのか考えなければならなかった。
『城主が危険だと? なぜだ?』
レスパールの城主は爵位こそ持たないものの、誰もが認めるメドックの支配者だった。
海とジロンド川に囲まれたメドック。
そこへ侵入する方法は、ボルドーから続く道しかなかった。
『最近、怪しい動きはあったか?』
城主が危険に陥るほどの勢力が動いていたなら、噂にならないはずがなかった。
陸では何も起きていない。
ならば問題となるのは、川と海だった。
アルノーは川や海を通じてレスパールの城主を脅かせる者たちを思い浮かべた。
「……ノルド?」
兵士が不思議そうな顔で尋ねた。
「突然ノルドですか? 私は生まれてから一度も奴らを見たことがありませんが?」
アルノーは兵士へ顔を向けた。
「レスパールの侍従長があんな姿で来るようなことが、ノルド以外にあるか?」
「早く考えろ。何か別の結論を出してみろ。」
兵士は何も答えなかった。
アルノーは頭が痛そうな顔で何度も顔を擦った。
「はあ……くそっ、満潮はいつだ?」
「ええと……そろそろ始まる頃では?」
ノルドどもの規模も、目的も分からなかったが、備えなければならなかった。
幸い、レスパールからここまではかなり距離がある。
備える時間は十分にあった。
「いくらノルドどもでも、一度の満潮だけではここまで来られないだろう。ひとまず侍従長を運べ。」
アルノーの命令にも、兵士は動かなかった。
「……今回が二度目の満潮ではありませんか?」
「何……?」
兵士は侍従長を指した。
「この方がいつレスパールを出たのか、分からないではありませんか。いや、どう考えても今が二度目です。」
アルノーはそれ以上、言葉を続けられなかった。
その顔が次第に青ざめると、侍従長へ近づき、彼の体を激しく揺さぶり始めた。
「侍従長! いつ、何があったのですか! 敵の規模は!」
アルノーに掴まれ、しばらく揺さぶられていた侍従長。
彼が小さな声で呟き始めた。
「一……。」
それを聞いたアルノーが、続きを急かした。
「一! それから何ですか?」
「一……一人だ……。」
「?」
言い終えた侍従長は、再び意識を失った。
何度揺さぶっても目を覚まさない侍従長。
アルノーは苛立たしげに吐き捨てた。
「くそっ。やっと口を開いたと思ったら、これか?」
「一人とは、どういう意味でしょう?」
「はあ……私が知るものか。」
アルノーはため息を吐き、立ち上がった。
正確に何が起きたのかは分からなかったが、一人で判断するには状況があまりにも異常だった。
「ここはお前が適当に処理しろ。私は内城へ行く。」
ボルドーの支配者、ガスコーニュ公爵。
その家臣団へ、この状況を知らせなければならなかった。




