星屑の魔法ときみの名前15
恋って、
「好き」と言い合った瞬間に完成するわけじゃない。
むしろそこから、
少しずつ変わっていく。
触れ方も。
視線も。
距離の詰め方も。
前は緊張していたことが、
気づけば自然になっていて。
でも、
自然になったはずなのに、
前よりずっとドキドキしてしまう。
今回の15話は、
そんな“恋人になったあとの甘さ”をたっぷり詰めた回です。
甘やかして。
焦らして。
でもちゃんと大事にしている。
そんなレイナと、
少しずつ“触れられること”に慣れていくユイ。
星屑の降る図書塔で、
ふたりの距離はまた静かに近づいていきます。
最近。
レイナが、やたら触れてくる。
⸻
「ユイ」
「なに」
返事をした瞬間。
さら、と。
髪を耳にかけられた。
「……なんで触ったの」
「髪、跳ねてた」
平然。
しかも、
触ったあとも指が離れない。
「レイナ」
「なに」
「近い」
「今日だけで五回目」
数えてるの?
怖いんだけど。
⸻
放課後。
図書塔。
窓から差し込む夕暮れと、
静かに漂う星屑。
最近、
ここがふたりの定位置になっていた。
「……疲れた」
本を閉じて机に突っ伏す。
すると。
こつん。
頭に軽く何かが当たった。
「?」
顔を上げると、
レイナが小さな瓶を揺らしている。
「星糖」
「なにそれ」
「星屑を加工したお菓子」
ころん、と。
透明な飴みたいな粒が掌に落ちる。
「甘いわよ」
「へえ」
口に入れる。
しゃり、と溶けて。
ふわっと、
花みたいな甘さが広がった。
「……おいしい」
「でしょ」
少し得意げ。
なんか悔しい。
⸻
「それ、レイナが作ったの?」
「そう」
「器用……」
「ユイにも作れるわよ」
「無理」
「できる」
即答。
最近、
本当に迷いなく肯定してくる。
「レイナってさ」
「なに」
「私に甘くない?」
一瞬。
レイナが本を閉じた。
「今さら気づいたの?」
「自覚あったんだ」
「好きな人には甘いわよ」
ど直球。
「っ……」
無理。
心臓に悪い。
⸻
レイナが、
机に頬杖をついたままこちらを見る。
静かな視線。
逃げられない。
「ユイ」
「……なに」
「顔赤い」
「レイナのせい」
「知ってる」
絶対楽しんでる。
でも。
その目が優しくて、
嫌になれない。
⸻
「……ねえ」
「なに」
「こっち来て」
レイナが、
軽く指を動かす。
「なんで」
「いいから」
怪しい。
でも。
断れる空気じゃない。
椅子を少し寄せる。
すると。
ぐい。
「っ!?」
一気に腕を引かれた。
気づけば。
レイナの膝の上。
「なっ……!?」
「静かに」
腰を支えられる。
逃げられない。
「レイナ!?」
「暴れると落ちる」
「そういう問題じゃなくて!」
耳元で、
小さく笑う気配。
「前からやってみたかった」
「何その理由!?」
⸻
でも。
抱き込まれるみたいな体勢なのに。
不思議と、
怖くはなかった。
むしろ。
心臓はうるさいのに、
安心してしまう。
「……ユイ」
「なに」
後ろから、
ぎゅっと抱きしめられる。
「好き」
どくん。
あまりにも自然に言われて、
一瞬理解が遅れた。
「……急に言うのずるい」
「言いたかったから」
頬に、
さらりと銀髪が触れる。
くすぐったい。
でも。
離れたくない。
⸻
「レイナ」
「なに」
「重い」
「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃあ降りる?」
一瞬。
迷う。
その沈黙だけで、
全部伝わったらしい。
「……かわいい」
「うるさい」
⸻
そのとき。
窓の外で、
星屑が強く光った。
ふわり、と。
