14話 目覚めるのはここではない誰か
<反逆者>
何が起こっている?
私は確かに、彼にとどめを刺した――確実にだ。
骨は砕け、再生能力があったとしても時間を要するはずだった。
……なのに。
あの、溢れ出る全てを飲み込むような“黒”。
そして、無に帰すような“鮮血の赤”。
魔力の色が――違う。
この世界の人間は、生まれた瞬間に魔力特性(色)が定まる。
それが彼には……通じないのか。
常識が、崩れる音がした。
ここまでの彼の異常な成長速度、思わず――期待してしまった。
<スレイム>
……終わった、はず。
彼の元へ駆けつけようとした、その瞬間。
「さあ、リベンジマッチだよ」
――その声が、空間を震わせた。
耳に届いたのは彼の声。だが、彼の声ではなかった。
寒気が止まらない。
目の前に立つのは、あの竜や狼に立ち向かっていた“彼”ではない。
心が叫んでいた。
――これは、人ではない。
<001>
名無しが必死に戦ってくれたおかげで、
反逆者の戦闘データと経験がすべて流れ込んできた。
魔力を刀に纏わせる技術。
制御不能寸前の半暴走。
そして、再生の理。
この身体の謎……
ようやく、理解できた。
目の前の敵は、殺しても死なない。
ならば――この身体の“最高点”を見せよう。
反逆者の魔力濃度が一気に跳ね上がる。
先程までの戦いが遊びだったと分かる速度で、
幾重にも重なった魔法が押し寄せた。
私は左手を前に出し、魔力を零す。
瞬間――真っ黒な靄が現れ、光さえ飲み込むように攻撃を屈折させ、喰らい尽くした。
相手は驚愕に目を見開いた。
だが、恐怖ではない。理解不能への恐れだ。
私は歩き出す。
一歩、また一歩。
熱が全身を巡る。
右手に魔力を流し込むと、それに応じるように――
遠くに飛ばされていた剣が、吸い寄せられるように手に収まった。
「さあ、楽しく遊ぼう」
久しぶりだ。全力を出せる相手に出会うのは。
この世界の理はまだ分からないが――
私は笑っていた。……たぶん、嬉しそうに。
<反逆者>
再生と“喰らうもの”。
それが彼の能力のはずだ。
……なのに、何をした?
私の魔砲を屈折させ、飲み込んだ?
馬鹿な。覚者何十人分の火力を、どうやって……!?
――面白い。面白すぎる!
全てをぶつけなければ、
この高揚も、私の野望も、成り立たない!
蓄積してきた魔力貯蔵を解放。
<アスモデウス――最終出力形態>。
世界の戦闘史を塗り潰す、一分間を創り出す。
……だがその瞬間。
彼が間合いに入り込んだ。
まるで、空気ごと滑り込むように。
拳。拳が――私の制御核を正確に殴り抜いた。
衝撃が、世界を裏返した。
<スレイム>
そこからの戦いは、圧倒的だった。
ななし(001)は、反逆者の攻撃を受け流すのではなく――“斬り割いていた”。
黒の魔力が溢れるたび、
周囲の瓦礫が浮き上がり、空間が歪む。
剣が、まるで意思を持つように彼の手に張り付く。
あれは……重力?
いや、もっと違う。何か、根源的な“引き寄せ”の力。
本当に――あの子は何なんだ?
そう思った瞬間、
彼の背中に“悲しさ”が見えた。
圧倒的な力を持つ者ほど、孤独だ。
なのに、不思議と――
寄り添って支えたい、そんな背中に見えた。
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