6話 《死の間際に笑う者》変形する剣、変身する身体
僕達は――たしかに扉を開け、敵に攻撃を仕掛けようとしたはずだ。
目を開けた瞬間、脳を揺さぶる衝撃。視界が白く霞み、耳鳴りが轟く。
記憶が遡り、直前の光景が鮮明に浮かぶ。
暗闇の奥から現れたのは、十の首を持つ竜。
九つは血肉と鱗に覆われ、残る一つは金属仕掛け――機械の竜だった。
咆哮、地鳴りのような振動が胸を叩く。
次の瞬間、振り下ろされた爪が空気を裂き、視界が赤に染まり、
左腕が消えていた。
「がはっ……!」
壁に叩きつけられ、肺から空気が押し出される。
口から血が溢れ、肩の断面から鮮血が噴き出す。
普通なら絶叫し、失神してもおかしくない。
――だが僕の頭は、氷のように澄んでいた。
(失血性ショック死までは数十秒。まだ戦える)
(001、この魔力……剣に流せるか?)
自分の声なのに、震えがなかった。
肉体は痛みに痙攣しているのに、頭脳は冷徹に計算を続ける。
その異常な乖離が、逆に僕を突き動かしていた。
「ななし!!」
スレイムの悲鳴が響く。普通の反応だ。
だが僕は、妙に冷静に思った――ああ、僕はもう「普通」じゃないのかな...
溢れ出すような感覚、魔力?
断面から黒い靄が滲み出し、失われた腕を繋ぐように伸びる。
右手の剣は黒い光を帯び、輝きを増し僕を表すような色だった。
(可能性はある。ただし条件だ――私の言う通りに動け)
001の声が聞こえる。
「……わかった」
響いてきたのは冷静な自分の声だった。
(剣を納刀し、魔力を身体から剣へ流せ。剣に反応した魔力を再び身体へ戻る。それを繰り返せ、そして“いい”と言ったら抜刀だ)
呼吸を整え、無言で構える。
切断された痛みは残っているはずなのに、不思議と声は出ない。
心臓の鼓動が早鐘のように鳴り、魔力が溢れ出す。
剣と身体を循環し、熱が走り、溢れ出す。
金属が軋みをあげ、剣の持ち手がスライドする。
片手剣は両手剣へ。柄は展開し、X字を変形する。
同時に、左腕に鱗が浮かび上がり、龍の影が纏わりつく。
(――解放しろ)
「ッ!!」
地面を蹴った瞬間、背後で岩盤が砕ける衝撃音が弾けた。
身体は音より速く駆け抜ける。
十の首が同時に魔力の塊を吐き出す、それは轟音、閃光、衝撃
しかし僕の視界には全て遅れて見える
刃を振り上げ――両手で振り下ろす
空気が裂け、竜の首が9つ宙を舞った
「グォォォォォォォ!!」
地鳴りの咆哮。血飛沫は噴水のように撒き散り、大地が震える。
さらに渾身の一閃。
機械仕掛けの首が断ち切られ、巨体が轟音を立て崩れ落ちた。
……やがて静かになり霧散する魔力。龍の鱗は消え、腕は元の姿に戻っていた。
「ななし! 大丈夫か!!」
駆け寄り声をかけてくれるスレイム、声が身体が動かなかった。
胸の奥で心臓が爆ぜるように鼓動し、全身に揺らす、そして
ただ先程の知らない感覚に震え続けていた。




