第五話
「ただいま〜」
「おかえり〜香萎。今日は遅かったわね」
母はこちらを訝しげに見てくる。
「うん、ちょっと色々あって」
そういって軽くカメラの入ったケースに触れた。私の動きを見て母が一瞬大きく目を見開いた。
「それ、何?」
少し不思議そうに母が聞いてきた。
「カメラ。今日、写真部を見学したの」
「あら!そうなの!」
私の言葉を聞いた瞬間、母に表情が一気に明るくなった。
「お母さん、喜びすぎ。まだ入部してないからね?」
「そうなの。でも、カメラを借りてくるくらいには楽しかったんでしょ?」
「まあ、多分ね」
「ふふっ、よかったわねぇ」
「もう、わかったから、そこどいて?」
少し笑いながら母をどかし、階段に向かう。
「あ、そうだ!明日お休みだし、どこかおでかけしましょ!カメラを持って!」
「は?」
あまりに急な展開に上っていた階段をできるだけ早く下りた。
「何言ってんの!?」
「まあまあ、考える時間あげるから。夕ご飯の時に教えて?」
「……わかった」
「じゃ、私はご飯作りに戻るわね」
「うん」
母の背を見送ってから部屋に向かった。部屋に着いた途端、無性にカメラに触りたくなってケースから取り出した。
「……少しだけ」
そう言ってファインダーを覗く。いつも見ているはずの小綺麗な部屋が、なぜか違うものに見えた。
「……」
ただ、夢中で撮り続けた。
ようやく我に返ったのは、カメラで微笑む母の姿を捉えた時だった。
「お母さん!?」
あまりのことにいつも以上に大きな声が出てしまう。びっくりしすぎて心臓が止まりそうになってしまった。
「ふふ、そんなに楽しい?」
「いつからいたの!?」
焦りながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「さあ?五分くらいかしら?」
「言ってよぉ」
弱々しい声で話しながら強張っていた体から力を抜いた。
「声かけても反応しなかったわよ?」
「うっ、ごめん……」
「ふふっ、いいのよ。さ、ご飯食べましょ」
「うん」
カメラを机の上に置き母の後ろを急いで着いていく。
「あ、そうだ。明日、どうする?お父さんもいいって言ってたわよ?」
「……行きたい」
母の目をしっかりと見つめてそう言った。自然と手に力が入る。
「……!ふふっ、じゃあ決まりね!」
そんな私を母は驚きつつも見つめてきた。




