まだある
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魂の抜けた領主とタイラーを、戻ってきたジャスパーが苦笑しながら屋敷に連れ帰っていった。
「またなにかやらかしたんですね。後でちゃんと話を聞かせてください」
と言いながら。
ジャスパーは、破天荒なキングダム組にすっかり慣れてしまっている。
「うごくかうごかないかは、グレイソンのはんだんしだいとして」
私は容赦なく続ける。
「まだあるのかい、リア」
マークはちょっとうんざりした顔をしたが、ふっとため息をついて、真剣な顔になった。
「ごめん。ちゃんと聞くよ」
「うん。あのね」
ローダライトの件は、訓練まで含めて考えていたから、もういいのだが、マークはもう一つ、グレイソンに提案をしたはずだ。
「マーク、あったかラグりゅうについても、おしえてもいいっていってたでしょ」
「ああ。でも、ご領主もそこまで求めないと思うよ。そもそも、グレイソンにはあったかラグ竜の存在はあまり知られていないだろう、ルーク」
「ええ。ジャスパーは持っていますし、リアが持たせてくれた分は、信頼するものに配ったりはしています。ですが、皆、結界箱と同じように、オールバンスの特殊な技術だと思っていますから、自分たちにも作れるとは思っていないんじゃないでしょうか」
そういえば、ネヴィルでは、おじいさまやおじさまだけでなく、魔道具師の二人からも、ぜひ覚えさせてくれと頼まれたのだった。
でも、グレイソンの魔道具師のタイラーからは、その話はかけらも出てこなかった。
それは、あったかラグ竜のことを知らないか、知っていても自分にできる技術だとは思わなかったということなのだろう。
「リアには、きになることがあって」
領主館の二階から、夜に外を眺めた時に見た、たくさんの鳥たち。
一階を走り回る小さいネズミやウサギ。
「ローダライトはかくほできるようになるとして、マールライトはどうするの?」
「ああ、それはね」
マークが説明してくれた。
「ローダライトは、まず窓枠に使いたいから在庫がないけど、マールライトは魔道具にしか使わないから、問題ないらしいよ」
「じゃあ、ませきは?」
魔道具に最低限必要なものは三つ、ローダライト、マールライト、魔石だ。
私は自分で自分に答えた。
「ごりょうしゅは、いってた。きょぞくがたくさんいるから、ませきはくさるほどある。でもね」
私が聞きたいのは、魔石が足りないかどうかではない。
「まどのそとには、とりやねずみのきょぞくがたくさんいた。そのませきって、つかえるの?」
マークは口を開けたまま固まり、兄さまはあきれたように首を横に振った。
「リアはよく、そんなところまで見ていましたね。さすが魔道具師」
兄さまに魔道具師と言われると、背筋が伸びるような気がする。
「答えは、いいえ、です」
「いいえ……。つまり、ませきにならないの?」
私の質問に、マークが質問で返してきた。
「魔石にならない?」
「ええと、マークは虚族を斬ったことはありましたか?」
兄さまの質問返しだ。
「ないよ。見たことはあるけど」
「そうですか。今度一緒に行きましょう」
マークが嫌だよ、と言う前に、兄さまが笑顔で虚族狩りを決めてしまった。
「ですが、そうではなくて」
兄さまが自分で話を戻した。
「虚族は、ローダライトの剣で斬ると、まるで縮まるかのように魔石になるんです」
兄さまは、おにぎりを作るように、いや、この世界におにぎりなどないのだが、両手で空気をぎゅっと握った。
「その姿は、最後に命を吸ったものを映していると言われますし、実際に虚族が姿を変えるのを、私もリアも見たことがあります」
兄さまの説明は続く。
「人やラグ竜を映した虚族の魔石のほうが大きいですが、その中でも大きさがまちまちなのは、その虚族がどれだけ多くの命を吸ったかによると言われています。これを基本として」
兄さまがまるで先生のようだ。
「リアの言った、鳥やネズミの虚族ですが、普段の狩りではそもそもほとんど出てこないそうです。地元のハンターに聞きました」
「だが、わたしはさかなのきょぞくをみたことがある。あれも小さかったぞ?」
ここでニコがいい質問をした。
魚の虚族をつかもうとして、ハンスに止められたのが印象に残ったのだろう。
「はい。虚族はそもそも、水には近寄らないそうで、魚の虚族もすごく珍しいらしいです。私もニコ殿下もリアも、ミルス湖で目撃しましたが、あれは特定の地域にしか見られない例外と考えてください」
「なるほど。よくわかった」
私もよくわかりました。
「山が焼けたせいで、今まで山でほそぼそと生き物の命を吸っていた虚族が降りてきた、と、グレイソンの皆さんは考えていますし、私もそう思います」