淡い粒子が、
図書塔の中まで流れ込んでくる。
「……綺麗」
思わず呟く。
すると。
後ろから、
レイナの声。
「ねえユイ」
「なに」
「今、キスしたら」
心臓が止まりそうになる。
「……怒る?」
低い声。
近すぎる熱。
耳が熱い。
「……最近そればっかり聞く」
「ちゃんと嫌がってないか確認してるの」
少し真面目な声。
だから。
余計に、
心臓が苦しくなる。
⸻
「……嫌じゃない」
小さく答える。
一瞬。
抱きしめる腕に、
少し力が入った。
「……そっか」
安堵したみたいな声。
そのまま。
レイナの指が、
そっと私の顎に触れる。
ゆっくり。
逃げられるくらい、
優しく。
でも――
逃げたくない。
⸻
距離が縮まる。
呼吸が重なる。
星屑が、
ふたりの周りで静かに揺れる。
「……ユイ」
「なに」
囁き声。
近い。
近すぎる。
⸻
そして。
⸻
柔らかい感触が、
頬にそっと触れた。
⸻
「……え」
一瞬、
思考が止まる。
触れた場所が熱い。
レイナが、
ほんの少しだけ離れる。
「……今日はここ」
また。
また焦らされた。
「レイナ……!」
振り返ると、
レイナは楽しそうに笑っている。
でも。
その耳は少し赤い。
⸻
「続き、期待した?」
「っ〜〜〜!!」
「顔真っ赤」
「誰のせい!」
笑い声が重なる。
でも。
そのあと。
レイナは、
そっと私の肩へ額を預けた。
「……もう少しだけ、このまま」
珍しく、
少し甘えるみたいな声。
だから私は。
小さく笑って、
その手を握り返した。
「……うん」
⸻
星屑が降る。
静かに。
やわらかく。
恋はきっと、
少しずつ体温を覚えていく。
触れたいとか。
離れたくないとか。
言葉にできない感情ごと。
全部抱えながら。
ふたりの距離は、
今日もまた少しだけ近づいていた。
第15話を読んでくださってありがとうございました。
今回はかなり“体温”を意識して書いた回でした。
膝の上。
後ろから抱きしめる腕。
耳元の声。
頬へのキス。
今までよりも、
明確に“恋人の触れ方”になってきています。
でも、
このふたりはまだ、
完全には踏み込みきっていない。
だからこそ、
その寸前の空気がいちばん甘い。
今回のレイナは、
かなり余裕があるように見えて、
実はちゃんと緊張しています。
特に、
「嫌じゃない?」を毎回確認しているところ。
あれはただのからかいじゃなくて、
ユイを大切にしている証拠です。
自分の気持ちだけで突き進まない。
ちゃんと、
ユイの気持ちも確かめながら近づいている。
だから、
レイナの触れ方は強引に見えて、
どこか優しい。
一方でユイも、
かなり変わってきました。
前なら真っ赤になって逃げていた距離でも、
今は“離れたくない”と思っている。
膝の上からすぐ降りなかったのも、
その変化のひとつです。
もう、
触れられることが怖いんじゃない。
むしろ、
安心してしまっている。
その状態が、
レイナにとってはかなり危険です。
今回の最後、
レイナが額じゃなく頬にキスしたのも、
ちゃんと意味があります。
少しずつ。
でも確実に。
ふたりの距離は“次”へ向かっている。
そしてたぶん、
もうお互い、
その続きを望み始めている。
星屑は、
感情に反応して光ります。
つまり最近の中庭や図書塔は、
かなり危険な状態です。
甘さも。
熱も。
全部、
前より強くなっている。
次の夜には、
きっとまた新しい感情が降ってくる。
独占欲かもしれない。
嫉妬かもしれない。
あるいは――
もう止まれなくなる瞬間かもしれません。
また続きを、
一緒に見届けてもらえたら嬉しいです!




