12話 刀身の先は
そこは闘技場のような、コロッセオのような広い空間で、わずか三日間で完成されたものとは思えない代物だった。
「ここが君と私の殺し合う場所だよ!」
非常に興奮した彼の声は、一人しかいない観客席に木霊した。
スレイムが観客席に座り、心配そうにこの戦いを見ている。
そうしている姿を見ると、心臓が詰まるような感覚に襲われる。
(まず今回の戦いが始まる前に絶対に行って欲しいことがある)
心の中から声が響いた。
「なんだ?」
(必ず反逆者の動き、魔力の流れ、その全てに注視しろ)
「わかった、できるだけ見るよ」
そうして僕の戦いが始まった。
<名無し《ななし》>
彼の攻撃は、基本的に複数の魔術と共に重ねてくるように、人型魔石兵装(着ぐるみと呼ぶ)による物理攻撃である。
僕はひたすら001に教えてもらった魔力の流れ、基礎剣術を駆使して相手の攻撃をいなして、一瞬の隙に攻撃を合わせていた。
戦いは交響曲のように、お互いのリズムを上げていく展開であり、僕の狙いは相手の息切れ、魔力切れであった。
しかし一向に相手は魔力を感じさせず、攻撃の波、複雑さが増していく。
僕は必死に学んだ技術で受け流し、防戦一方であったが、流れは変わる。
「飽きてきたよ、更に加速しよう」
男から魔力が着ぐるみに流れ出すと、呼応するように動きが加速し、徐々に僕の目には追えなくなってくる。
(流石にこれはまずくないか? 001?!)
呼びかけに反応はない。寝てるのか?
頭の容量をそこに割いている余裕もなくなり、やがて考えが消え去るほど無意識で剣を振り、受け流す。
その瞬間、相手の外装を斬るが、いかんせん攻撃が通らない。何重にも張られているように感じる。
彼の魔力の高鳴りを察知し、攻撃が来ると予測すると、色々な種類の魔法が重ね合わされた放出が来た。
それに対して、とっておいた切り札を発動させる。
納刀の構えを取り、魔力を剣に集める。斬られた手の傷からまた魔力が流れ込む。
この身体に流し込む感覚は好きになれないとは思うが、今はそんなことを言っている暇ではない。
魔力が回転を繰り返すと、徐々に世界が鈍りだしてきた。
身体に鳴り響く心臓の音、冴える思考。
魔力半暴走――成功した。
ある程度のところまでいくと景色の鈍化はなくなり、それに合わせて目の前の魔力の塊を斬る。
「その魔剣に魔力を流し込む? 身体を変化? 聞いたことも、見たこともない?! 面白い! やはり君は特別だ|名無し!!」
(ここで一気にあれを決めるか? だが隙が、時間がない!!)
戦いは更に苛烈になっていった。
<反逆者>
本当に彼は面白い!
普通、魔力を集めた剣を身体に流し込もうと考えるか?
人間であれば魔力が魔力神経以外を通れば、身体にとてつもない負荷と痛みが流れ出し、戦いどころではない。
これは私自身が試した。だが彼は異世界人……何らかの耐性がついているのか?
気になってしょうがない。彼の身体を実験に回し、更なる戦力増強に回せるのではないか?
本当に、彼が目覚めてからこの放穴に落ち着いた瞬間はない。
ああ、なんて心がときめくのだろう……。
そう思い、魔石兵装≪アスモデウス≫が感情に呼応し、攻撃が激しくなってしまう。
つい魔砲が放たれる。
(やってしまった! 彼が消し炭になる!!)
段々と攻撃のレベルを上げながら、これから先の覚者、超越者との戦いに彼はとても近いと感じていた。
それ以上の戦闘能力を保有している。だからこそ、彼の実力を丸裸にしたかった。
だが惜しい!!
そう思った瞬間、彼の波長が変わった。
咎竜との戦いで見せた変身か……!?
さあ見せてくれ。普通では防ぎようのないほどの魔力の塊をどう対処するのか?
彼は身体から靄を出しながら魔力を斬った。
だが、最後には受けきれずにいた。
土煙は上がり、彼の動きに反応がなかった。
もう終わりか。そう思い冷めた気持ちで煙が消えるのを待っていると――
そこには彼が立っていた。
その眼には諦めるという気持ちは感じさせない。
損傷の激しい身体で両手で剣先を私に向け、深呼吸をしている。
その剣先には魔力が波のように重なり始め、剣は黒く、そして変形し始めている。
あんなに攻撃が通らず、防戦一方だった少年の渾身の一撃……受けてみたい。
私は魔石、魔導回路を防御に回し、今か今かと彼の攻撃を待った。
――空気が止まり、世界が静止する。
そこから先は、誰にも見えなかった。




