星屑の魔法ときみの名前2
あの夜から、少しだけ世界が変わった。
星屑はただ降るだけの光じゃなくなって、
誰かと誰かの“距離”に反応するものになった。
手を繋ぐことが、特別じゃなくなっていく。
でもそれは同時に、
“特別になってしまった関係”が、少しずつ形を持ち始めるということでもあった。
これは、星屑の魔法を手にした少女と、
その隣に立ち続けることを選んだ少女の、
まだ名前のつかない関係の続き。
あの夜から、少しだけ世界が変わった。
星屑は、もう私の手からこぼれない。
触れれば、ちゃんと応えてくれる。
まるで――私の中にある“何か”を知っているみたいに。
「ねえユイ」
放課後の中庭。
いつもの場所で、いつもの声。
「今日の訓練、さぼる気?」
「さぼらないよ!」
「顔がそう言ってる」
レイナは呆れたように言いながら、私の隣に腰を下ろす。
……近い。
相変わらず、距離感がおかしい。
「はい、手」
「え?」
「訓練でしょ」
当然みたいに差し出される手。
少し迷ってから、私はそれを取る。
触れた瞬間、
星屑が、ふわりと浮かび上がった。
「……ほら、もうできてる」
「これ、レイナがいるからでしょ」
すると彼女は、少しだけ眉をひそめた。
「それ、違う」
「え?」
「私はきっかけなだけ。使ってるのは、あなたの魔法よ」
まっすぐな声。
逃げ道をくれない言い方。
「……でも」
「でも、じゃない」
指が、きゅっと強く握られる。
「自信、持ちなさい」
その一言が、やけに近くて、やけにあたたかい。
――そのときだった。
「あれ、レイナ先輩?」
知らない声。
振り返ると、上級生らしき女子が立っていた。
「珍しいですね、こんなとこで」
「……なにか用?」
レイナの声が、少しだけ冷たくなる。
「いえ、次の任務のことで――」
そう言いながら、その人は私をちらっと見る。
「……その子、例の?」
空気が、わずかに変わる。
“例の”。
その言葉が、胸に引っかかる。
「関係ないでしょ」
ぴしゃりと、レイナが遮る。
「……ふーん」
興味なさそうに肩をすくめて、その人は去っていった。
静寂が戻る。
「……今のなに」
「気にしなくていい」
即答だった。
でも、その声は少しだけ硬い。
「気になるよ」
「別に、大したことじゃないわ」
そう言いながら、レイナは――手を離そうとした。
反射的に、私は握り返していた。
「……ユイ?」
「離さないって、約束したでしょ」
自分でも驚くくらい、はっきり言えた。
レイナの目が、少し見開かれる。
「それとも、もういいの?」
ほんの少しだけ、意地悪な言い方。
「……よくない」
小さく、でも確かな声。
次の瞬間、ぐいっと腕を引かれる。
「っ、ちょ……!」
気づけば、距離が一気に縮まっていた。
「他の人の前で、そういうこと言わないで」
耳元で、低い声。
「どういうこと?」
「……勘違いされるでしょ」
「何を」
一瞬の沈黙。
「……あなた、ほんと鈍い」
でもその声は、どこか困ったようで、少しだけ甘い。
指が、また絡む。
今度はさっきより、自然に。
「……いい?」
「なにが」
「もう少し、このまま」
珍しく、遠慮がちな言い方。
だから私は、少しだけ笑って答えた。
「いいよ」
その瞬間、
星屑がふたりの周りで静かに光り始める。
まるで、私たちの距離に反応するみたいに。
「ねえ、レイナ」
「なに」
「さっきの“例の”ってさ」
「……」
「もしかして私、有名人?」
一拍。
「ええ、ある意味ね」
「え、なにそれ怖い」
くすっと、レイナが笑う。
「“天才を変えた落ちこぼれ”」
「……は?」
「そう言われてるわよ、あなた」
頭が追いつかない。
「……なにそれ」
「さあね」
レイナは、少しだけ楽しそうに目を細める。
「否定はしないけど」
「しなよ!?」
笑い声が重なる。
そのまま、どちらからともなく距離が少し近づく。
触れている手が、前よりもずっと自然で、
前よりもずっと――離したくないと思えた。
夜が来る。
星屑が、また降り始める。
今度は、ひとりじゃない。
隣には、ちゃんと
同じ光を見てくれる人がいる。
ここまで読んでくれてありがとう。
この第2章の入口は、「関係が完成する前の一番おいしい時間」を意識して書いています。
まだ告白でもなく、でももう友達でもない。
その“名前のない距離”がいちばん綺麗だと思っています。
ユイは少しずつ、自分の力を知っていく。
レイナは少しずつ、自分の感情に気づいていく。
でもどちらも、まだそれを言葉にするのが下手です。
だからこそ、手を繋ぐしかない。
星屑の光は、たぶんそのために降っているのかもしれません。
このふたりの関係がどこに辿り着くのか、
もう少しだけ見届けてもらえたら嬉しいです。
――また、星が降る夜に。




