星屑の魔法ときみの名前18
「好き」が通じ合ったあと、
世界は急に変わる。
……なんてことはなくて。
授業はあるし、
周りはうるさいし、
恋人になっても心臓は全然慣れてくれない。
第18話は、
“付き合った直後のふたり”のお話です。
隠しきれない距離感。
わかりやすすぎる嫉妬。
そして、
前より少し自然になったキス。
甘さ強めで、
かなり恋人らしくなってきた回になっています。
星屑の降る学園で、
少しずつ変わっていくふたりの空気を楽しんでもらえたら嬉しいです。
キスをした翌日。
世界は何も変わっていない。
授業はあるし、
先生は眠そうだし、
星屑はいつも通り空から降ってくる。
……なのに。
私だけが、
全然いつも通りじゃなかった。
「ユイ、ノート逆」
「……へ?」
机を見る。
本当だ。
「……っ」
後ろから小さく笑い声が聞こえた。
振り返らなくてもわかる。
レイナだ。
「昨日のこと思い出してる?」
休み時間。
耳元で囁かれて、
危うく椅子から落ちかけた。
「な、なな何のこと」
「動揺しすぎ」
楽しそう。
絶対わざと。
「別に思い出してないし!」
「ふーん」
レイナは頬杖をついたまま、
じっとこっちを見る。
「じゃあ、キスしたこと忘れた?」
「忘れてない!!」
しまった。
教室が静かになる。
「……」
「……」
「……え、キス?」
終わった。
完全に終わった。
「ち、違っ……!」
「違わないけど」
「レイナ!!?」
さらっと爆弾投げないでほしい。
クラス中がざわつき始める。
「え、マジ?」
「うわ、ほんとだったんだ」
「付き合ってる!?」
「青春だ……」
無理。
今すぐ消えたい。
そんな中。
レイナだけは、
やけに落ち着いていた。
「そんな騒ぐこと?」
「騒ぐでしょ!!」
「だって好きな人とキスしただけよ」
「っ……!」
心臓に悪い。
さらっと言うな。
しかも。
そう言ったあと、
レイナは当然みたいに私の手を握った。
「……レイナ」
「なに」
「ここ教室」
「知ってる」
「人いる」
「見えてる」
なのに離さない。
むしろ指を絡めてくる。
「昨日から思ってたけど」
レイナが小さく笑う。
「ユイ、かわいすぎ」
「うるさい……」
顔が熱い。
絶対真っ赤。
その日の放課後。
「ユイ先輩!」
突然、
知らない後輩に呼び止められた。
「え?」
「この前の実技試験、すごかったです!」
「あ、ありがとう……?」
「よかったら今度、魔法教えてください!」
勢いのある笑顔。
距離が近い。
少し困っていると。
す、と。
後ろから腕が伸びてきた。
「その子、今から私と予定あるから」
低い声。
聞き慣れた声。
振り返るまでもない。
「レイナ?」
後輩がびくっとする。
「あっ、レイナ先輩……」
「ごめんね。この子、結構忙しいの」
笑顔。
なのに圧がすごい。
怖い。
「え、えっと……すみません!」
後輩は逃げるように去っていった。
静寂。
そして。
「……レイナ」
「なに」
「今ちょっと怖かった」
「そう?」
全然自覚ない顔。
でも。
私の腰に回された手は、
まだ離れない。
「……これも人前なんだけど」
「知ってる」
「最近隠す気なくない?」
「今さら隠す必要ある?」
さらっと言う。
それはそうなんだけど。
「……嫉妬した?」
試しに聞いてみる。
すると。
一瞬だけ、
レイナの動きが止まった。
「……した」
「え」
思ったより即答だった。
「だってあの子、距離近かった」
「いや普通だったよ?」
「普通じゃない」
不満そうな声。
珍しい。
レイナがこんなわかりやすいの。
「……ユイは」
「え?」
「誰にでもあんな顔するの?」
「どんな顔?」
「楽しそうな顔」
少し拗ねたみたいな言い方。
その瞬間。
胸の奥が、
きゅっと熱くなる。
「しないよ」
ちゃんと答える。
「レイナだけ」
すると。
レイナが、
ゆっくり目を見開いた。
「……それ、ずるい」
「レイナにだけは言われたくない」
思わず笑う。
すると、
レイナも小さく笑った。
次の瞬間。
ぐいっと腕を引かれる。
「わっ……!」
気づけば、
校舎裏の壁際。
誰もいない場所。
「……レイナ?」
「確認」
「なにを」
「ほんとに私だけか」
真っ直ぐな視線。
逃げ場がない。
でも、
逃げたくない。
「……そうだよ」
答えた瞬間。
レイナが、
ほっとしたみたいに息を吐いた。
「よかった」
その声が、
思っていたよりずっと甘くて。
心臓がまたうるさくなる。
「ねえ、ユイ」
「なに」
「キスしていい?」
どくん。
昨日したばかりなのに。
たったそれだけで、
頭が真っ白になる。
「……聞くんだ」
「聞く」
「なんで」
「大事にしたいから」
その言葉が、
胸に落ちる。
やさしく。
あたたかく。
「……いいよ」
小さく答える。
すると。
レイナが、
少しだけ嬉しそうに笑った。
今度のキスは。
昨日より、
少し長かった。
触れるだけなのに。
息が苦しくなるくらい、
甘かった。
離れたあとも。
指は絡んだまま。
視線も、
熱も、
ほどけない。
星屑が降る。
静かに。
やわらかく。
恋人になった世界は、
思っていたよりずっと眩しかった。
第18話を読んでくださってありがとうございました。
今回のテーマは、
「付き合った後の初期バグ」です。
もう両想い。
もうキスもした。
なのに、
全然平常運転できない。
むしろ前より壊れてます。
特にユイ。
完全にレイナに振り回されています。
ノート逆なの、
かなり好きです。
一方レイナは、
付き合ったことで逆に遠慮が減りました。
前までは、
“まだ関係が曖昧”だったから、
ギリギリで止まっていた。
でも今は違う。
「好きな人」
として触れられる。
だから、
手を繋ぐのも自然だし、
嫉妬も隠さない。
今回の後輩シーンは、
そんなレイナの独占欲がかなり出ています。
本人はわりと無自覚です。
怖いくらい自然に囲い込みます。
でも、
ちゃんと「キスしていい?」って聞くんです。
そこがレイナ。
強引に見えて、
本当に大事なところは絶対に確認する。
ユイを大切にしたい気持ちが、
あの一言に全部出ていました。
そしてユイも、
ちゃんと「いいよ」と返せるようになった。
最初の頃なら、
たぶん恥ずかしさで逃げていました。
でも今は、
照れながらでも受け止められる。
ふたりとも、
ちゃんと前へ進んでいます。
あと今回、
個人的に好きなのは
「恋人になった世界は、思っていたよりずっと眩しかった」
という最後の一文です。
恋って、
何か特別な事件が起きることだけじゃなくて。
手を繋ぐこととか。
名前を呼ばれることとか。
嫉妬されることとか。
そういう小さな出来事全部が、
急に特別になる。
18話は、
そんな“恋人の日常の始まり”を書いた回でした。
でももちろん、
甘いだけでは終わりません。
この先、
ふたりの関係が深くなるほど、
星屑の魔法も変化していきます。
恋と魔法は、
この世界では繋がっているから。
次の夜も、
きっと静かには終わりません。
また星屑の下で、
ふたりの続きを見届けてもらえたら嬉しいです




