第109話 ヴァルデマール将軍の歓待
『アヴァロン帝国暦2年 12月上旬 北方の都市ハーグ 城 昼 大雪』
【ハーグ自治領主ヴァルデマール将軍視点】
十二月の上旬。要衝であるこのハーグの街は、深い雪に閉ざされていた。
私は、城の執務室の窓から、白く濁った外の景色を眺めていた。
(そろそろ北方の王、白熊のビョルン殿が来られるというのに、生憎の大雪だな……)
ハーグの自治領主である私、ヴァルデマールは、主君の道中を案じて静かに息を吐いた。
その時である。
ドドドドド!
地鳴りのような大勢の人馬の足音が、北門の方角から猛烈な勢いで迫ってきた。
「敵襲かっ!?」
部屋の外で警備をしていた衛兵が、血相を変えて飛び込んできた。
「待て。落ち着け。北門から真っ直ぐに向かってくるということは、ビョルン王が到着されたのだろう。直ちに歓待の用意を致せ」
「はっ!」
私が冷静に指示を出すと、衛兵は慌てて部屋を飛び出していった。
間もなく、雪を豪快にかき分けるようにして、騎馬の集団がハーグの城の中庭へと到着する音が聞こえた。
数分後。
バーンッ!
執務室の分厚い木の扉が、乱暴に蹴り開けられた。
「おお! ヴァルデマール、息災であったか!」
雪をかぶった分厚い毛皮の外套を揺らしながら入ってきたのは、見上げるような巨漢の男だ。
彼こそが、北方の地を束ねる覇者、『白熊のビョルン』王である。
「ははっ。相変わらず豪快ですな、我が王よ。お待ちしておりました」
私が深く頭を下げると、ビョルン王は部屋の暖炉の前に歩み寄り、豪快に笑った。
「ガハハッ! アヴァロン帝国から献上されたと言う美味いワイン、もちろんあるのだろう? さっそくやろうではないか!」
「わかりました。直ちに広間へご用意させましょう」
◇◆◇
こうして、城の大広間にて、盛大な宴が始まった。
ビョルン王は酒を愛し、そして何より色を好む。
私はこの日のために、街から美しい女性たちを大勢集め、ビョルン王の周りに侍らせて接待させていた。
「やはり、冬はハーグで過ごすに限るな! 我が本拠地は豊かだが、いかんせん寒くていかん!」
王は上機嫌でワインの入った杯をあおり、両隣に座る女性たちの肩を抱き寄せた。
顔はすでに赤く染まっているが、その眼光は少しも濁っていない。
私は、王の機嫌が良い今のうちに、懸案事項を報告しておくことにした。
「ところで、王よ。少し耳に入れておきたいことがございます。現在、私の判断に余る者がこの街に来ております」
「ほう、お前ほどの知恵者を悩ませるとはな。何者だ?」
ビョルン王が、興味深そうに身を乗り出した。
「南方の、ランベール王国からの使者でございます」
「フン! どうせ、南北からあのアヴァロン帝国を挟み撃ちにして叩きたいとか、そんな魂胆だろう?」
王は鼻で笑い、ワインを一気に飲み干した。
豪快な振る舞いに反して、戦の駆け引きを見抜く頭の回転は恐ろしく速い。
「まだ直接確認はしておりませんが、その通りかと存じます」
「して、その使者はどのような者だ? 小賢しい文官か?」
「いえ。若い女騎士、と報告を受けています。面会は一か月後ということにし、いまは私の経営する宿屋で様子を見させています」
「ほう……若い女か。南方の女は、まだ抱いたことが無いな」
ビョルン王の口角が、ニヤリと吊り上がった。
戦の話よりも、そちらの方に興味が移ったようだ。
「城へ呼びますか?」
私が問いかけると、ビョルン王は満足げにアゴをしゃくった。
「はっ。ただちに使者を呼び寄せましょう」
私は一礼し、衛兵に指示を出すために広間を後にした。
窓の外では、視界を白く染め上げるほどの大雪が、相変わらず荒れ狂うように降り続いている。
しかし、城内はいくつもの暖炉にガンガンと薪がくべられ、芳醇な酒の匂いと、ご馳走の香り、そして人々の熱気が、熱い渦のように巻いていた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




