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星屑の魔法ときみの名前  作者: 星恋 hosiko


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星屑の魔法ときみの名前8

誰かを特別に思う気持ちは、たぶん最初から綺麗なものじゃない。


 安心したいとか。


 隣にいてほしいとか。


 自分だけを見てほしいとか。


 そういう少し身勝手で、少し苦しい感情が、

 静かに積もっていく。


 近づくほど、不安になる。


 触れられるほど、失うのが怖くなる。


 これは、“好き”という言葉になる前に、

 嫉妬だけが先に形を持ってしまった夜の話。

 最近、視線を感じることが増えた。


 廊下でも。


 教室でも。


 訓練場でも。


 誰かが、こっちを見ている。


「……なんか見られてない?」


「見られてるわね」


 レイナはあっさり答えた。


 昼休み。

 窓際の席。


 当然みたいに隣に座るレイナは、パンを片手に外を眺めている。


「なんでそんな冷静なの」


「慣れてるから」


「私は慣れてないんだけど」


「そのうち慣れる」


 ならない気がする。


 というか、原因たぶん――


「絶対レイナのせいじゃん」


「否定はしない」


 するんだ。


 


 この学園で“天才”と呼ばれてるレイナが、

 最近ずっと私と一緒にいる。


 そりゃ目立つ。


 しかも。


「……また手繋いでる」


「だって離さないし」


「レイナがね」


「あなたもでしょ」


 図星だった。


 


 そのとき。


「ねえ七瀬さん」


 知らない女子が近づいてきた。


「え?」


「今度の合同訓練、一緒の班になったよね?」


「あ、うん」


 明るい子だった。


 人懐っこく笑うタイプ。


「よかったら放課後、先に打ち合わせしない?」


「え、いいけど――」


 


 ぴたり。


 


 隣の空気が止まる。


 


「……レイナ?」


「別に」


 絶対別にじゃない。


 


「レイナ先輩も来ます?」


 その子が悪気なく聞く。


 


 一瞬。


 


 レイナが、笑った。


 


「行かない」


 綺麗な笑顔。


 なのに温度がない。


「ふたりでやれば?」


 


 その言葉を残して、

 レイナは立ち上がる。


 


「え、ちょっ――」


「先行ってる」


 


 振り返らない。


 


 教室を出ていく背中を見ながら、

 胸がざわつく。


 


「……え、私なんかまずかった?」


 隣の子が困った顔をする。


「いや……たぶん私が悪い」


「?」


 わからない。


 でも、わかる。


 


 レイナ、機嫌悪い。


 



 放課後。


 結局、打ち合わせはほとんど頭に入らなかった。


 気づけば、レイナのことばかり考えている。


 


「……帰ろ」


 


 中庭へ向かう。


 たぶんいる。


 なんとなくわかる。


 


 そして。


 


「……いた」


 


 星屑の降る中庭。


 レイナはひとりで立っていた。


 


 銀色の髪が、淡い光を反射している。


 綺麗で。


 でも今日は、少しだけ冷たく見えた。


 


「レイナ」


「なに」


 振り返かない。


 


「怒ってる?」


「別に」


 二回目。


 もう信じない。


 


「絶対怒ってる」


「怒ってない」


「じゃあなんでこっち見ないの」


 


 沈黙。


 


 それから、小さく息を吐く音。


 


「……見たら、たぶんもっと機嫌悪くなるから」


 


 どくん、と心臓が跳ねる。


 


「え」


 


 ゆっくり、レイナが振り返る。


 


 その目は、少しだけ苦しそうだった。


 


「あなた、誰にでもあんな顔するの?」


「……あんな顔?」


「楽しそうに笑って」


 


 責める声じゃない。


 でも。


 静かな熱がある。


 


「別に普通だったよ」


「普通じゃない」


 


 一歩、近づいてくる。


 


「私は、嫌だった」


 


 その言葉が、まっすぐ落ちる。


 


「……レイナ」


「自分でもわかってる」


 小さな声。


「こんなの、おかしいって」


 


 また一歩。


 


「でも、無理」


 


 近い。


 逃げられない。


 


「あなたが他の人といると、落ち着かない」


 


 胸が苦しくなる。


 でも、不思議と嫌じゃない。


 


「……嫉妬してるの?」


 


 聞いた瞬間。


 レイナの目が揺れた。


 


 沈黙。


 


 否定されると思った。


 


 でも。


 


「……してる」


 


 小さく。


 でも、はっきり。


 


 空気が止まる。


 


「っ……」


 


 こんなの。


 反則だ。


 


「ユイ」


「なに」


「あなたが悪い」


「なんで!?」


「無防備だから」


 意味がわからない。


 でも、レイナは真剣だった。


 


「期待する」


 


 その一言が、やけに熱い。


 


「期待って……」


「私だけ見てくれるかもって」


 


 心臓が、うるさい。


 


「でも違ったから、勝手に機嫌悪くなった」


 


 困ったみたいに笑う。


 そんな顔、初めて見た。


 


「……めんどくさいでしょ」


 


 違う。


 


 そんなふうに思えなかった。


 


「……別に」


「え?」


 


 気づけば、私はレイナの制服を掴んでいた。


 


「嫌じゃない」


 


 一瞬。


 レイナの呼吸が止まる。


 


「むしろ……ちょっと嬉しい」


 


 言った瞬間。


 


 ぐいっと腕を引かれる。


 


「っ……!」


 


 気づけば、抱き寄せられていた。


 


 強い。


 でも震えてる。


 


「……それ、簡単に言わないで」


 


 耳元で、低い声。


 


「本当に止まれなくなる」


 


 星屑が、ふわりと舞い上がる。


 


 感情に反応するみたいに。


 


「……レイナ」


「なに」


 


「苦しい」


「……ごめん」


 


 そう言いながら。


 


 少しだけ力が緩む。


 でも、離れない。


 


「でも離したくない」


 


 その声は。


 


 今までで一番、恋だった。


 



 星屑が降る。


 静かに。


 甘く。


 



 もう。


 


 “特別”じゃ誤魔化せないくらいに。


 


 ふたりの距離は、変わってしまっていた。

ここまで読んでくれてありがとう。


 第8話では、ついにレイナが自分の感情を隠しきれなくなりました。


 今までは「距離が近い」「離したくない」という形で表れていた感情が、

 今回ははっきり“嫉妬”として出ています。


 しかもレイナ自身、それを理性的じゃないと理解している。


 だからこそ苦しそうで、

 だからこそ本音が零れてしまう。


 この子はずっと余裕がある側に見えていましたが、

 実際はユイに対してかなり振り回されています。


 むしろ、感情の主導権を握られているのはレイナの方かもしれません。


 一方でユイも、

 「嫌じゃない」「嬉しい」と感じ始めています。


 これはもう、“憧れ”や“特別”だけでは説明できない段階です。


 そして星屑の魔法も、

 ふたりの感情に合わせて明確に反応するようになってきました。


 つまりこの世界では、

 恋心は隠しきれない。


 心が揺れるほど、光も揺れる。


 次の話では、

 その感情がさらに危うい方向へ進んでいきます。


 触れるだけでは足りなくなる距離。


 でも、一歩踏み込めば戻れなくなる距離。


 その境界線を、次はきっと越えかける。

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