「それで、きょぞくが小さいからませきにならないの?」
「それも、いいえ、です」
兄さまの答えは、また、いいえだった。
「魔石は出ます。ですが、とても小さいんです」
「小さい……」
私が知っているのは、魔道具ように揃えられた魔石ばかりだ。
小さいと言われても、見てみないことには、ちょっと想像がつかない。
「明かりの魔道具にもできないくらいに小さいので、クズ魔石と呼ばれています。ハンターの意欲をそがないためにも、重さで買い取りをしているようですが、後で廃棄するしかないでしょうね」
「そうなんだ。じゃあ」
私が知りたかったのはこれである。
「ローダライトとマールライトはあって、ませきがあるなら、あったかラグりゅうはつくれるけど」
「そうですね。リアがいれば、ですけど」
「でも、ごりょうしゅには、そこまでかんがえるよゆうが、いまはない」
そこで、私はハイ、と手を挙げた。
「聞きたいような聞きたくないような」
兄さまには構わず、私はハイ、と手を挙げたままだ。
「リア、ゆるす」
結局、ニコが指名してくれた。
私は張り切って宣言した。
「ローダライトのポン、や、あったかラグりゅうを、ごりょうしゅがやりたい、というまえに、リアはためしたいことがあります」
「聞きたくない」
「聞きたくない」
大きい人組は拒否の構えだが、ニコはうむと頷いた。
「はなしてみよ」
「殿下!」
「殿下!」
なぜ許可をするのだという、すがるような二人の目に、ニコは片方の眉を上げた。
「きいてもきかなくても、リアはやるぞ。それなら先にきいておいたほうがよい」
マークと兄さまがそろってうなだれたのには納得がいかない。
「クズませきがほんとうにつかえないか、みてみたいの」
「それはよいかんがえだ。わたしもやろう」
「ですよね」
「そんなことだろうと思っていたよ」
というわけで、午前のお手伝いは混乱の中、終わったのだった。
その後、お昼寝から起きたら午後も半ばだった。
「ませき」
むにゃむにゃと起きると、目の前にはローダライトを右手に摘まんだニコが、あきれた目でこちらを見ていた。
「目がさめて、いちばんの一言がませきとはな」
「だってー」
いつもはしゃっきり起きる私だが、なんとなく疲れが残っている。
それにしても、いつもならニコは、先に草摘みに行っているはずなのだが、どうしたのだろう。
「くさつみは?」
「リアの目がさめたら、いっしょにクズませきをみに行こうと思ってな。ついでに、ローダライトをポンしていた」
「ポン」
私はくすくすと笑ってしまったが、ニコの前を見ると、テーブルに二つ、山ができていた。
「つまったローダライトと、ポンしたローダライト?」
「そうだ。リアが言ったことをさんこうにして、ポンできるいちばんよわいまりょくとは、どのくらいかをしらべていたところだ」
「さすがニコ」
一緒に魔道具を作っている仲間だけのことはある。
私と発想がおんなじで、嬉しくなってしまう。
私は眠さをこらえてぴょこりと起き上がった。
「リアがやったのは、明かりのまどうぐくらいのまりょくだったな?」
「うん、そう」
「それよりもよわいまりょくでできたぞ」
胸を張るニコだが、それは本当にすごいことだ。
なぜかというと、私たち魔力の多い者は、弱い魔力を出すのが逆に難しいからだ。
お父様や、マークがそうなので、彼らは魔石を壊しがちである。
だが、私もニコももっと幼いころから魔力の訓練をしてきたので、細かい魔力操作はとくいである。
「ほんと?」
私は急いでベッドから滑り降りた。
私もまだ、魔力の量がどれだけ少なくて済むかは試してみてはいないから、興味がある。
「ただし、じかんはかかる」
「やってみる」
私はニコの隣に椅子を持ってきてよじ登ると、ローダライトの山から一つ、かけらを摘まんだ。
「あかりのまりょく」
これを基準とする。
魔力を当てて少しすると、抵抗が弱くなっていく。
「ポン。ぬけた」
あるいは流れがそろったというべきか。
「ここからよわくしていくよ」
「わたしもやってみよう」
ニコと並んで、注ぐまりょくをどんどん弱くしていく。
「ポン」
「ポン」
明かりの半分くらいの魔力だろうか。
「これいじょうよわくすると」
「じかんがかかりすぎるな」
これが二人で出した結論である。
その時、とんとんと言う音と同時にドアが開いた。
「リアが遅いので見に来ましたよ」
「兄さま、ノックはだいじ」
お父様も兄さまも遠慮がなさすぎる。
特にニコがいるのだから、ノックの後はちゃんと返事を待つべきでしょう。
だが兄さまは気にしない。
「それより、魔石はどうしますか?」
「みにいく!」
「行くぞ!」
小さい魔石に会いに行こう。




