ずっと願っていたこと
「――そうだったの」
カールの独白を聞き終えた後、そう呟いたリディアの声音は自分でも驚くほど小さかった。
「何度も本当のことを話そうと思ったが、すべてを知った時お前が危険に近づくだろうと思い言えなかった。私はもう家族を……お前のことも失いたくなかった」
「……」
リディアが赤ん坊としてカールに拾われたその一年後に、ラスターはディアナの唯一の弟子であり五色の瞳を持つ最年少の大魔術師として名を馳せた。
リディアを蘇らせたのがラスターであることに、カールが気づかないはずがない。カールから本当のことを教えてもらったら、記憶が戻らなくてもリディアはラスターを心配して会いに行っただろう。ミラー公爵に接近することだってあり得たと、自分でも思う。
(アレクサンドラ嬢から話を聞いても半信半疑だったけれど……私に古龍の精霊力が満ちているのなら、間違いない。私の死に際、ラスターが無意識に私を蘇生させてくれたんだわ)
あらためて、ラスターが自分を求めてくれていたことを思い知る。
「ラスター殿がリディアの元に訪れた時、ようやくこの時がきたと思ったよ。十六歳になった日から、お前の精霊力はどんどん強くなった。――力に飲み込まれ、いずれ死ぬだろうと思っていた」
その言葉に、ラスターとリディアが同時に息を呑む。しかしカールは目を伏せたまま穏やかな口調で、「しかしリディアは絶対に死なないという、確かな予感があった」と言った。
「ラスター殿。あなたがリディアの元に訪れたとき、その予感は正しかったのだと確信した。――あなたと出会った瞬間、リディアの精霊力は驚くほどに安定した。……おそらくあなたの中にある核とリディアに宿っている精霊力が呼応し、あなたを呼んだのだろう」
リディアの誕生日は、古龍を屠った日だ。ラスターが古龍を倒したことで、ラスターの中にある核が何かに反応したのかもしれない。
カールの言葉を聞いて、しばらく沈黙をしていたリディアが小さく口を開いた。
「……カールおじいちゃん、話してくれて、ここまで育ててくれてありがとう」
リディアがそう言うと、カールが驚いたように目を見開いた。
「カールおじいちゃんがしたことは、良いことじゃないかもしれないけれど……でも、精霊を何よりも大事にするおじいちゃんが、古龍の核を使ってでも生き返らせたいと思うほど愛してくれていたことは……おじいちゃんの家族にとって、とても幸せなことだと思う」
どんな手を使ってでも自分を生き返らせたいと思ってくれていたラスターのことを思い出し、リディアは噛みしめるようにそう言った。
「……ありがとう。私の元にきてくれて」
深く息をついたカールが、かすれた声で呟くように言った。
「……とにかく、すべての元凶がミラー公爵であることはあらためてわかった」
それまで場を見守っていたラスターが、静かな声でそう言った。
「彼にはディアがかけた『主への反逆』の痣がなかったが、自身と背格好が似ている影武者を用意している可能性もある。――俺の考えが足りなかった。今から王宮に戻り、また服をひん剥いて……」
「ラスター」
「……冗談だ」
ラスターの本気が混じった言葉に彼の名前を呼ぶと、ラスターが微妙に目を逸らしたままそう答える。しかしリディアはラスターの顔を見ながら、真面目な顔で大きく頷いた。
「…………それは、いい案かもしれないわ」
「リディア?」
カールがぎょっとした顔をする。そんなカールに向かい、リディアは慌てて「いえ、本当に服をひん剥くわけじゃないのだけれど」と弁解するように言う。
「カールおじいちゃんの家族を犠牲にしたのも、ラスターに古龍の核を埋め込んだのもミラー公爵。今回私の力を本気で見極めようとしていたのも、ミラー公爵。……カールおじいちゃんとそんな面識があるのなら、きっとカールおじいちゃんが私を守るために嘘をついたことも見抜いているはずだと思うの」
リディアがディアナなのだと確信していなければ、おそらくディアナの母や弟を連れてはこなかったはずだ。
不慮の事故と言っていたけれど、きっとあの怪我もミラー公爵の手によるものなのだろう。
「直接会って、何が目的なのかを聞く。ミラー公爵の出方を待って、誰かが脅かされるのはもう嫌だから」
「――……」
リディアの言葉に、ラスターとカールが目を見開く。カールは躊躇うそぶりを見せたが、ラスターは目を伏せたあと――「わかった」とリディアの目をまっすぐに見た。
「行こう」
「……いいの?」
「ああ。執念深いくせに、こそこそと策を弄するような奴を野放しにする意味もない。それに……」
そう言って、ラスターがリディアをぎゅっと抱きしめる。
「!?」
「お前が、もう二度と俺を置いていかないと約束してくれたから。それなら俺は、何だってお前の望みを聞いてやる」
「……」
その言葉に胸がいっぱいになって、照れやはじらいも忘れてラスターの背中に手を回す。
「絶対に置いていかないから、一緒に付き合ってね」
「……もちろん」
耳元で、ラスターが小さく笑った気配がする。リディアから体を離したあと、どこかあどけなさのある心からの笑みをリディアに向けた。
「俺はずっと、お前にそう言ってもらいたかったんだ」




