古龍の導き
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「……大丈夫よ」
どうなっても、生きていてほしい。ラスターに向けられたその感情と、自分が抱く感情はいつだって一致していた。ディアナだった頃は気づかなかったその感情を、しかしもう自分は絶対に見過ごしたりはしない。
「知ってるでしょう? 私は天才なの」
保護膜を失った、かつての日々のことを思い出す。あの頃の自分は少ない魔力でも、工夫次第で多くの魔術を使っていた。
「それにね、ラスターの傍にいると、精霊力がうまく使えるの」
(だから、大丈夫)
ラスターの、傷口から体内をイメージする。傷ついた部分がリディアの精霊力で少しずつ修復していくイメージを持ち、深く深く矢が刺さった傷口の、奥の部分まで意識を飛ばす。
(こんなに深くまで……)
ラスターの心臓の横、古龍の核が眠っている部分まであと僅かという部分まで傷ついている。その核はラスターの巨大な魔力で覆われているようだった。
核を覆っている魔力はリディアの精霊力をさらりと通し、眠っている古龍の核にリディアの精霊力がわずかに触れる。その瞬間、リディアの精霊力とよく似た――いや、同じ波動を持つ精霊力が微かに波打つのを感じた。そうして波打つ核がリディアの精霊力に引きこまれるように、ゆるゆると崩壊していくのがわかった。
(あ……)
崩壊する核が、核に刻まれた記憶の名残をリディアに見せる。一匹の番と共に空を羽ばたいていた古龍が雄大に空を泳ぐ光景が、鮮明に見えた。
それと同時に、ラスターの中で眠っていた核がようやく自由になれるのを感じた。
リディアの体を通して外に流れていくその精霊力が淡い銀色の光となって、たった今見た光景のように空へと浮かび上がっていく。
(ああ、そうか……やっとわかった)
ラスターが屠ったという古龍は、ラスターの中に埋め込まれた核を持つ古龍の番だったのだ。
愛する者の元へ行きたかったのか、はたまた他に意味があるのか、わからない。
唯一わかるのはラスターとの再会が、古龍の導きだったということだけだ。
「…………ラスター、気分はどう?」
「……平気だ」
治癒を終え、リディアの膝の上で眠っているラスターに声をかける。先ほどよりもラスターの顔色は幾分よくなっていたが、しかし傷は治っても魔力切れが堪えるのだろう。「やせ我慢はよくないわよ」と言うと、「お前もだろう」と苦い顔をされた。
「……顔色が、悪い」
リディアの頬に、手が伸ばされる。実際のところ、今のリディアも倒れる寸前だ。今すぐベッドに飛び込んで、3日間は眠りたい。
「……そうだけど」
先程まで天才ぶっていたというのにやせ我慢を見抜かれて、少々気まずい思いをしながらも、リディアが弁解するように口を開く。
「でも、生きてるでしょう?」
リディアの頬を包むラスターの手を包み込むようにそう言うと、ラスターが泣き出しそうに顔を歪めて、小さく笑った。
「………………うん、そうだな」
噛みしめるようにそう呟いたラスターが、「ディアが生きてる」と言った。
「なあ、ディア。少し耳を貸してくれないか」
「え? いいけど――……っ!?」
ラスターの口元に耳を寄せようと半身を傾けたリディアの後頭部に、ラスターが手を差し伸べる。乱暴ではないけれど少々強引なその動きにリディアが驚いた次の瞬間、ラスターの柔らかな唇が、リディアの唇を塞いだ。
「っ……!?」
声にならない声が漏れる。数秒触れていた唇は名残惜しそうに離れていき、顔を赤くしたリディアを、体を起こしたラスターがまったく悪びれていない表情で見つめていた。
「な、何をしてるの……!」
「知らないのか?」
「ししし、知ってるけど!」
知ってるからこそ、問題なのだ。
触れた唇も、頬も熱い。尋常じゃないほどばくばくしている心臓が破裂するのではないかと、心配になって胸を抑える。
「……嫌だった?」
「……っ」
少し不安そうな顔で見上げられ、リディアは何も言えなくなる。
だって、嫌ではなかったのだ。
何も言えないリディアが顔を赤らめたまま視線を彷徨わせていると、ラスターが微かに笑う気配がする。
「……知っているか? 俺も最近気づいたんだが」
「何を?」
「俺は、ディアが本当に嫌がることはできないんだ」
「…………!」
はっと顔を上げると、ラスターが眩しいものを見るような瞳で、幸せそうに笑っていた。
「それが俺の勘違いというのなら、突き放せばいい」
ラスターがもう一度リディアの頬に手を伸ばし、顔を近づける。突き放すことなんてできないまま、リディアの体が無意識でラスターの唇を待ち受ける。
ふわりと風が吹き、重なった影が落ちる草を優しく揺らした。
18時にエピローグを投稿します。




