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星屑の魔法ときみの名前  作者: 星恋 hosiko


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16/24

星屑の魔法ときみの名前16

 “あと少し”って、

 たぶん恋のいちばん危ない距離だ。


 触れそうで触れない。


 言いそうで言わない。


 でも、

 お互い同じ気持ちだって、

 もう隠せない。


 今回の16話は、

 そんな「寸前」の空気を詰め込んだ回です。


 図書塔の静けさ。


 絡んだ指。


 逃げない視線。


 そして、

 ようやく言葉になった「キスしていい?」。


 今までより、

 少しだけ大人になったふたりの距離を、

 星屑の光と一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。

 夜の図書塔は、静かだ。


 ページをめくる音も、

 遠くで揺れる星屑の光も、

 全部がゆっくり流れている。


 その静けさの中で。


「……ユイ」


 名前を呼ぶ声だけが、

 やけに熱を持って聞こえた。


 私は今、

 レイナの隣に座っている。


 いや。


 正確には――かなり近い。


 肩は触れているし、

 指も繋がったまま。


 しかも。


 レイナが離す気配がまったくない。


「レイナ、本読んでる?」


「読んでる」


「絶対読んでないでしょ」


「半分くらいは」


 だめだ。


 最近、本当に甘い。


 しかも本人が無自覚じゃないのが余計たち悪い。


 ページをめくろうとした瞬間。


 きゅっ。


 指が絡め直される。


「っ……」


「動いた」


「本読みたいんだけど」


「読めばいいでしょ」


「片手使えない」


「問題ないわ」


 どこからその自信来るの。


 でも。


 絡んだ指が、

 妙に落ち着く。


 困る。


「……ねえユイ」


「なに」


 レイナが、

 本から視線を外さないまま呟く。


「今日、ずっと避けてたでしょ」


 どくん。


「避けてない」


「嘘」


 即答。


「昼休み、目合った瞬間逸らした」


「……それは」


「授業中も顔赤かった」


 見られてる。


 全部。


「……だって」


「なに」


 言うか迷う。


 でも。


 レイナは待っている。


 静かに。


「……頬、キスされたの思い出してた」


 一瞬。


 空気が止まる。


 レイナが、

 ゆっくりこちらを見る。


 その目が、

 少しだけ細くなる。


「……かわいい」


「うるさい」


 反射で返す。


 でも、

 声がちょっと震えた。


「そんなに意識してたんだ」


「するでしょ普通!」


「私はもっとした」


 どくん。


「……え」


 レイナが、

 そっと私の手を持ち上げる。


 そして。


 指先へ、

 軽く唇を落とした。


「っ!!?」


 一瞬、

 思考が飛ぶ。


「レイナ!?」


「お返し」


「お返しになってない!」


 顔が熱い。


 絶対真っ赤。


 でも。


 レイナのほうも、

 耳が少し赤かった。


「……ユイ」


「なに」


 静かな声。


 さっきまでより、

 少し低い。


「そろそろ、限界なんだけど」


 心臓が止まりそうになる。


「……なにが」


「理性」


 即答だった。


 逃げ場がない。


 視線が絡む。


 近い。


 近すぎる。


「あなたが無防備すぎるのが悪い」


「知らないよそんなの……!」


「知って」


 レイナが、

 少しだけ身体を寄せる。


 肩が完全に触れる。


 熱い。


「ねえ」


「……なに」


「キス、していい?」


 世界が止まった気がした。


 今までみたいな、

 からかう声じゃない。


 真面目な声。


 ちゃんと確認する声。


 だから。


 余計に、

 心臓が苦しくなる。


「……嫌?」


 小さな声。


 少しだけ不安そうな響き。


 そんな声、

 ずるい。


「……嫌じゃない」


 答える。


 震えながら。


 でも、

 嘘じゃなく。


 一瞬。


 レイナが息を呑む。


 それから、

 そっと私の頬へ触れた。


 優しい指先。


 逃げ道を残すみたいな触れ方。


 でも。


 私はもう、

 逃げなかった。


 ゆっくり。


 ほんの少しずつ、

 距離が縮まる。


 呼吸が重なる。


 目を閉じる。


 その瞬間。


 ぱちっ。


 小さな光が弾けた。


「……え?」


 ふたり同時に目を開ける。


 次の瞬間。


 図書塔いっぱいに、

 星屑が舞い上がった。


「な、なにこれ!?」


「……魔力暴走」


「今!?」


 棚の本が浮く。


 星屑が渦を巻く。


 完全にタイミングがおかしい。


 レイナが、

 一瞬黙って。


 それから。


「……空気読んでほしい」


 真顔で言った。


「私に言われても!?」


 そのまま、

 大きな光がふわっと弾ける。


 まるで祝福みたいに。


 図書塔全体が、

 淡く光に包まれていく。


 そして。


 遠くから、

 誰かの悲鳴。


「なにこの光!?」

「またレイナ先輩たち!?」

「絶対なんかしてる!!」


「……逃げる?」


 レイナが小さく笑う。


「……うん」


 顔を見合わせる。


 そして。


 どちらからともなく、

 吹き出した。


 繋いだ手は、

 まだ熱いまま。


 キスはできなかった。


 でも。


 たぶん。


 もう、お互い同じ気持ちだった。


 星屑が降る。


 静かに。


 甘く。


 触れる寸前の熱を、

 包み込むみたいに。


 恋はきっと、

 あと少しで名前を変える。


 もう。


 “好き”だけじゃ、

 足りないくらいに。

第16話を読んでくださってありがとうございました。


 今回はかなり、

 “止まりかけた理性”をテーマにした回でした。


 今までのレイナは、

 余裕がある側でした。


 からかって、

 焦らして、

 最後の一歩だけ踏み込まない。


 でも今回は違います。


 「そろそろ限界」

 と、自分で口にしてしまった。


 つまり、

 レイナ自身もかなり余裕がなくなってきている。


 ユイに触れたい。


 もっと近づきたい。


 でも、

 大事だからこそ、

 ちゃんと確認したい。


 その感情が、

 今回の「キス、していい?」に全部詰まっています。


 このふたり、

 勢いだけでは進まないんです。


 ちゃんと相手を見て、

 ちゃんと待つ。


 だからこそ、

 一歩進むたびに重みがある。


 一方のユイも、

 かなり変わりました。


 最初なら、

 絶対逃げていた距離。


 でも今回は、

 目を閉じて、

 逃げなかった。


 それはもう、

 覚悟を決め始めているということです。


 そして。


 まさかの星屑暴走。


 タイミングが最悪すぎます。


 でも、

 あの現象にはちゃんと意味があります。


 星屑は感情に反応する。


 つまり、

 ふたりの魔力が共鳴するくらい、

 気持ちが高まっていた。


 恋心そのものが、

 空間に溢れたような状態です。


 図書塔、

 完全に巻き込まれました。


 あと今回、

 少しだけコメディ寄りにしたのは、

 “寸前の緊張”をやわらげたかったからです。


 甘いだけじゃなく、

 笑える空気があることで、

 ふたりらしさが出る気がしていて。


 逃げながら笑い合う最後のシーンは、

 かなりお気に入りです。


 そして、

 キスはまだしていません。


 でも。


 もう、

 秒読みです。


 たぶん次は、

 今までみたいに簡単には止まれない。


 触れたい気持ちも。


 独占したい気持ちも。


 全部、

 前より強くなっているから。


 星屑の降る夜は、

 まだ終わりません。


 また次の光の下で、

 ふたりの続きを見届けてもらえたら嬉しいです!

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