第107話 第一師団長カリスト・グラディウス、迷い子の相手をする
『アヴァロン帝国暦2年 11月下旬 帝都フェルグラント練兵場 昼前 小雪』
【第一師団長カリスト・グラディウス視点】
俺、カリスト・グラディウスは強い。
自分で言うのもなんだが、アヴァロン帝国軍の第一師団長を任されているのだから、当然だろう。
ただし、帝国で三番目か、四番目くらいか?
一番強いのは、間違いなく元ヴァルゼン公こと、カール皇帝陛下だ!
必殺の一撃に定評があり、大剣を振るう姿はまさに覇王。そのため、訓練で戦った兵がいつも大怪我をしてしまうので、まともに相手をできるのは一人しかいない。
二番目も決まっている。皇帝の右腕、グレン・オルデンブルク公だ。
唯一、グレン公だけが、カール皇帝の遊び相手になれる。素早い連撃に定評があり、元はただの農民兵だと言うから、ものすごく特訓したのだろう。
三番目は俺……と、胸を張って言いたいところだが、おそらく傭兵のムンドが三番目だろう。
シャムシールと呼ばれる大刀を変幻自在に操る、とんでもない男だ。グレン公と繰り広げた一騎打ちは、今でも兵たちの間で語り草になっている。
そして、僅差で四番目が、俺ことカリスト・グラディウスだろう。
正規の剣術を習った騎士としては、この順位は正直不満だ! だが、その地位も最近は危ういと感じている。
(銀狼傭兵団の隊長イリアと、紅豹傭兵団の団長ソフィアだ)
この二人、条件次第では、俺より強いかも知れない。
いやいや、実際に命のやり取りをしたわけじゃないから、わからんぞ。ただ、剣の筋を見た俺の見立てってだけだ。
そのイリアとソフィアは、最近、グレン公の代わりにフリードリヒ殿下の師範となったようだ。
親しい者は、次期皇帝である彼のことを、愛称でフリッツと呼ぶ。
「やあっ!」
俺が練兵場の隅で腕を組んで見ていると、フリッツ殿下が竹刀を上段に構えて、イリアに力強く振り下ろした。
イリアが同じく、竹刀でいなす。
竹刀は真剣と違って柔らかく、しなる。そのため、まともに受け止めるというより、フリッツ殿下の力を滑らせて上手く逸らしているのだ。
「そんなんじゃ、グレン公は倒せないよっ!」
「分かってるっ!」
フリッツ殿下は悔しそうに言いながら、振り下ろした竹刀をすぐさま下段から跳ね上げ、イリアの胴を狙う。
「もちろん、アタイもねっ!」
フリッツ殿下の竹刀を横に鋭く払ったイリアは、そのままの勢いで、フリッツ殿下の頭をポンッと優しく叩いた。
パシッ!
「いてっ! もっと優しくしてよ〜!」
フリッツ殿下が頭を押さえて抗議すると、少し離れて見ていたソフィアが、くすくすと笑いながら口をはさむ。
「ふふっ、グレン公は、そんなに優しくなくてよ」
その言葉を聞いて、フリッツ殿下がしょんぼりと下を向いた。
目線の先には、痛々しくすりむいた膝があった。
「いつも、グレン公は、僕を転ばせるんだっ! ひどいよね!」
見かねた俺も、つい口を出すことにした。
「それは、倒れた兵の首を素早く取るためでしょうな」
俺の言葉にソフィアが続く。
「そうね〜、いかにも戦育ちのグレン公らしい実戦的な教えよね」
「まあ、戦場で倒されると、それで終わりだからね〜」
同じくイリアも同意した。
大人三人の容赦ない言葉を聞いて、フリッツ殿下の顔が、さあっと青ざめる。
「わかったよ、転ばなきゃいいんだろ!」
「おっ、分かってきましたな、殿下!」
フリッツ殿下が負けん気の強い瞳で俺たちを睨み返したところで、ちょうど昼食を知らせる鐘が鳴り、本日の訓練はお開きとなった。
そのうち、あの小さなフリッツ殿下も、帝国の強さランキングに名乗りを上げるような、立派な戦士になるのだろうか。
少なくとも、根性はありそうな男の子であった。
ふと空を見上げると、分厚い雲間から柔らかな日光が差し込み、朝からチラついていた小雪はいつの間にか止んでいた。
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