星屑の魔法ときみの名前3
最近、少しだけ気づいてしまった。
誰かが隣にいることが、当たり前になっていくということ。
それは安心で、心地よくて――
同時に、少しだけ怖い。
魔法は、才能だけで動くものじゃない。
感情が揺れれば、光も揺れる。
これは、まだ名前のついていない距離が、
少しずつ形を持ち始める話。
最近、気づいたことがある。
レイナは――思っているより、近い。
物理的な意味でもそうだけど、それだけじゃない。
気づけば視線が合うし、気づけば隣にいる。
手を取るのも、もう特別なことじゃなくなってきている。
……それが、少しだけ怖い。
「ねえユイ、集中して」
「してるって」
「してない顔してる」
いつもの中庭。
星屑が、静かに降りてくる時間。
私は両手を広げて、その光を受け止める。
ふわり、と。
前よりも、ずっと自然に集まってくる。
「ほら、できてる」
後ろから、レイナの声。
そして――
背中に、触れる気配。
「っ……!」
「動かないで」
耳元で、低く囁かれる。
気づけば、彼女はすぐ後ろに立っていた。
両手に、そっと自分の手を重ねてくる。
「……こうやって、流れを感じるの」
指が、なぞるみたいに動く。
星屑の軌道を、導くように。
でも、それよりも――
「レイナ、近い」
「さっきも聞いた」
「慣れろって言うんでしょ」
「ええ」
あっさりした声。
でも、離れる気はまったくない。
むしろ少しだけ、距離が縮まる。
「これくらいで乱れるなら、まだまだね」
「……乱れてないし」
「嘘」
くすっと笑う気配。
悔しい。
けど――嫌じゃない。
そのとき。
「ユイー!」
明るい声が割り込んできた。
びくっとして振り返ると、同じクラスの女子が手を振っている。
「今日の課題、一緒にやらない?」
「あ、うん――」
答えようとした瞬間、
後ろの気配が、ぴたりと止まった。
さっきまで重なっていた手が、すっと離れる。
……あれ。
「いいんじゃない?」
レイナの声は、いつも通り。
でもどこか、温度が低い。
「たまには、他の人とやるのも」
「……うん」
なんとなく、胸がざわつく。
理由はわからない。
でも、そのまま私はクラスメイトの方へ歩き出した。
⸻
その日の訓練は、うまくいかなかった。
星屑は集まる。形にもなる。
でも――
「なんか、違うなあ……」
手の中の光が、どこか不安定に揺れる。
「ユイ、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
笑ってみせるけど、自分でもわかる。
さっきまでとは、明らかに違う。
視線が、自然と探してしまう。
でも――
レイナの姿は、どこにもなかった。
⸻
夜。
寮へ戻る途中。
ひとりで歩く廊下は、やけに静かだった。
そのとき。
「……こんなとこで何してるの」
聞き慣れた声。
振り返ると、レイナが壁にもたれていた。
「レイナ……」
「訓練、終わったの?」
「うん」
短い会話。
でも、なぜかぎこちない。
「……楽しかった?」
「え?」
「その子と」
淡々とした声。
でも、少しだけ視線が逸れている。
「普通だよ」
「ふーん」
それだけ言って、黙る。
沈黙が落ちる。
耐えきれなくなって、私は口を開いた。
「レイナ、なんか変」
「別に」
「変だよ」
「変じゃない」
即答。
でも――
「じゃあなんで、いなくなったの」
ぴたり、と空気が止まる。
「……用事あっただけ」
「嘘」
自分でも驚くくらい、はっきり言えた。
レイナの目が、わずかに揺れる。
「ユイ」
「さっきまで教えてくれてたじゃん」
「……」
「急にいなくなるの、やだ」
言ってから、はっとする。
今の、完全に――
子どもみたいな言い方だった。
でも。
もう遅い。
レイナはしばらく黙って、それから小さく息を吐いた。
「……ほんとに鈍い」
「またそれ?」
「自覚ないのが問題なの」
一歩、近づいてくる。
距離が、また詰まる。
「あなたが他の人と楽しそうにしてるの」
「……」
「見てて、面白くないのよ」
その言葉に、心臓が跳ねる。
「それって――」
「言わせないで」
ぴたり、と指が唇に触れる。
静かな制止。
でも、その距離は――
さっきより、ずっと近い。
「……ずるい」
「ええ、知ってる」
少しだけ、笑う気配。
でもその目は、どこか真剣で。
「戻りましょ」
「どこに」
「決まってるでしょ」
当たり前みたいに、手を取られる。
ぎゅっと、今度は少し強めに。
「私のとこ」
その一言が、
やけに特別に聞こえた。
中庭に戻ると、星屑がまた降っていた。
さっきと同じ景色。
でも、違う。
「ほら、やるわよ」
「……うん」
手を重ねる。
今度は、迷いなく。
すると――
光が、一気に集まった。
さっきよりも、ずっと綺麗に。
「……すご」
「でしょ」
少し得意げな声。
「これがあなたの魔法」
そのまま、指が絡む。
自然に。
当たり前みたいに。
「……やっぱりさ」
「なに」
「レイナがいないと、うまくできない」
ぽつりとこぼすと、
一瞬だけ、動きが止まる。
「……それは違うって言ったでしょ」
「でも」
「でもじゃない」
少しだけ、強い声。
それから――
「……ただ」
「?」
「私がいたほうが、もっと上手くいくってだけ」
ほんの少しだけ、照れたみたいな声。
思わず、笑ってしまう。
「なにそれ」
「事実よ」
視線が合う。
逃げない瞳。
近い距離。
絡んだ指。
ほどけないまま。
星屑が降る。
ゆっくり、静かに。
たぶんこれは、魔法のせいじゃない。
隣にいる人のせいだ。
ここまで読んでくれてありがとう。
今回のテーマは「依存の一歩手前の恋」です。
好き、と言葉にするほどはっきりしていないのに、
いないと上手くいかない。
そんな関係って、すごく危うくて、でも一番甘い時間だと思っています。
ユイはまだ自分の気持ちをちゃんと言葉にできません。
レイナもまた、自分の感情を「正しい形」にしようとして迷っています。
でも、ひとつだけ確かなのは――
ふたりとも、もう戻れない距離にいるということです。
星屑は今日も降ります。
それは祝福か、それとも試練か。
たぶん答えは、まだどこにも出ていません。
ただひとつ言えるのは、
このふたりの距離はもう「偶然」ではなくなってきている、ということです。
次に降る星屑が、どんな光になるのか。
もう少しだけ、見届けてもらえたら嬉しいです。




