星屑の魔法ときみの名前19
『星屑の魔法と、きみの名前』第19話
恋人になってから。
レイナは、前よりずっと遠慮がなくなった。
手を繋ぐのは当たり前。
隣にいるのも当たり前。
そして最近は――
「近い」
「そう?」
まったく悪びれず、
レイナが私の肩へ額を預けてくる。
放課後の図書室。
人気の少ない奥の席。
静かな空間なのに、
私の心臓だけが全然静かじゃない。
「……本読めないんだけど」
「読まなくていいじゃない」
「なんで」
「私がいるし」
ずるい。
そういうこと、
さらっと言う。
ページをめくろうとした瞬間。
指先を、捕まえられた。
「っ……!」
「また逃げた」
「逃げてない!」
「さっきから三回くらい避けてる」
図星だった。
だって。
触れられるたび、
変に意識してしまうから。
「ユイ」
「……なに」
「最近、かわいすぎて困る」
「困ってる顔に見えない」
「うん、全然困ってない」
即答。
しかも笑ってる。
悔しい。
レイナが、
絡めた指をゆっくり撫でる。
それだけなのに。
熱が上がる。
「……レイナ」
「なに」
「絶対わざとでしょ」
「何が?」
とぼける声。
でも、
指は離れない。
「ねえ」
レイナが、
少しだけ声を落とす。
「今日、寮の門限遅いの知ってる?」
「……え?」
「だから、まだ一緒にいられる」
どくん。
空気が変わる。
視線が合う。
逃げられない。
というか、
逃げたくない。
「ユイ」
「……なに」
「キスしたい」
真っ直ぐだった。
変に誤魔化さない。
冗談にも逃げない。
だから余計に、
心臓がおかしくなる。
「……ここ図書室」
「知ってる」
「人来たら」
「来ない」
自信満々。
絶対常習犯だこの人。
レイナが、
ゆっくり顔を近づける。
前より自然で。
前より慣れていて。
でも。
前よりずっと、
熱があった。
唇が触れる。
一瞬だけじゃない。
ゆっくり。
確かめるみたいに。
「……っ」
息が揺れる。
近い。
甘い。
頭がぼんやりする。
離れたと思った瞬間。
また触れられる。
「れ、レイナ……」
「なに」
「ちょっと長い……」
「足りない」
低い声。
その一言だけで、
心臓が跳ねる。
指先が、
頬をなぞる。
熱を確かめるみたいに。
「ほんと、赤くなるね」
「……誰のせい」
「私」
また即答。
悔しい。
そのとき。
ふわっ、と。
周囲の星屑が舞い上がった。
「……また」
「反応してるわね」
青白い光が、
本棚の間を漂う。
静かな夜の図書室。
誰にも見つからない場所。
その中心で、
レイナだけがこっちを見ていた。
「ねえ、ユイ」
「……なに」
「もっと触れていい?」
どくん。
聞き方が、
ずるい。
ちゃんと確認するのに、
逃げられない声をしてる。
「……うん」
小さく頷く。
その瞬間。
レイナが、
少しだけ嬉しそうに笑った。
そして。
そっと、
私を引き寄せる。
肩へ回される腕。
近づく体温。
重なる呼吸。
「……好き」
耳元で囁かれる。
熱い。
全部。
「私も……好き」
返した瞬間。
ぎゅっと、
抱きしめられた。
「……もう無理かも」
「え?」
「理性」
「ちょ、ちょっと待って」
くすっと笑う気配。
「安心して」
レイナが、
額をこつんと合わせる。
「ちゃんと大事にするから」
その言葉が、
甘すぎて。
たぶん今、
星屑より私の方が光ってる。
窓の外では、
夜空が静かに揺れていた。
恋はきっと、
触れるたびに深くなる。
戻れないくらいに。




