星屑の魔法ときみの名前14
恋人になったあとって、
きっと「好き」が落ち着くわけじゃない。
むしろ逆で。
隣にいることに慣れてくるほど、
触れたい気持ちは増えていく。
甘やかしたい。
独占したい。
安心させたい。
そんな感情が、
少しずつ自然になっていく。
今回の14話は、
“付き合ったあとの距離感”をテーマにしたお話です。
手を繋ぐことも、
寄りかかることも、
もう特別じゃない。
でも、
だからこそ生まれるドキドキがある。
星屑の降る学園で、
今日もふたりは、
少しずつ恋人らしくなっていきます。
最近。
レイナが、私を甘やかしすぎる。
⸻
「ユイ、眠そう」
朝。
教室へ入った瞬間、
レイナがそう言った。
「……ちょっと寝不足」
「なんで」
「昨日レポート終わんなくて」
席に座った途端。
こつん。
額に、何かが当たる。
「……え?」
見ると、
小さな星屑が淡く光っていた。
「集中力を少し安定させる魔法」
レイナは平然と言う。
「便利でしょ」
「いや便利だけど」
なんでそんな自然に使うの。
しかも。
「寝る?」
「へ?」
「授業始まるまで」
ぽんぽん、と。
自分の肩を軽く叩く。
「……え」
「貸してあげる」
さらっと言った。
教室で。
普通に人いるのに。
「レイナ!」
「なに」
「ここ教室!」
「知ってる」
「見られる!」
「もう今さらでしょ」
……否定できない。
最近、
私たちのことを知らない人のほうが少ない。
「ほら」
レイナが少しだけ肩を寄せる。
「倒れそうな顔してる」
「そんな顔してないし」
「してる」
じっと見つめられる。
その視線が優しくて。
結局。
私は観念した。
「……ちょっとだけ」
「うん」
⸻
そっと頭を預ける。
制服越しに伝わる体温。
近い。
でも、
安心する。
「……ほんとに寝そう」
「寝ていいわよ」
レイナの声が近い。
そのまま。
さら、と。
髪を撫でられる。
「っ……!」
「静かに」
「いやびっくりするでしょ」
「触りたかった」
最近ストレートすぎる。
でも。
その撫で方が優しくて、
文句を言う気が少し削られる。
「レイナって、付き合ってから変わったよね」
「そう?」
「前より甘い」
一瞬。
レイナが少しだけ黙る。
「……だって、恋人だもの」
どくん。
「好きな人なら甘やかしたい」
そう言って、
また髪を撫でる。
だめだ。
心臓に悪い。
⸻
そのとき。
「……失礼しまーす」
教室の扉が開く。
クラスメイトたちが入ってきた。
そして。
一瞬で止まる。
「……え」
「なにこれ」
「朝から供給強すぎない?」
全部聞こえてる。
「ち、違っ……!」
慌てて離れようとすると。
ぐい。
レイナの腕が、
腰を軽く引き寄せた。
「っ!?」
「まだ時間あるでしょ」
逃がさない気満々。
「レイナ!!」
周りから悲鳴みたいな声が上がる。
「えっ待って何今の」
「距離近すぎ」
「無理尊い」
やめて。
本当にやめて。
顔から火が出そう。
⸻
昼休み。
「……死ぬかと思った」
机に突っ伏す。
すると。
隣でレイナが小さく笑った。
「そんなに?」
「そんなに!」
じとっと睨む。
「レイナ絶対楽しんでた」
「少しは」
「少しかなあ!?」
でも。
レイナはふいに真面目な顔になる。
「……嫌だった?」
静かな声。
一瞬で、
胸がきゅっとなる。
「……嫌じゃない」
本音だった。
恥ずかしいけど。
でも、
嫌じゃない。
「ただ、慣れないだけ」
答えると。
レイナは、
少しだけ安心したみたいに笑った。
「よかった」
その笑顔が、
妙に優しくて。
また心臓が跳ねる。
⸻
放課後。
中庭。
星屑が、
静かに降り始めている。
「ねえユイ」
「なに」
レイナが、
私の手を取る。
絡む指。
もう慣れたはずなのに、
やっぱり少し緊張する。
「今日、ずっと思ってた」
「何を?」
星屑の光が、
レイナの銀髪に溶ける。
「あなたが可愛すぎて困る」
「は!?」
反射で変な声が出た。
「な、なんで急に」
「朝、肩に寄りかかってきたとき」
レイナが少しだけ目を細める。
「安心した顔してた」
どくん。
「……反則だった」
低い声。
熱を含んだ声。
そのまま、
ゆっくり距離が近づく。
「レイナ」
「なに」
「近い」
「知ってる」
もう、
最近そればっかりだ。
でも。
嫌じゃない。
むしろ――
もっと近づいてほしいって、
少し思ってしまう。
⸻
レイナの指が、
そっと私の頬へ触れる。
「……ユイ」
「なに」
呼吸が近い。
星屑が、
ふたりの周りで淡く揺れる。
「今、キスしたら怒る?」
どくん。
心臓が大きく跳ねた。
「……それ聞くのずるい」
「じゃあ答えて」
真っ直ぐな瞳。
逃げ道なんて、
最初からない。
「……怒らない」
小さく答えると。
レイナは、
少しだけ嬉しそうに笑った。
「そっか」
その声が甘くて。
次の瞬間。
額へ、
そっと唇が触れた。
「……っ」
一瞬。
でも、
熱は長く残る。
「今日はここまで」
「またそれ……」
くすっと笑うレイナ。
悔しい。
でも。
触れた場所が熱くて、
何も言い返せない。
⸻
星屑が降る。
やわらかく。
静かに。
恋を知ってから、
世界は少しずつ変わっていく。
触れる意味も。
見つめ合う時間も。
全部。
前よりずっと、
甘くなっていた。
第14話を読んでくださってありがとうございました。
今回はかなり「甘やかし回」でした。
今までのレイナは、
どちらかというと余裕のある天才ポジションで、
ユイをからかったり翻弄したりすることが多かった。
でも恋人になってからは、
“好きな人を甘やかしたい”
という感情がどんどん前に出てきています。
肩を貸したり、
髪を撫でたり、
自然に引き寄せたり。
本人はかなり無自覚にやっている部分もあります。
そして、
それに少しずつ慣れてしまっているユイも大事な変化です。
最初なら真っ赤になって逃げていた距離感でも、
今は「恥ずかしいけど離れたくない」と思っている。
この変化が、
ふたりの関係をより恋人らしくしている気がします。
今回特に書きたかったのは、
“安心して寄りかかれる恋”です。
激しい展開じゃなくても、
肩に頭を預けるだけで幸せだったり、
撫でられるだけで心が落ち着いたりする。
そういう静かな甘さを、
星屑の空気と一緒に描きたかった回でした。
そして最後。
また額へのキスで終わりました。
レイナ、
完全にわかって焦らしています。
でも、
ちゃんと理由もある。
大切だからこそ、
一歩ずつ進みたい。
勢いじゃなく、
ちゃんと“好き”を積み重ねながら近づいていきたい。
そんな気持ちも、
あの「今日はここまで」に込めています。
ただ。
そろそろ、
レイナの理性も限界が近いです。
ユイもかなり無防備になってきています。
だから次の夜は、
もっと危ない距離になるかもしれません。
星屑の光が降るたびに、
ふたりの恋は少しずつ熱を帯びていく。
その続きを、
また一緒に見届けてもらえたら嬉しいです!




