3話 転落 覚醒
〈名無し〉
僕たちは歩きながら、世界の話をスレイムさんから教えてもらっていた。
そこは大国で「魔石」を使用し、少ない魔力でも戦える汎用性の高さがある「機械国」。
本人の魔力量、魔術式、才能などによって優劣が決まる「魔法国」。
そして現在進行形で魔物・魔獣・魔人の発生など、さまざまな問題に対処する冒険者が多い「冒険国」。
「スレイムさんは、どこの国の出身なんですか?」
「私は魔法国出身だよ。もともとそこの家柄で生まれ、冒険者になり、ある程度戦闘経験を積んで国に戻った身なんだ……」
スレイムさんはそう言って、ふと悲しそうな表情になり、会話はそこで途切れた。
「話は変わるんですけど、魔法って実際どんなものなんですか?」
僕が尋ねると、スレイムさんの顔に明るい笑顔が戻った。
「魔法というのはだな、体の魔力を通して“魔刻印”を作り出し、その魔刻印が発動される。自分の能力の中で可能な魔法を決め、誰に対して効果を発揮するかを定めて発動するものだ……これが面白くてな、また魔術は――」
スレイムさんがそう語っている途中、急に表情を引き締めた。
「名無し、私の後ろから離れるなよ」
先の方から何かが歩いてくる音。現れたのは“魔獣”だった。
狼のような見た目をしており、体のあちこちに血管のような赤い線が走っている。僕たちを獲物と認識しているらしい。
魔獣は雄叫びをあげ、僕たちに向かって突進してきた。視界からスレイムさんと狼が消え、数秒後、狼は壁に蹴り飛ばされていた。だが、周囲にはまだ数匹の狼が僕たちを取り囲んでいた。
「魔力がなくなってきた……まずいな」
スレイムさんの頬に冷や汗が流れる。
「私が3秒後、魔法でこいつらを誘導する。ななしはその間に逃げろ」
彼女の手に魔術の刻印が空中に刻まれ始める。
「3……2……」
僕が逃げ出そうとし壁に手をついたその瞬間、「カチッ」という音が響き、僕とスレイムさん、さらに狼の一匹が突如変化した壁の中に飲み込まれた。
〈名無し〉
僕たちは落下していく。スレイムさんは魔力を使って落下を和らげてくれたが、そのまま地面に突っ伏し動かなくなってしまった。
「ここ……研究室?」
そこは、先ほどの洞窟とは比べものにならない施設だった。近未来的な装置が並び、明らかに人の手によるものだが、人の気配はない。
ただ一つ確かなことは、僕たちだけではなかったということ。目の前には落下の衝撃で瀕死の状態になった狼がいて、今にもスレイムさんに食らいつこうとしていた。
僕は周囲を見回し、武器になりそうなものを探した。すると、台座のような場所に一本の剣が雑に置かれているのを見つけた。中世風のノーマルソードのようであり刃は少し錆びついてながらも、どこか近未来的な機械技術を感じさせる剣だった。
僕は震える手でその剣を握り、スレイムさんを庇うように狼の前に立つ。
敵は僕を弱者と見なし、目にも止まらぬ速度で迫ってくる。
(死んだ……)そう思った瞬間、僕は吹き飛ばされ倒れた。
〈スレイム〉
(私は今、何をしていた?)
動かない体を無理やり動かし、周囲を見回すが私の知らない道具、設備そして何かの薬品のような香りが立つ部屋で、剣を手に立った後吹き飛ばされるななしを見た。その数秒後、魔獣が雄叫びをあげ、先ほどとは比べものにならない速度で突進する。しかし、ななしは拳でカウンターを合わせ、狼を吹き飛ばした。
(何が起こっているんだ?!)
目の前にいるのは、雰囲気の変わったななしだった。
「現状況を判断する。身体能力各種に違和感なし、良好。約3キロの中世期ノーマルソードを保持。目の前には敵意を向ける獣、優先的に処分する」
先ほどまで震えていた手は、今や熟練した剣士のように安定している。
狼が飛びかかる瞬間、黒く輝きだした剣は流れるように走り、錯覚するほど美しい軌道を描いて狼の身体を切り裂いた。
狼が絶命すると、ななし――いや“彼”はそのまま膝をつき、倒れ掛かるように意識を失った。
震える手で彼を受け止め、息を呑む。
「お前は……何者だ……?」
静まり返った研究所に、二人の荒い息だけが残った。




