第四話
「そういえば今日先輩いなかったなぁ。紹介したかったのに」
「……写真部の人たちってどんな写真撮るの?」
ひんやりとしてきた風に吹かれながら、そう尋ねた。
「お!珍しいね。気になる?」
小林さんがにんまりと微笑みながら目を覗き込んできて、慌てて目を逸らした。
「えっと、うん」
「じゃあ、部室戻ろ!プリントした写真置いてあるんだよね」
そう言って先を行く小林さんの足は、どこか弾んで見えた。
「ふふ、うん」
その様子がどこかおかしくて、つい笑いが溢れる。
「ん?なんか面白いものあった?」
そんな私の様子を見て彼女は不思議そうに首を傾げてくる。
「あ、いや。ご機嫌だなって思って、つい」
「そりゃ、嬉しいよ!だって、写真に興味持ってもらえたんだもん」
「そう」
「あ!そういえば来栖さん、写真部入ってくれる?」
「えっと、どうしよう」
「私的には来栖さん写真部向いてると思うんだけどなぁ?」
いたずらに笑いながらこちらをみてきた。
「……まあ、考えとく」
「そっかぁ。でも意外だな」
少ししょんぼりしながら、唇を尖らせてそう言ってくる。
「なにが?」
「いや、てっきり入部してくれるもんだと思ってたんだもん」
「どうしてそう思うの?」
入部すると思われていたことに驚きつつ、理由が気になりきいてみる。
「え?だって、写真撮ってる来栖さん、めっちゃ良かったから」
「よかったって?」
言っている意味がわからず首を傾げる。
「あはは!よくわかんないか」
「うん」
「よく言われるよ」
「そうなんだ」
「うん!まあ私、ほぼフィーリングでできてるから」
「ふっ、なにそれ」
「あはは!」
そんなことを話すうちにいつのまにか部室についていた。
「部員の写真はそれぞれアルバムに入れてここに入ってるんだ」
「すごいたくさんあるんだね」
「うん、みんなたくさん撮るからね」
「へぇ」
「とりあえずこんなもんかな。好きなの見てみなよ」
「じゃあ、これ」
「お、それ部長のやつだよ」
「……かっこいい」
「だよね!?」
「うん」
写真に写っていた景色は、どこか暗くて冷たかった。見入って、ページをめくっていくとすぐに一冊が終わってしまった。
「終わっちゃった」
「ふふっ、他の先輩のも見る?」
「見たい!」
つい食い気味に答えてしまった。そんな私を見て小林さんがほんのり微笑んだ。
「どれみたい?」
「じゃあ、これ」
「それは副部長のやつだね」
「__!すごい」
「だよね!?よくこんなタイミング撮れるよね」
バスケをする人や、サッカーをする人のシュートの瞬間がカッコよく切り抜かれていた。アルバムを見終わった途端新しいファイルが差し出された。
「で、これが佐藤先輩の」
「かわいい!」
思わず頬を緩める。
「ふふっ、だよね!あの先輩、動物がいたら撮ってるからね」
ほんとに動物が好きなんだな、とカラスの話をした時の様子を思い出しながら思った。
「で、この二つが幽霊部員の先輩のやつ」
「なんで写真撮ってるのに幽霊部員なの?」
ページをめくりながら、不思議に思ったことを聞いた。
「うん。写真撮りに行きすぎてほぼ部室に来ないんだって」
「そうなんだ」
「うん、まあ、行事の前にはふらっと現れるって言ってたけどね」
「じゃあ会ったことないの?」
「いや、一応歓迎会にはいたから」
「そっか」
5冊目のファイルを閉じながら小林さんの方を向く。
「ふふっ、すっかり写真にのめり込んでますねぇ?」
彼女がニコニコとそんな言葉を投げかけてきた。
「え?」
「……ほんとに気づいてないの?」
言っている意味がわからず視線を彷徨わせた。
「……疎いねぇ」
そんなことを言いながら、彼女は呆れたように笑っていた。
「……そんなふうに見える?」
「うん。憶測だけど、見てる限りはのめり込んでるよ」
「そっか」
「で、どうする?入部する?」
「……ちょっと、考えさせて欲しいかな」
「わかった。じゃあ前向きに待ってるよ」
「うん」
「あ、もしよかったらカメラ借りたら?」
「え?」
「これ部の備品ではあるんだけど、みんな自前カメラ使うから余ってるんだよね」
「でも、許可してもらってないし。私、部員でもないし……」
「別に貸していいんじゃない?」
静かに開いた扉の音と共に少し低い声が部室に響いた。
「……!」
思わず振り返ると、扉に片手をかけながら笑う、程よく日焼けした男子生徒が立っていた。
「あ、先輩!こんにちは」
「よっす、小林さん。そっちの子は?」
「今日体験にきてくれた、来栖香萎ちゃんです」
「そうなんだ。俺、槇野海斗って言います」
「あ、来栖香萎です。こんにちは」
「うん、よろしくね。俺一応副部長だし、カメラ貸して部員増えるんなら、部長も喜ぶと思うんだよ」
「じゃあ、来栖さんに貸していいんですか?」
目を輝かせながら小林さんが聞いた。
「おう、いいぞ。来栖さんがカメラ大切に扱う人ならな」
「だって!よかったね、来栖さん!」
「えっと、ありがとうございます。大切に使います」
胸が高鳴るのを感じながら答えた。
「おう!」
ニカッと笑いながら先輩がそう言った。




