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劣勢の戦場で敵将を討ち取った俺、気づけば公の右腕にされた件  作者: 塩野さち


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第98話 麦の収穫、フィオラヴァンテ評議会商人の完全敗北

『アヴァロン帝国暦2年 10月上旬 オルデンブルク領 晴れ』


【皇帝の右腕グレン公爵視点】


 帝都フェルグラントでの激務の合間を縫って、俺は自身の領地であるオルデンブルク領へと足を運んでいた。

 見渡す限りに広がる黄金色の絨毯。秋の風に揺れて輝く、豊かな麦畑だ。


(今年は、とんでもない豊作になりそうだ……)


 俺は上着を脱ぎ捨てて腕まくりをすると、領民たちに混じって(かま)を手に取った。


「こ、公爵閣下!? 自ら農作業など、いけません!」


 領の代官が慌てて止めに入るが、俺は笑って首を振った。


「気にするな。じっとしているより、体を動かすほうが性に合っているんだ」


 雑兵上がりの俺にとって、土に触れ、汗を流すのは決して苦ではない。

 それに、今年の麦の収穫は、ただの農作業ではなかった。アヴァロン帝国の命運を左右する、極めて重要な「戦」なのだ。


 少し前のことだ。南方に位置する『商業都市国家連合』――その中核を担うフィオラヴァンテ評議会の商人たちが、帝国に対して卑劣な罠を仕掛けてきた。

 彼らは莫大な資金力を背景に、大陸中の麦を買い占め、帝国の食料価格を不当に吊り上げようとしたのだ。

 剣を使わない、血の流れない経済戦争である。


「俺たちが飢えれば、帝国は内側から崩壊する。奴らはそう踏んだんだろうが……」


 俺はザクッと力強く麦を刈り取り、束ねていく。

 ずしりと重い。一つの穂に、例年の倍近くも実が詰まっているのだ。


「閣下! 今年の収穫量は、過去の記録をはるかに上回る見込みです!」


 報告に駆けつけた役人が、興奮した声で叫んだ。

 周囲の領民たちも、次々と刈り取られる見事な麦の束を見て、あちこちで歓喜の声を上げている。


(よし。これで帝国の食料は完全に潤うぞ)


 俺は額の汗を拭いながら、南の空を睨みつけた。


 フィオラヴァンテ評議会の商人たちは、帝国が食料難に喘ぎ、やがて法外な値段で麦を買うことになると信じて疑わなかっただろう。

 だが、このオルデンブルク領をはじめ、帝国全土での予想を絶する大豊作により、彼らの買い占めた麦は完全に無用の長物となった。

 逆に、借金をしてまで麦をかき集めていた商人たちは、値崩れを起こした大量の麦を抱え、破産の一途をたどることになる。


 数日後。

 帝都フェルグラントの屋敷に戻った俺の元に、一人の伝令が駆け込んできた。


「申し上げます! 商業都市国家連合のフィオラヴァンテ評議会が、帝国に対して従属と、賠償金の支払いを申し出てまいりました!」


 執務室の対面で報告を聞いていた皇帝カール様が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「戦わずして勝つ、か。グレンよ、お前の領地の麦が、商人の金貨よりも強かったということだな」


「ええ。土に根を張る民の力は、あざとい金勘定など吹き飛ばすのです。どうやら、評議会の雇っていた傭兵団も、去ってしまったようです」


 俺は静かに頷いた。

 剣を交えることすらない、完全なる勝利。

 こうして、アヴァロン帝国を揺るがそうとした商業都市国家連合の野望は、黄金色の麦畑の前にあっけなく崩れ去ったのだった。


 その晩、俺とカール皇帝は飲んで騒いだ。

 また、一緒に風呂に入る。


 皇帝に泊まっていけと言われるが……。


「陛下、息子が気になりまして……」


「そうよな、余が無粋であったわ! また明日だ!」


 飲んだ体に、秋の風が心地よい。

 ふと上を見ると、秋の月が、それはそれはキレイに輝いていた。


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